農家被ばく、事務職の倍 福島第一周辺 政府ようやく推計
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014041902000153.html
2014年4月19日 東京新聞
東京電力福島第一原発事故で避難を強いられている住民が帰還した場合の年間被ばく線量の推計値を、十八日に政府が公表した。比較的線量の少ない地域でも、屋外作業する農家などは事務職に比べ、二倍程度の被ばくをする可能性が高いとの結果だった。ただ、この現実は一年近くも前に本紙や自治体が調べたデータが示しており、今さら感がぬぐえない。
原発事故から三年たった今ごろになって、政府がようやく現実を追認するのはあまりにも遅い。家の中に農地の土をいかに持ち込まないようにするかや、家屋の放射線を遮る対策を練るなど実効性のある施策が求められる。
推計値は、内閣府の委託を受け、日本原子力研究開発機構(原子力機構)などがまとめた。全村避難が続く飯舘村、今月下旬から長期宿泊が認められる川内村、四月に避難指示が解除された田村市都路地区の三地域を対象に、屋内や農地などで測った線量から算出した。
表の通り、飯舘村では屋内にいる時間が長い事務職でも年間被ばく線量は最低三・八ミリシーベルトと、一般人の線量限度(一ミリシーベルト)の四倍近い。農林業ではもっと多く被ばくする計算だ。
帰還が始まった都路地区でも、事務職やほとんど家の中にいる想定の高齢者は一ミリシーベルトを下回ったが、農林業では最大二・三ミリシーベルト。川内村ではどの職種でも一ミリシーベルトを超え、農林業は一段高い値となった。
森林の除染は人家周りを除いて手つかずで、農地の表土をかき混ぜても放射性物質は減らない。本紙が昨年、福島県各所で調査した際も、農地の線量は屋内の二倍程度あった。熱心に作業する農家ほど被ばくするのは当然ともいえる。同様の傾向は伊達市の実測データでも確認されていた。 (山川剛史、小倉貞俊)
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解除準備区域、年3ミリシーベルト 個人被曝線量推計
http://www.asahi.com/articles/ASG4K5KGXG4KUTFK01P.html
2014年4月18日08時26分 朝日新聞
おもな職業別被曝線量
安倍政権が福島県の避難指示区域など3自治体で行った個人被曝(ひばく)線量についての最終調査結果が17日、わかった。個人線量の測定結果に職業などの生活実態を加味して推計した。年内の帰還を目指す地域で除染の長期目標の年間1ミリシーベルトを超える年3ミリシーベルトの値も出ており、今後の帰還政策に大きな影響を与えそうだ。18日に公表される。
政権が7月にも住民の帰還を目指す川内村の避難指示解除準備区域では、除染の長期目標を超える年3ミリシーベルトだった。居住制限区域の居住者の場合、林業従事者の年間推計の個人線量は5・5ミリシーベルト、高齢者では2・1ミリシーベルトだった。
4月に避難指示を解除した田村市都路地区でも、林業従事者は年間2・3ミリシーベルト、農業従事者は0・9〜1・2ミリシーベルト、教職員で0・7ミリシーベルトだった。
一方、全村避難中の飯舘村の居住制限区域では、教職員で11・2ミリシーベルト、林業従事者や農業従事者で年間17ミリシーベルト前後の高い値もあった。
調査は、内閣府原子力被災者生活支援チームからの依頼で、放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構が昨年8〜9月にかけて実施した。
福島県田村市、川内村、飯舘村で、農地、山林、民家、学校などで空気中の放射線量を測った空間線量と、個人が実際に浴びる個人線量を比較した。
結果は昨年10月に中間報告としてまとまっていたが、「調査過程の基礎的データだった」(内閣府)などとして、公表を見送っていた。ただ、その後の取材などを受けて公表した。
政府は住民が帰還する際、空間線量よりも個人線量の方が生活実態を反映しているとして、各自が個人線量の数値を参考にして判断することを提案している。
今回の調査結果は、いずれも住民の帰還条件として示している年間の被曝(ひばく)線量の20ミリシーベルト以下となっており、今後の帰還を加速させたいという政府の思惑に合致している。
一方で、住民や地元自治体からは「年間1ミリシーベルトを目指して除染してほしい」という不安の声があがっている。政府は「効果は限定的」として再除染については依然として消極的だ。
今回の調査は成人のみを対象に行い児童は含めていない。成人と体格が異なる児童も調査することを今後の課題に挙げている。(明楽麻子、青木美希)
■実質的な基準緩和
今回の調査では、個人線量計を使って実測した値と空間線量値を比較した結果から、個人線量は空間線量に0・7をかけた値にあたると算出した。
最終報告では、空間線量の値に0・7をかけたものに、NHKの「データブック国民生活時間調査2010年」をもとに、全国の農業従事者が田畑に滞在する時間など生活行動パターンを加味して個人線量を導き出した。
内閣府の原子力被災者生活支援チームはこれまで「空間線量の数分の1程度」と説明していたが、空間と個人の線量の差はそこまで大きくなかったことになる。
被曝(ひばく)に詳しい国際医療福祉大クリニックの鈴木元・院長は「0・7など一定の係数で空間線量から個人線量を推計するなら、もっときめ細かな空間線量の計測や、住民の生活時間の調査が必要だ」と指摘する。
政府は復興加速指針で、空間線量から計算していた除染基準も「個人線量の活用を検討する」としている。福島市など福島県内の4市長も今月14日、除染基準を個人線量を踏まえた推計方法に変更するよう環境省に求めた。
除染の長期目標「年間1ミリシーベルト」は空間線量から導き出されている。これを個人線量を基に計算すれば、従来より空間線量は1・4倍多くていいことになる。実質的な基準緩和といえる。
弘前大の床次真司教授は「0・7などの換算係数は住民全員に当てはまるわけではない。子どもは体が小さく、大人より放射線が遮られずに貫通するのでもっと大きな数字になる。生活パターンによっても異なる。住民の健康を守るための基準は、安全を優先するべきだ」と話している。(大岩ゆり)