井上工業は100円ショップ向けのサンリオ商品で市場をほぼ独占していた(撮影:尾形文繁)
老舗企業の破産が映す、「100均業界」の激動 「デフレの勝ち組」と呼ばれた業界に異変
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2014年10月12日 岡本 享:東洋経済 編集局記者
100円グッズの老舗の破綻は何を意味しているのか。100円ショップ向けに、各種キャラクターをあしらった卓上用品などを製造・販売していた井上工業が9月24日、事業を停止し、自己破産の申請準備に入った。
同社は1973年に設立。もともと若狭塗りばしを製造・販売していたが、ディズニーなどのライセンスを取得した後は、100円ショップを主な取引先として事業基盤を拡大した。
特に、100円ショップ向けのサンリオ商品はほぼ独占状態。セリア、キャンドゥ、ワッツなど大手各社に納入していた。中でも「ザ・ダイソー」を運営する100円ショップ首位の大創産業向けは、売上高の過半を占めていた。
■ダイソーと重なる井上工業の盛衰
ピーク時の2007年7月期には売上高を46億円超まで伸ばしたが、以降は減少傾向をたどり、2010年7月期の売上高は25億円までダウン。実は、この業績推移は、大創産業の動きとほぼ重なる。
100円ショップ業界は1989年の消費税導入後、消費者の節約志向を追い風に急成長。宝探しのようなワクワク感と目新しさが人気の理由だった。
が、2008年のリーマンショック以降、デフレが深刻化すると、スーパーやドラッグストアなどが目玉商品を100円未満に値下げする戦略を取り始め、価格競争力を失った。大創産業は今も業界首位の座を守っているが、国内の既存店は減収トレンドが続いているとみられる。
こうした中で、井上工業は量販店やドラッグストアなどにも販路を広げ、生き残りを図った。しかし、依然として最大の取引先だった100円ショップへの即納体制を整えるため、見込み生産が常態化。信用調査会社によると、その結果、在庫負担が膨らみ、資金繰りが逼迫した。負債が33億円超まで拡大し、今回の事態に陥ったという。
■際立つセリアの躍進
100円ショップ業界では大創産業がかつての勢いを失い、3位のキャンドゥや4位のワッツも消費増税後の反動減から抜け出せないでいる。
一方で、2位のセリアの躍進が続いている。同社はファッション性の高い雑貨を低価格で販売することで、女性を中心に顧客基盤を拡大。飽和感が漂う100円ショップ業界で異彩を放つ存在だ。
セリアの河合映治社長は「消費増税を機に、消費者のニーズは変化している。それを迅速につかむことのできる企業だけが成長できる」と意気込む。
ドイツ証券の風早隆弘シニアアナリストも「円高局面と異なり、円安を前提にすれば、顧客基盤に支えられたバイイングパワーを持つ小売業者しか、安売り競争では生き残れない」と指摘する。
かつての大創産業は、メーカーから商品を買い切り、小売り側がリスクを持つ販売スタイルで、豊富な物量と在庫を武器に成長した。だが最近は、セリアの成功に倣い、POSデータを活用して商品の改廃を迅速化し、自社在庫を圧縮している。
それはつまり、下請けメーカー側にも、消費者ニーズの変化に即応できる、スピード感が求められているということでもある。こうした時代の荒波に対応できないメーカーが、第2、第3の井上工業となる可能性は大いにある。
(「週刊東洋経済」2014年10月11日号<10月6日発売>掲載の「核心リポート04」を転載)