韓国旅客船沈没事故 沈没した旅客船「セウォル号」のイ・ジュンソク船長(ロイター)
【朝鮮半島ウオッチ】朴大統領の涙は本物? 国民的議論が起きる韓国
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20140525/frn1405251505009-n1.htm
2014.05.25 夕刊フジ
「セウォル号」事故で朴槿恵大統領は国民に“涙の謝罪”を行ったが、その評価は賛否両論で政権に重くのしかかっている。朴氏は談話で海洋警察庁の解体はじめ“国家改造計画”を発表したが、韓国メディアは『大統領の謝罪をどう思うか』と世論に問い、ネチズン(ネット市民)は「涙はショーだった」などと冷ややかに書き込んだ。一方、市民らの間では「あのおぞましい“セウォル号の船長”が、未来の自分たちの姿になってはならない!」と再生への呼びかけも始まっている。(久保田るり子)
■「大統領は心から謝罪したと思うか?」
韓国では謝罪した大統領の“真意”が世論調査の対象となる。
朴槿恵大統領は政府対応の怠慢についてすでに何度も謝っているが、今月19日の国民談話はこれらを総括し今後の決意を語る満を持しての大舞台だった。指導者としてどう謝るのか、官民癒着はどう処罰するのか、公務員改革は? 真相究明は? 人事刷新は? 国民の関心度は最高潮に達し、24分40秒、約7000字の国民談話は、隅から隅まで分析された。
談話のなかで犠牲者の名前を読み上げたとき、何筋もの涙を流した大統領。有力紙、朝鮮日報はさっそく、“涙の謝罪”を世論調査にかけた。いわく『大統領は心から謝罪していると思うか』と『談話内容が事故の対策に適切だと思うか』の2問だ。
大統領の心をどう評価するのか…。ここまで調査するのは韓国流の情緒性ともいえそうだが、その回答は『謝罪していると思う』が59・1%、『謝罪していると思わない』が34・9%だった。この調査では国民の約6割が“大統領の涙”を受け入れたことになる。
ただ、過激なことで知られる韓国ネット社会は“涙”に厳しかった。韓国メディアによると、ネットには『憎たらしい演技ショーだ。涙を政治的に悪用した』『涙をみると鳥肌が立つ』『涙は地方選(6月4日)での勝利を狙った』などの激しい言葉が書き込まれたという。
■韓国社会の復元力は日米よりも低い?
事故を受けた国家改造計画の部分は、初動救助ができなかった海洋警察庁を解体するのをはじめ、「国家安全処」の新設など政府機関の改造が発表された。官僚と民間の癒着根絶では許認可関係の団体からの公務員排除や退職公職者の就業制限などだったが、こうした対応策に世論は、『対応が適切』は46・5%、『不足』が46・9%で賛否は半々。解体が決まった海洋警察庁には「すべての責任が押しつけられた」と衝撃が走った。
専門家からは、「制度の見直しより運用する人材が重要」「大統領に進言できる人物がいないことのほうが問題」といった指摘に始まり、「談話の国家改造がどんな課程で決まったのか不明だ。議論の公論化と合意形成が必要」との不満や、「公務員改革が行き過ぎればノウハウの蓄積がなくなる」など議論が百出し、メディアをにぎわしてしている。
「行政改革も結構だが、変わるべきはまず、大統領からだ」といった社説(中央日報)もあった。いわく『セウォル号の被害家族があらゆることを大統領に談判しようとしたのは、朴大統領の一方通行型国政運営のブーメランだ』『大統領の国政運営方式と哲学が180度変わってこそ国民の信頼も回復する』と、閣僚らとの意思疎通に欠けるとされる朴大統領のスタイルに厳しい注文を付けた。
■沈滞ムードのなかで統一地方選は朴政権への「国民の審判」
事故から1カ月余りがたったが不明者の救出作業は続いており、社会的な沈滞ムードは続いている。被害者世代は『セウォル号世代』と呼ばれ、その親の世代は特に敏感になったとされる。『寝顔をみるだけで涙が出てくる』『子供をしかれなくなった』といった投書もある。惨事に対する韓国社会の復元力について、米国の9・11テロや日本の東日本大震災と比較し、政治家や官僚が保身的で社会が悲観的になった結果、「日常に戻ろうとするバネが弱いのではないか」という指摘が出ている。
そうしたなか、子供たちの親の世代に「『私は絶対、セウォル号の船長のようには行動しない』と子供たちに教えよう」という機運が起きているという。
「セウォル号」船長の行動は、リーダーの本文を忘れた行動がいかに悲惨な結果を招くかを韓国国民にいやというほど思い知らせた。在韓20年で子供をもつ日本人女性によると「セウォル号世代の親たちの世代は父親の役割を見直しているようだ。韓国でも父親が子供に人生について語らなくなって久しいが、事故の衝撃は40−50台の父親世代により強い教訓が残ったようだ」という。
韓国は間近に迫った統一地方選(4日投開票)の評価を見定めようとしている。政権・与党への厳しい結果は免れないが、中間層はどんな意思表示をするのか。朴大統領は22日、安全保障と国防の側近2人を更迭し、身内を切って国家改造への意思を国民にアピールしている。