日立子会社、三菱東京銀行の偽装請負を告発した社員を強制解雇 不当行為が常態化か
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140630-00010002-bjournal-bus_all
Business Journal 6月30日(月)0時10分配信
「三菱東京UFJ銀行が『偽装請負』で日立製作所から子会社を通じて労働者を派遣させている問題を告発し、金融庁が同行の違法行為を改めるよう監督の徹底を求めました。(中略)東京・大手町の三菱東京UFJ本店で偽装請負で働き、東京労働局に内部告発した日立子会社の女性の訴えをもとに『メガバンクの最先端の職場のフロア丸ごとが、偽装請負で成り立っている』と違法行為の一端を紹介しました。(中略)また、偽装請負を内部告発した女性が日立の子会社から解雇されたと指摘。日立や三菱東京UFJによる女性への報復を批判したうえで、不正を告発する労働者を守れるように公益通報者保護法の改正が必要だと強調しました」(3月27日付しんぶん赤旗より)
上記記事は、本事件の被害者である女性社員A氏が厚生労働省で開いた記者会見を受けて報じられたものだ。会見には数多くのメディアが参加したが、実際に報じたのは「週刊文春」(文藝春秋)と「しんぶん赤旗」などの一部メディアのみで、広く世間に知られてはいない。
今回、本事件において三菱東京UFJ銀行へ派遣され勤務し、本件を内部告発したA氏への取材などから、偽装請負が常態化している銀行の内情がみえてきた。
●コンサルティングとは名ばかりの下請け作業の実態
本件における「派遣社員」というのは、事務アシスタント作業の派遣スタッフのことではなく、ITシステムの構築や保守などをプロジェクトで請け負う、高度な専門知識を有する人材のことである。A氏も、日立コンサルティング入社前は外資系大手IT企業でプロジェクトマネジャーを担当していた。
A氏は日立コンサルへの入社選考の時点から、同社に対して違和感を抱いていたという。複数回の面接があったが、コンサルティング会社でよく聞かれる「○○業界の現状における課題と、その解決策について」などの厳しい質問をされなかったからだ。
そして入社後判明したところによると、日立コンサルでは採用ノルマが存在しており、特段にスキルや能力を厳しく評価する採用を行っていなかった。そして実際の業務は「コンサルティング」とは名ばかりのIT実務の下請け作業が中心だったのである。そのような業態の場合、発注先企業へ派遣できるスタッフの頭数次第で、売り上げは多くも少なくもなる。結局、ある程度のIT的素養があればプロジェクトに入って稼げるし、頭数がそろわなければ機会損失になってしまう。
A氏が派遣されていた三菱東京銀行の現場には、日立コンサルから現場リーダー的な立場の人員がいたが、日立コンサルからの派遣スタッフへ実際に業務内容を指示していたのは銀行の社員であり、これは違法な偽装請負に当たる。「請負契約」の場合、スタッフに指示を与えるのは請負会社(=日立コンサル)でなくてはならず、派遣先(=三菱東京銀行)の人間から指示を受けて仕事をしてしまうと、その時点で違法になってしまう。
当時、銀行本社の23Fで勤務していた220名中、約180名が派遣や請負などの外部スタッフで、行員が約40名であった。派遣元となる派遣会社も、元請けで17社、さらにその下請けとなると、30社くらい入っていたという。
さらに、A氏が配属されたチームは複合チームと呼ばれる多重請負であった。多重請負とは、元請け企業から下請け企業へ、さらにその下請企業へとどんどん仕事が委託されていくもので、指揮命令系統や責任関係が曖昧に乱れる恐れがある。内訳は日立コンサルの社員に加え、日立ソリューションズと日立製作所の社員が各1名。さらには他の再委託先の社員もメンバーに入っていた。彼ら外部の再委託先スタッフについては、銀行側の社員にチームメンバーを紹介する際、日立コンサルの担当者が「うちの社員ではないのですが」と発言していたため、銀行側も「多重請負」であることを認識していたことになる。
A氏が参加するプロジェクトは12年10月からスタートし、A氏は三菱東京銀行に常駐するかたちとなった。日立コンサルではプロジェクトにアサインされると、基本的に半年間はその現場の業務を担当することになる。自動更新ではなく、契約が継続するかどうかは派遣先企業の予算やプロジェクト内容による。ちなみに三菱東京銀行でA氏が担当していた業務は、システムコンサルティングではなく、翻訳作業をしたり、企画書を作成したりするような事務作業だったという。
前述のとおり、業務指示は日立コンサルではなく銀行側から与えられていたため、A氏はそれを疑問に感じていたが、そんなある日、上司との会話の中でA氏は何気なく次のような発言をしたのだが、それがA氏の運命を変えていくことになる。
