前稿では、原発に不可欠な長距離・超高電圧送電について書いたが、
今回は、送電線から発生する電磁波の危険性について論じたい。
[1] 送電線から発生する電磁波の危険性
送電線から発生する電磁波で問題になるのは、50-60ヘルツ(Hz)の低周波交流磁界である。
携帯電話や電磁調理器の電磁波は周波数が高く、身体に対する影響も異なるので、
一緒に議論すべきではない。また原発とは直接関係がないので、ここでは取り上げない。
磁界には方向・大きさが変わらない静磁界と、時間とともに方向と大きさが変化を繰り返す交流磁界がある。
地球は巨大な磁石であり、われわれは約400ミリガウス(mG)の静磁界の中で暮らしている。
どのくらい効果があるのか知らないが、ピップエレキバンや磁気ネックレスも静磁界の効果を利用している。
人体は静磁界に関してはある程度の耐性はあるものの、交流磁界は微弱でも影響が非常に大きいことが
近年の研究でわかってきた。
1992年 スウェーデン・カロリンスカ研究所が53万件を25年間調査し、子供に白血病、脳腫瘍、リンパ腫が
発生していると報告した(送電線付近で2mG以上の場所で全ガンが1.1倍、白血病が2.7倍)。
また各国研究機関が、微弱な低周波磁界でも人体への影響があると結論する研究を多数報告している。
「電磁波の害 各国の調査報告」 (ホントは損するオール電化住宅 2010/4/3)
http://www2.ocn.ne.jp/~mutenka/kenkou/dennjiha.html
[2] 各国の規制状況
こういった研究報告を踏まえ、環境先進国では低周波交流磁界のレベルが厳しく規制され始めている。
「各国の電磁波対策」 (babycom ecology)
http://www.babycom.gr.jp/eco/denjiha/7.html
例えば、スウェーデンでは2-3mGを目安に小学校、幼稚園、住宅密集地近辺の鉄塔の撤去や移転を行っている。
米国では州ごとに規制があり、4mGの独自規制をするところも増えている。
これは米国ニュージャージー州の小学校が、高圧送電線の電磁波から生徒を守るため、
校庭の移動を含めた工事を行なうという記事だ。
「Sussex County elementary school construction would move high-voltage power lines」
(by Michael Rispoli, NJ.com 2010/3/7)
http://www.nj.com/news/index.ssf/2010/03/fredon_school_expected_to_unde.html
電力会社も訴訟が起きたら負けると考えており、先回りして対策を打っている。
欧米では、送電線の下は公園、空き地、農地などになっており、居住は禁止されている国が多い。
電磁波の影響を防ぐほか、送電鉄塔の倒壊や送電線の断線落下による事故を避けるためでもある。
これはカナダのランドスケープ・デザインの例である。送電線の電磁波の影響を考慮して、
都市計画がなされている。
「Development near overhead lines?」 (by Gary Holisko)
http://www.irwaonline.org/eweb/upload/0708d.pdf
[3] 日本の現状と健康被害
日本は、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインに基づき、2000mG(200uT・マイクロテスラ)の
規制値を導入している。
ICNIRPは、WHOの協力機関の1つで、1992年に国際放射線防護学会(IRPA)から独立した専門組織である。
はっきり言えば電力・原子力業界の御用機関である。
またこれは電気設備から生じる低周波磁界の規制値であって、日本には長期的な曝露に対する規制値はない。
「電気設備から生じる電磁界に係る経済産業省の取り組みについて」 (経産省)
http://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/setsubi_denjikai.html
「なるほど電磁波!」(東京電力)
http://www.tepco.co.jp/ps-engineering/denjikai/index-j.html
「長期的な電磁波規制値がない日本」 (earth reading lab)
http://www.earth-reading.com/jintaihenoeikyou.html
「電磁波で小児白血病が2倍増 確認の研究継続させない文部科学省」 (週刊金曜日 抜粋 2003/2/7)
http://www.jca.apc.org/tcsse/g-siryo/ogino446k.html
日本政府は、ろくに疫学調査も行わず、海外の厳しい規制について、症例が少ない、統計的精度が低いなど
難癖をつけ、規制強化をしようとしない。
各国が規制を厳しくしているのに比べ、2000ミリガウスはとんでもなく大甘な規制値である。
安全かと言えば、明らかに安全ではない。白血病続出で有名な大阪府門真市の状況を見ればわかる。
「電磁波&鉄塔の街・門真」 (My News Japan 2006/10/27)
http://www.mynewsjapan.com/reports/469
「脳の奥まで忍び込む電磁波」(山崎智嘉氏のページ)
http://www.bea.hi-ho.ne.jp/t-yam/01EMF.html#B-1-01
門真市は高圧線が非常に多く、白血病死が大阪府全体の何と126倍、癌も多発している。
それでも政府は現行規制値で健康に影響はないと言い張る。
日本では送電線の下に家があるのは当たり前、保育園や小学校まである。
健康を損なう危険性があると海外で判断されているのにもかかわらず、対策には莫大なお金がかかるので、
安全ですと言って何もしない。住民の健康は全く考慮されていない。
放射能汚染の問題と全く同じである。
電力会社に頼めば測定に来てくれるが、「心配はありません」と答えは始めから決まっている。
規制値自体がとんでもなく甘いので当たり前だ。
残念ながら、これが日本の現状である。
[4] 高圧送電線に対する反対運動
高圧送電線に対する反対運動は日本ではほとんど話題に上がらない。
反対運動があちこちで盛んになっては困るので、マスコミが報道規制しているのだろう。
しかし、調べると住民が粘り強く電力会社に抗議して、高圧送電を撤回させた例はいくつもある。
「高圧線・変電所反対運動」 (ガウスネットワーク)
http://www.gsn.jp/undo.htm
「中部電力高圧線反対運動」 (長野県東御市議会議員・若林みきお氏ホームページ)
http://www.m-wakabayashi.jp/index.php?%E4%B8%AD%E9%83%A8%E9%9B%BB%E5%8A%9B%E9%AB%98%E5%9C%A7%E9%80%81%E9%9B%BB%E7%B7%9A%E4%BD%8F%E6%B0%91%E9%81%8B%E5%8B%95%E3%81%A8%E3%81%AF
「'97高圧線問題全国ネットワーク全国大会in棚倉」 (県電磁波ネットニュース 1997/8/15)
http://www.ht-net21.ne.jp/~kannoyu/datugen/dennji/denjiha.html
お隣の韓国では、新古里原発のための76万ボルト高圧送電線の建設に対する反対運動が激化、
焼身自殺者まで出ている。
「韓国 送電塔反対住民が焼身自殺」 (レイバーネット・蔚山労働ニュース編集局 2012/1/18)
http://www.labornetjp.org/worldnews/korea/knews/00_2012/1326932430623Staff
前稿で述べたとおり、柏崎刈羽原発から100万ボルト送電を計画しようとしていたが、住民の反対で、
現在は50万ボルトで送電している。
目を光らせていないと、いつどこで危険な高圧送電線の建設や送電が始まるかわからない。
電力会社としては、送電ロスを減らすために、できるだけ送電電圧を上げたい。
そのチャンスを虎視眈々と狙っているのだ。
[5] 原発との関連性
原発はへき地に建設しなければならず、長大な送電線が必要となる。
また送電ロスを少しでも減らすために、電圧を50万ボルト以上に上げて送電している。
原発と長距離・超高電圧送電は、まさに一心同体、切っても切れない関係なのだ。
原発以外の発電方式なら、より消費地に近いところに建設でき、距離も短くて済み、送電ロスも少ない。
需要地の近くで発電するに越したことはない。地産地消である。
原発は効率が悪く無駄の多い発電方式だが、送電の観点からも無駄だらけだ。
[6] 健康被害を防ぐには
放射能防護三原則は、遮蔽する、曝露を短時間にする、離れるの3つだが、低周波磁界は、
周波数が低いため、コンクリートも透過し金属板などで覆っても遮蔽はほとんど効果がない。
電磁波の強さは、距離の二乗に反比例する。2倍離れれば1/4、3倍なら1/9となるので、
できるだけ電線から離れること。またそばにいる時間を減らすことである。
幸いなことに放射性物質と違って内部被曝はないし、ホットスポットが移動することもない。
とにかく距離を取ることが大切である。
送電線や変電施設からはできるだけ離れて暮らすべきだ。送電線の下に居住するなど論外である。
とくに子どもやこれから子どもを産む若い人は注意すべきだ。
日本は狭い国だが、送電線の走る敷地は、倉庫や資材置き場、駐車場などいくらでも使い道はある。
これから人口が急減し空き家も多くなるのだから、送電線下の住民は引っ越してもらい、居住禁止にすべきだ。
国民の健康を第一に考えないようでは、とても先進国とは言えない。
もう一つ、家庭内でも電源線や家電機器からの電磁波は注意したほうがいい。
壁際のベッドなどは、少し移動させるだけで、大幅に磁界強度を低下させることが可能だ。
また電流が流れなければ磁界も発生しないので、節電を心がけることも大切。
簡易測定器で屋内外の交流磁界を測定した結果を健康板に投稿したので、自分で測定してみたい方は
参考にしていただきたい。
http://www.asyura2.com/13/health16/msg/538.html
[7] 最後に
送電線の電磁波も原発の放射能汚染の問題と非常によく似ている。
政府や電力会社は、科学的根拠のない大甘の規制値を振りかざして、安全だ、心配ないと言うだけで、
何も対策をしない。危険性がわかっていても、莫大な費用がかかるので、絶対に対策は取らない。
マスコミも決して報道しない。
たとえ白血病や癌に倒れても、被害者が送電線からの電磁波が原因であることを証明することは極めて難しい。
政府は、電力会社や大企業、天下り先の利益最優先で、国民の健康を守ってはくれない。
だから放射能同様、きちんと対策を立てて危険を回避し、自分と家族の身はしっかり自分で守ることが大切なのだ。
(関連リンク)
「原発に不可欠な長距離・超高圧送電は問題だらけ 建設費用は何と1キロ当たり10億円!! 」
(拙稿 2014/9/4)
http://www.asyura2.com/14/genpatu40/msg/198.html
「ガウス・ネットワーク」
http://www.gsn.jp/index.htm
「電磁波の健康影響を考えるシンポジウム 荻野晃也さんのレジュメ)
http://denziha.net/080413/4_04.html
「超低周波電磁波の危険性と対策」 (環境と体にやさしい生き方 2011/6/3)
http://blog.goo.ne.jp/growth55/e/29ffce75036e7deae4bda769d37d2458
「原発がある限り、なくならない高レベル電磁波の健康被害」 (25%削減実現しよう会)
http://www.h4.dion.ne.jp/~ootani44/torikumi/denjiha-0912.htm
http://www.asyura2.com/14/genpatu40/msg/199.html