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03. 2014年9月18日 07:02:59 : jXbiWWJBCA
【第37回】 2014年9月18日 田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
「ウクライナ停戦」と「シリア領内空爆決定」が示す「敵の敵は味方」戦略の複雑怪奇(から抜粋)
ロシアは紛争当事者から仲介者に
ウクライナ政府がこれまで「侵略者」と呼び、米・西欧諸国が激しく非難していたロシアが突如「仲裁者」となり、プーチン・ロシア大統領の主導で9月5日停戦合意が成立したのは誠に珍妙な事態だ。
5日のミンスクでの停戦協議には、ウクライナ政府代表、分離独立を宣言しているドネツク州、ルハンスク州の「人民共和国」代表がプーチン案を基礎に協議し、駐ウクライナのロシア大使、欧州安全保障協力機構(OSCE)代表が立合人となり、ウクライナ政府代表と分離派代表が署名した。ロシアは紛争の当事者ではなく、OSCEと共に停戦の仲介者になったわけだ。7日にOSCEが公表した停戦合意文書では「ウクライナ軍の撤退」は入らず、代わりに「違法な武力集団、武器、傭兵のウクライナからの撤退」(ロシアの義勇兵やウクライナの極右集団のことか)が書かれた。最も重要なのは「ドネツク、ルハンスク両州の特定の地域に暫定的自治権を与える法律を制定する」として大幅な自治権を持つ「特別な地位」を認めたことだ。
なぜウクライナは停戦に応じたか
ウクライナは従来「数千人のロシア軍が侵攻してきた」と主張していたのに、当のロシアの仲介により停戦、とは辻褄の合わない話だ。ウクライナがこれを呑んだのは政府軍が各地で分離派民兵等により寸断、包囲されて2000人以上の捕虜を取られており、さらに大量投降が起きかねない状況にあったこと、ウクライナ国庫はほぼカラで戦費が続かないこと、ロシアからの天然ガス供給は6月16日以降代金未納を理由に停止され、冬を前に妥協を迫られていること、によると考えられる。
肩透かしを食ったNATO
プーチン氏は「介入」を否定できる程度の分離派支援でウクライナに圧力を掛けつつ、ポロシェンコ大統領と8月26日に6時間会談し、うち2人だけで2時間深夜まで話し合い、個人的な信頼関係を作ったから、停戦合意の仲介者となり得たのだろう。ロシアと国境を接する2州をウクライナ領に残しながら、親露的自治州にする、という狙いも達成したようだ。ポロシェンコ氏は「チョコレート王」と称される実業家だけに、理屈にこだわらず現実的な判断をしたと思われる。
おりしも9月4日、5日英国ウェールズのニューポートではNATO首脳会議が開かれ、対露戦略を協議していた。そのさなか、突如「停戦合意成立」のニュースが飛び込んだのだからNATOは肩透かしを食った格好だ。
ポロシェンコ大統領は2州の特定の地域に3年間「特別の地位」を認め、@独自の地方選挙、Aロシア行政機関との関係強化、B地元住民からなる警察隊の組織、C検察、裁判官の任免権などを許す法案を16日議会に提出、同日可決されており、停戦合意は実行されている。
米国・西欧諸国が制裁強化した思惑
EUもNATOに呼応して5日にロシアに対する経済制裁強化を発表したところ、その日に停戦となって間の悪い状況になった。そこでしばらく様子を見ることにしたが12日から発動し、米国も11日に金融などでの追加制裁を発表した。ウクライナ政府と東ウクライナ分離派との紛争がロシアの仲裁で停戦となったのだから、ウクライナもロシアが紛争の直接当事者ではないことを認めたわけで、「停戦の功労者」の形になったロシアに制裁、とは理屈の合わない話だが、現実には今後も自治権の具体的内容などについてウクライナ政府と分離派の折衝が続くはずで、そのためには経済制裁の圧力をロシアにかけ続ける必要を米国、西欧諸国は感じるのだろう。
EUがギリシャよりはるかに財政・経済状態の悪いウクライナの加入を認めるか否かは疑問だ。NATOにとっても、ウクライナを加盟させ、その防衛義務を負うよりは中立的緩衝地帯として残す方が得策、との判断に傾く可能性が高いのではあるまいか。
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