「業務請負のはずなのに、これってなんだか派遣みたいですね」
この発言が、日立コンサル関係者に目をつけられる原因となってしまった。その時を境にA氏は徐々に仕事から遠ざけられるようになっていき、A氏もさらに疑問が深まり、同社と対立する姿勢をとるようになっていった。「裁量労働制の適用条件を満たしていない」「労使協定を結んでない」「代表者が不正に選出されている」といった違法行為をたびたび指摘していたのだが、同社側にとってAさんの存在は邪魔になっていたのだろう。
●警察沙汰に発展
そして半年に1度の契約更新時、A氏が参加するプロジェクトのメンバー8名のうち、A氏だけがメンバーから外された。本人は銀行のプロジェクトに残りたい意思があり、その旨も上司に伝えていたが、会社命令で「いったん本社勤務に戻れ」との指示が出た。A氏はそういった会社側の一連の動きをみて、改めて告発する構えを見せたが、会社側もそれを察知したのか、半年間の契約が終了する直前である13年3月28日、A氏が勤務する銀行のオフィスに、日立コンサルの上司や人事部の社員が突然、かつ銀行側にも無断でやってきて、A氏を力ずくで引きずり出そうとしたのだ。本件は警察沙汰にまでなり、のちに日立コンサル側も無断侵入を認め、この上司らに始末書を書かせている。
この騒動をきっかけにA氏は「上司の命令を聞かなかった」という名目で懲戒処分を受け、評定や給与も大幅に下がってしまった。2割の減給と2段階の降格(シニアコンサルタントからアナリストに)となった。ちなみにA氏の派遣先での業務については、銀行側は満足するクオリティとの評価であったという。
A氏は日立コンサルの一連の所業に対して、労働基準監督署に「あっせん」を申請したが、会社側が話し合い拒否。この頃からA氏は心身ともに不調となり、鬱病を発症してしまう。しかし日立コンサルはさらに追い打ちをかけるように、一方的に「裁量労働制」から「定時制」へとA氏の勤務形態を変更した。通院などで業務から離れている時間帯の給与を差し引いてきたのだ。
結果的に、さまざまな理由で給与が差し引かれて、金額は元の給与の半分以下になってしまった。ちなみにこの時、定時制が適用されているのはA氏のみだった。
同年4月、A氏は東京港区海岸の労働局に日立コンサルと銀行との偽装請負を告発した。調査は進み、同年7月に「職業安定法44条、および労働者派遣法複数条の違反を認定した」という連絡がA氏にあった。
その後、A氏は、日立コンサルの親会社である日立製作所の内部通報窓口にこれまでのいきさつを相談し、同社総務部の担当者と計7回面談したが、同担当者は「退職と引き換えに、慰謝料で手を打ちましょうか」などと発言することもあった。
結果的に、A氏は「就業規則違反」を理由に解雇を言い渡される。A氏は会社側に理由を問いただしたが、「勤務態度が悪い」「心身の状態が就業に耐えられない」といった回答しか得られなかった。解雇当日にはA氏を人事部の社員4名が囲み、「解雇通知を受け取れ」と言われて押し問答になり、人事部長はあろうことかAさんに体当たりしてきたという。さらに同日、A氏の銀行口座には解雇予告手当が振り込まれていた。日立コンサルが振り込み手続きを行ったのは当日の15時前であるはずだ。しかしA氏はその時間、まだ日立本社総務部の担当者と話していた。その場では解雇の話など出るはずもなく、今後の展開についても「まだ調査中」と言われていた。
●労働組合による団体交渉へ
A氏は現在、活動を支援してくれる労働組合を見つけ、サポートを受けながら活動中である。
三菱東京銀行に対する団体交渉において、銀行側は派遣スタッフへの直接指示の事実を認めた上で「A氏の業務は満足できる内容であったため、委託金は支払った」と回答した。ちなみに、三菱東京銀行側は偽装請負について見て見ぬふり状態だったようで、「認識していた行員もいたと思うが、話が上まで上がってこなかった」と説明している。
日立コンサルは当初、団交を断ったが、銀行側が団交に応じた事実を受けて対応し、あくまでA氏の解雇理由は「偽装請負の告発」によるものではなく、「勤務態度が悪い」ことが原因と主張を続けている。さらに日立コンサル側は「偽装請負は、A氏が銀行にけしかけたもので、偽装請負状態を知りながら働いていたのだから同罪だ」と述べ、あくまで解雇はA氏側に問題があり、偽装請負とは別問題だとの姿勢は崩さなかったのである。
本件について日立コンサルは筆者の取材に対し、次のような回答を寄せた。
「Aさんへの対応については、適正な業務指導及び就業規則に則った対処を行っており、問題となる行為は行っていないと考えております」
「Aさんの解雇については、解雇規定にあてはまるため已む無く解雇したものであり、公益通報との関係はありません」
新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト