安倍首相の所信表明演説
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2014年09月29日 在野のアナリスト
第187回臨時国会が召集され、安倍首相の所信表明演説が行われました。今回、特徴的なのは話をする順番で、復興、地方創生、外交、女性の活躍、経済になったことです。経済面が最後に来たのは、この国会の目玉でないからではなく、円安の悪影響、安倍ノミクスへの厳しい見方もあって、アピールできないと踏んだためでしょう。しかもあれ? と思ったのが、私が見逃しただけかもしれませんが「安倍ノミクス」の文言が一つも入っていなかったことです。経済最優先では? メディアでも今国会は地方創生と女性活躍、としか謳っておらず、経済面は後回しです。
実際、経済政策の成果を語っていますが、有効求人倍率が22年ぶりの高水準、といったところで非正規のみ拡大する状況は、決して労働の質が改善したものではない。賃金アップの話をしても、実質賃金が未曾有の低下をつづけている状況にはふれない。都合いい箇所を、都合よく解釈して伝えるだけであるのは、経済政策としてマイナス面しかなく、すでに年内の補正予算の検討を見送ったことからも、この政権では経済への目配せはできないことを、露呈しているのです。
しかも話の癖かもしれませんが、すべての項目で必ず限定的な、一部の成功例から話を始めています。政府が対策を打とうと、打つまいと、成功するところはするし、失敗するところはします。しかもその成功例は、ほぼ政策に関係ないものばかり。であるなら、むしろ失敗から何を学ぶか、が政府にとって重要であり、政策対応が必要となってくるのです。そこにスポットが当たっていないこの演説では、一体どんな政策を打ちたいか、はさっぱり不明となっています。
しかも自ら「地球儀俯瞰外交」と語りますが、俯瞰とは『上からみる』という意味です。言い方は悪いですが、上から目線外交、とも読み解けます。実際、49カ国訪問、200回以上の首脳会談、といってみたところで、条約の締結や協定への調印、といった事例はほとんどない。驚くべきことに、その数しか誇る点がないのです。逆に、600日も経ってこれほど外交成果のない政権も珍しい、というぐらい語るべき内容がない。そして将来についても希望を抱くような内容はありません。
実は、全般を通じて安倍政権で達成したことを、誇らしげに語ることが一切ない。それが今回の所信表明演説です。若者がチャレンジし易い環境、として創業10年未満の企業を優先する仕組み、と述べます。しかし老舗企業にだって若者は働いており、ベンチャーだけを支援する、という仕組みが正しいのかどうか。むしろリスク投資を、金融機関に変わって政府が行っているだけで、上手くいく確率は極めて低い、政府系金融機関のチャレンジし易い環境作り、を醸成しているように思えてならず、政府系金融機関とは、即ち天下り団体の優遇、ということでもあります。
最後に、日本には成長できない、人口減少は避けられない、といった悲観的な意見があるとした上で、地方や女性など、ありとあらゆる可能性を開花することで…と、それを輝ける未来とします。ここも首を傾げるのは、最初の安倍ノミクスの成長戦略にも入っていなかった、扱いが小さかったこれらの項目で「ありとあらゆる」? では、あの成長戦略とは何だったのか? 今さら気づいた、ということなのか? それが判然としません。低迷しているから伸び代がある、というならその通りですが、そこに具体策がなければ「ありとあらゆる」の説明にはなっていません。
経済の好循環、という言い方がお気に入りですが、始まってもいないものは循環しようもないのです。それこそ金融緩和が終わったら、日本経済の沈没は目も当てられなくなるでしょう。目ぼしい策もなく、目新しい部分もありません。円安などは目に余るほどとなり、L字の景気には目配せが必要です。メディアが安倍政権の応援でスクラムを組む中、日経の世論調査では内閣改造効果が剥落しました。国民の目、この政権を正しく見極める真贋の目が、益々大事になるのでしょうね。