円安善悪論争は無意味?正しい「景況感」とは?二極化する日本経済、実態の把握困難に
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141015-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 10月15日(水)0時10分配信
ドル円相場が1ドル110円をつけるなど円安が加速している。それを受けて、経済界や市場関係者の間で円安をめぐる議論が熱を帯びてきた。これ以上の円安は日本経済にとってプラスなのか、という議論である。無論、ものごとには常にメリット・デメリット両面があるので、「(円安は)良い・悪い」の二元論で決着がつくような話ではない。「デメリットもあるが、日本経済全体で見れば現時点ではメリットのほうがまだ大きい」というのがコンセンサスのように思われる。
メリット・デメリット両面がある、と述べたが、正確にいえば、恩恵に浴する側があり、不利益を被る側がある。だから、「日本経済全体で見れば」とか「(メリット・デメリットを)ネットアウト(相殺)すれば」というのは実体のない議論である。「日本経済全体」という主体も、相殺された主体もないからである。
「現在の円安水準では、まだメリットのほうが大きい」というのは、大企業製造業などグローバルプレーヤーの視点に立った意見だろう。円安にもかかわらず日本からの輸出が伸びないが、それは長く続いた円高に対応するため製造業の海外生産移管が進んだせいである。よって、以前に比べて円安の効果は限られるものの、韓国企業等ライバルとの価格競争力は確実に増すし、円換算の収益が増加し、為替差益が企業業績を押し上げる。海外でビジネスを行っている企業にとっては、円安はメリットのほうが大きいことは明らかである。
一方、内需企業にとっては円安はメリットがないばかりか、デメリットが大きい。消費増税後の落ち込みからの持ち直しが鈍いところに、輸入コスト増で値上げを強いられる。さらに人手不足による人件費高騰も追い打ちをかける。
●鮮明になる二極化の構図
好調な外需・製造業と低迷する内需・非製造業という二極化の構図が鮮明になっている。9月の日銀短観の結果も、それを裏付ける内容だった。大企業非製造業の業況判断DI(景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた数値)は前回調査から大きく落ち込んだ一方、大企業製造業のDIは、低下を見込んでいた市場予想に反して改善を示した。
ところがDIが改善したのは「大企業」の製造業だけであり、中堅・中小企業は製造業であってもDIは悪化している。二極化は、外需・製造業vs.内需・非製造業という構図だけでなく、大企業vs.中小企業、都市部vs.地方、といろいろなアングルで捉えるべきであろう。同じ内需の家電販売業界でも都心店舗中心に会社員や訪日客向けに高額品を売って最高益をあげたビックカメラと、地方・郊外店が主体のヤマダ電機が苦戦する構図は、まさに都市部vs.地方の勢いの差を著している。
●把握が難しい景況感の実態
東証一部の時価総額比率は、製造業が半分、非製造業が3割、残りが金融業である。製造業:非製造業:金融業の時価総額比率、5:3:2はそっくりそのまま利益額の比率でもある。上場企業の時価総額と利益で見れば、半分が製造業だ。しかし、日本全国、中小企業も含めた会社の「数」では、製造業の比率は1割に満たない。圧倒的な大多数は国内のローカルなサービス産業である。繰り返すが、彼らにとっては円安メリットがないばかりか、輸入コスト増でデメリットのほうが大きい。
グローバルプレーヤーが主役の上場企業の視点に立つか、大多数の内需産業主体の国内景気の視点に立つかで、円安の捉え方は180度違ってくる。代表的な景気指標のGDPはGross Domestic Product、文字通りDomestic(国内)の景気動向を表す指標だ。いくらグローバル企業が海外で稼いでも、輸出が増えなければGDPにはカウントされない。これからは国内景気が低迷する一方、グローバル企業が引っ張って上場企業の業績はそこそこ好調、ということが起こり得る。ひとくちに「景況感」といっても、実態を捉えるのがより難しくなるだろう。
こうしたなかで安倍晋三首相は、来年10月に再度消費税の引き上げを予定通り行うか否かの判断を、年末までに決定する。安倍首相が耳を傾けるのは、どちら側の声だろうか。
広木隆/マネックス証券チーフ・ストラテジスト