「中長期の経済財政に関する試算」(「内閣府HP」より)
安倍政権「経済再生ケース」に暗雲?今年度GDP目標、毎四半期+1%は高いハードルか
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141021-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 10月21日(火)6時0分配信
安倍政権は、内閣府が2014年7月25日に公表した「中長期の経済財政に関する試算」に基づき、13−22年度の実質GDP成長率を年率平均で2%にする「経済再生ケース」を目標(標準ケース)に設定し、その実現を目指している。例えば、13年度の目標は年率2.3%、14年度は年率1.2%としている。このうち、内閣府の統計データによると13年度の実質GDP成長率は年率2.3%程度となり、安倍政権は13年度で目標を達成したことになる。
だが、13年度の成長率には注意が必要である。というのは、12年度末に策定された10兆円規模の補正予算や14年4月の消費増税前の駆け込み需要が、成長率をかさ上げしているからだ。他方、14年4月以降は、消費増税に伴う反動減が成長率を押し下げる。このため、14年度の実質GDP成長率の目標は13年度よりも低めの年率1.2%を見込んでいる。しかし、四半期ベースで、14年4−6月期の実質GDP成長率(季節調整値)は、内閣府が8月に公表した1次速報で前期比1.7%減、9月に公表した2次速報で1.8%減の下方修正となり、東日本大震災の11年1−3月期を上回る落ち込みとなった。メディア等では「想定を上回る落ち込み」として、増税に伴う景気の腰折れを懸念し、政権が14年度の成長率1.2%の年率目標を達成できるか否かに関心が集まっている。
では、14年度の成長率1.2%の年率目標を達成可能とする四半期ベースの成長率は、前期比でいくらか。
まず、14年度の4−6月の実質GDP成長率は前期比1.8%減であるから、7−9月の実質GDP成長率、10−12月の実質GDP成長率、15年1−3月の実質GDP成長率を各々○%とすると、「1.2%=○%×3−1.2%」が成立する必要がある。これを解くと、○は前期比+1%となる。つまり、14年度の残りの3四半期の実質GDP成長率が前期比で平均+1%以上を実現できれば、政権は14年度の年率目標を達成できることになる。
●現実的ではない14年度の経済成長目標
しかし、これは相当高いハードルだ。なぜなら、00年代の実質GDP成長率(年平均変化率)は1.4%(リーマン・ブラザーズ破綻後の金融危機の影響を除くため、00年−08年の平均を取った場合。09年も含めると0.7%)であるためだ。年率1.4%という成長率は、「中長期の経済財政に関する試算」において、13−22年度の実質GDP成長率が年率平均1.2%と想定する「参考ケース」に近い。また、年率1.4%という成長率は、四半期データで表現すると、前期比+0.35%(=1.4%÷4)となる。前期比0.35%は、上記で試算した前期比+1%以上の条件を遥かに下回る。つまり、年率1.2%という14年度の成長は現実的ではない。
では、14年度の残りの3四半期の実質GDP成長率が00年代と同じ値、つまり前期比で平均+0.35%であれば、14年度の実質GDP成長率は年率でどうなるか。14年度の実質GDP成長率は年率でマイナスとなり、0.75%減(=0.35%×3−1.8%)となる。
もっとも、14年7−9月期の実質GDPは増税の反動減に対するリバウンドで大幅なプラス成長が予想され、今回は5.5兆円の補正予算もある。GDPの4−6月期2次速報では、公的資本形成の伸びがマイナスで、反動減対策として予算の前倒し執行を試みた割には十分進捗していなかったことが明らかになった。だが、それは工事の進捗に応じた出来高でみるGDP統計ではラグが生じるためであり、逆に経済対策の効果が7−9月期以降に表れることを意味する。
このような影響を含め、14年度の実質GDP成長率が年率でプラスになるためには、上記と同様の計算で、14年度の残りの3四半期の実質GDP成長率が前期比で平均+0.6%以上である必要がある。
●トレンド成長率低下は「自然な姿」
ところで、年率1.4%(四半期ベースで前期比+0.35%)というトレンド成長率は低すぎるという意見もあろう。だが、経常収支の黒字縮小や継続する貿易赤字から明らかなように、日本経済の構造変化により、異次元緩和で円安が進んでも国内生産能力の低下や世界経済の停滞から実質輸出が伸び悩む一方で、円安による輸入インフレが家計の実質所得を目減りさせている。むしろ低成長の原因は供給側の制約も大きい。高度成長期は、人口増や高貯蓄を背景とする労働人口や資本ストックの増加が成長の牽引となった。
だが、急速な少子高齢化に伴う人口減や貯蓄率の低下により、労働力の減少や民間の純資本ストック(粗資本ストック−資本減耗)の伸び鈍化が顕在化しつつある。現状では、生産性が上昇しない限り、トレンド成長率が低下してしまうのは自然な姿である。年末の再増税判断を含め、正しい政策を推進するには、日本経済の実力を十分に認識した成長目標の設定が重要となる。
小黒一正/法政大学経済学部准教授