沖縄密約、因縁の日米2人が語る「秘密保護法」
http://tanakaryusaku.jp/2014/05/0009315
2014年5月11日 00:19 田中龍作ジャーナル
西山氏「特定秘密保護法制の実施機関にメディアが入っている。そんな国が世界のどこにあるか?」 ハルペリン氏「ない」 =10日夜、日本弁護士会館 写真:筆者=
沖縄返還(1972年)に絡んで日米両政府の間で交わされた密約をスッパ抜き逮捕された記者(※)と返還交渉に携わった元米政府高官が10日、初めて対面した。
元毎日新聞の西山太吉記者とジョンソン、ニクソン政権で安全保障を担当したモートン・ハルペリン氏。霞が関の日本弁護士会館で顔を合わせた二人は照れ臭そうに席を並べた。特定秘密保護法の さきがけ となる事件から40年余りが経っていた。
田中:かつてスッパ抜いた方として密約の担当者にお会いしたお気持ちはいかがですか?
西山:喜ばしいことですよ。とにかく彼はどうしても一回お会いしたい人だったから。それができたから、今日は本当に喜ばしい日ですよ。人生にとって。
田中:(西山さんは)、密約によって人生を犠牲にしたといえるが、どう思いますか?
ハルペリン:Very Sad. 大変嘆かわしい。
田中:彼に会ってどうですか?
ハルペリン:大変うれしいです。
田中:西山氏の事件は特定秘密保護法のオリジナル版のようなものです。彼は法を犯したが、それによって密約が明らかになり国民は喜んだが?
ハルペリン:彼は法を犯すべきではなかった。(ハルペリン氏の真意は、法律に不備があるということではないだろうか。幾度も「ジャーナリストに特定秘密保護法を適用してはならない」と述べていることからもわかる。
「安倍政権独特の歴史認識がある。集団的自衛権、武器輸出・・・権力が集中する時、必ず秘密を独占したがる」。西山氏は現政権の危険性を厳しく指摘した。=写真:筆者=
沖縄返還にあたって米国は核を撤去し、軍用地の原状回復費用を負担するとされていた。しかし実際は日米両政府の間で「沖縄米軍基地への核再持ち込み」「米国が負担する400万ドルは、日本政府が肩代わりする」という“合意”がなされていたのである。これが沖縄返還密約だ。
「核抜き・本土並み返還」は、佐藤栄作首相(当時)が政治家として集大成をかけた粉飾だったのである。実態は真逆だった。国民の血税が使われ、沖縄の基地は核(再)持ち込みのまま固定化することになったのだ。
パネルディスカッションで司会者から「沖縄返還交渉で密約は必要だったか?」と問われた西山氏は次のように答えた―
「核密約は非核三原則を自らの手で引き割くものだから、密約が成立する。財政上の密約は、なぜ国民に言えなかったか?綺麗に「無償返還だ」と美化して、あらゆる戦略をとった。これは国民を愚弄すること。外交交渉のプロセスは隠しても、結論は国民に言うべきだ。民主主義のイロハのイでしょう。密約なんて必要じゃなかったと思う」。
同じ趣旨を質問されたハルペリン氏は「(密約は)開示すべきだった。敵国からの反撃というより国民からの反感が怖かったから日本政府は開示しなかった」と答えた。
パネルディスカッションの冒頭、西山氏は「(日本に)秘密保護法がないとアメリカが困るということはない」と言い切った。ハルペリン氏も8日、衆院会館で行った講演でまったく同じことを話している。
外務省アメリカ局長(当時)が「密約の存在」を認め、米公文書館で「密約文書」が見つかり、故佐藤栄作氏の家族も「密約文書」を公開している。2010年、岡田克也外相は「密約はあった」とする調査結果を公表している。
それでも「密約はない」と言い張る自民党政権が、無理やりに成立させたのが「特定秘密保護法」だ。国民に知られると都合の悪いものは、厳罰で縛って知らせないようにする。
国民の利益に適うことであっても為政者には不利益なのである。故佐藤栄作が安倍首相の大淑父というのも因縁か。
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※
外務省の女性事務官から機密情報を引き出した西山氏は、国家公務員法違反(教唆)の罪で逮捕、起訴される。1978年に最高裁で有罪が確定した。