「原発震災」予言した地震学者が批判 川内原発規制委審査は「無効」
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2014年10月6日 東京新聞:こちら特報部 俺的メモあれこれ
九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)は新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の審査書について、「無効だ」と主張する地震学者がいる。石橋克彦神戸大名誉教授(70)。福島原発事故の14年前から、大地震による「原発震災」に警鐘を鳴らしてきた。石橋氏は「審査は法令違反とさえ言える」という。何が問題なのか。(沢田千秋)
【地震の種類】
内陸地殻内地震は、陸地の比較的浅い場所を震源とする。阪神・淡路大震災も内陸地殻内地震。プレート間地震は、陸側のプレート(大岩板)と、その下にもぐり込む海洋プレートとの境界面で起き、東日本大震災に代表される。海洋プレート内地震には、陸のプレートの下にもぐり込んだ海洋プレート(スラブ)の中で起こるスラブ内地震と、かなり沖合の海洋プレートの中で起こる浅い地震とがある。ほかに火山活動に関係した火山性地震がある。
◆法令違反なみ手抜き
「新規制基準は、安倍政権がいう『世界で最も厳しい水準』から程遠い欠陥品だが、その根本問題に目をつぶっても、審査があきれるほどずさん。鉄道や航空機の安全に関わる事例だったら世間の袋だたきにあうような手抜きがあり、省令なみの規制に違反している」。川内原発の審査に対する石橋氏の批判は強烈だ。
新規制基準は、原発の耐震設計の基準となる揺れ(基準地震動)を策定する際、「内陸地殻内地震」「プレート間地震」「海洋プレート内地震」について、敷地に大きな影響を与えそうな地震を複数選定し、それらによる基準地震動を検討するよう求めている。
しかし、九電は川内原発の基準地震動の策定に当たって、内陸地殻内地震しか検討しなかった。プレート間地震と海洋プレート内地震については、発生位置が敷地から十分離れているため震度5弱に達せず、原発に影響を与えないとして検討対象から除外したのだ。規制委は、それをあっさり認めて「合格」させた。
だが石橋氏は、「九電が『震度5弱に達しない』と言って、規制委が『はい、そうですか』で済ますとは、地震学的にもってのほかだ」と指弾する。
なぜなのか。プレート間地震ついては、内閣府の検討会が2012年8月に公表した最大クラスの南海トラフ巨大地震の想定がある。マグニチュード(M)9級で、震源域は駿河湾から宮崎県沖まで広がる。石橋氏は「川内原発付近の予想最大震度は5弱に達している。しかも、この震度予想は広域の傾向をみるための目安にすぎない。原発のような重要施設は、より安全を考えた震源モデルを設定して再検討するのが当然で、震度6弱になる可能性もある」という。
海洋プレート内地震については、九電も例示した1909年の宮崎県西部の地震(M7.6)で、宮崎、鹿児島、大分、佐賀で震度5を記録し、各地に被害をもたらしている。これは、九州の地下に沈み込んだ海洋プレート(スラブ)の中で発生したスラブ内地震だ。石橋氏は「スラブは鹿児島県の地下にも存在するから、川内原発にもっと近いところでもスラブ内地震は起こりうる。しかもM7.6が最大とは限らない。最悪の場合は震度6に達するかもしれない」と話す。そして「それを指摘しなかった規制委は能力と熱意・使命感に欠けているのではないか」と手厳しい。
川内原発の基準地震動の最大加速度は620ガル(ガルは加速度の単位)である。これは、M6.1の地震が原発直下で発生するとした場合の値だ。しかし石橋氏によれば、「活断層が認められなくてもM7級の大地震が起こるから、これは明らかに過小評価だ」。
◆再び「原発震災」招く
一般に基準地震動は複数策定される。地震の種類によって揺れの性質が違うからだ。しかし、九電は川内原発について、直下地震のほかは、原発周辺の活断層で発生する内陸地殻内地震による基準地震動しか策定しなかった。「なぜプレート間地震とスラブ内地震を考慮しないのか。両者の揺れ方は独特だから、基準地震動を策定して重要施設の耐震安全性をチェックすべきだ」と石橋氏は言う。
新規制基準は、東日本大震災の教訓に立ち、「想定外」を起こさないように作られたはずだ。石橋氏は、「川内原発の審査は新基準による第一発目。今後の再稼働審査の模範になるべきものだ。手順を丁寧に踏んで説明責任を果たさなければいけない。それが、こんないいかげんなのは許されない。九電の言いなりになった規制委は、まるで”子どもの使い”だ。最初が肝心だからこそ、審査を無効にしてやり直すべきだ」と主張する。
石橋氏が「原発震災」という概念を提唱したのは1997年。大地震による揺れや津波に起因する原子力施設の大事故と通常震災との複合災害を警告した。06年8月、石橋氏は原発の耐震設計の指針を改訂する委員会の委員だった。しかし、不徹底な改訂案に抗議し、最終回で辞任・退席した。福島原発事故が起きたのは、その5年後だ。
福島第一原発の基準地震動は、このとき改訂された新指針に沿って、それまでの最大加速度370ガルから600ガルに引き上げられた。しかし、肝心の耐震補強工事を東京電力が実施していなかったことが、12年、国会事故調査委員会の調査で明らかになった。東日本大震災の際の福島第一の揺れは675ガルを記録している。石橋氏は「原発内の重要設備が、揺れで損傷した可能性を慎重に検討すべきだ」と指摘する。
実際に福島第一で現場検証し、地震による損傷を調べることは不可能だ。だからこそ、「安易な結論を出してはいけない」と石橋氏。「基準地震動を超えてしまったと反省するのと、超えたけれど大丈夫だったと思うのは大きな違いだ。『想定外の大津波が来たら事故はしょうがない』では教訓にならない」
規制委は、川内原発で想定される火山についても「大規模な噴火の可能性は小さい」としている。しかし、現に御嶽山(おんたけさん)では、予測できなかった噴火で多くの犠牲者が出た。「現在の科学では、原発に影響を与える地震の強さや噴火の発生確率、規模などに正確な答えは出せず、可能性の提示にとどまる部分が多い。それをどう考慮するかは最終的に社会が判断すること。今は安全性が軽視され、利権集団の経済的判断が最優先されている」と憂慮する。
「この地震火山列島では原発は危険すぎる。今後も川内原発のようなずさんな審査が続くと、日本は再び原発震災に襲われるだろう」と石橋氏は警告する。
「世間が福島事故を忘れつつあるというより、強大な勢力が忘れさせようとしているようだ。震災直後は多少鳴りをひそめていた原発ムラの住人や御用学者が現政権のもとで息を吹き返し、審査にも影響を与えているのだろう。国民は福島事故の理不尽さを決して忘れてはならない」
【いしばし・かつひこ】
神戸大名誉教授。1944年、神奈川県生まれ。東京大大学院理学系研究科博士課程修了。専門は地震学。2008年まで神戸大教授。国会の東電福島原発事故調査委員を務めた。1976年に発表した「駿河湾地震説」は、東海地震の防災対策強化のきっかけとなった。97年、月刊誌に論文「原発震災─破滅を避けるために」を発表し、地震と原発事故による複合災害を警告。浜岡原発の閉鎖や原発依存からの脱却を訴えている。
[デスクメモ]
「原発震災」を訴えてきた石橋氏には、福島原発事故後、取材が殺到した。石橋氏にしてみれば、「何をいまさら」だったろう。「地震学者の一人として誠実に意見を言ってきただけだ」と話していたのを覚えている。その石橋氏が、川内原発の審査を批判している。再び愚を犯すわけにはいかない。(国)
2014年10月6日 東京新聞:こちら特報部
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014100602000158.html