原発「膨張」路線に エネ計画閣議決定
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中日新聞 核心 2014/4/12 紙面から 子どもたちの未来へ
政府は今後のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」を閣議決定した。表向きは原発への依存度を「可能な限り低減する」としているが、実態は原発回帰どころか、新増設への布石を打ち、輸出を推進するなど「膨張」路線に舵(かじ)を切ったことになる。
■研究推進
計画原案の修正作業の最終段階で、経済産業省は新型の原子炉「高温ガス炉」の研究開発を推進するという表現をもぐり込ませた。
新型の原子炉を開発し、導入するということは原発の新増設につながる。四日の自民党のエネルギー関係部会でも、脱原発派の秋本真利衆院議員が「これを認めたら新増設と同じになる」と指摘した。
経産省資源エネルギー庁の上田隆之長官は「高温ガス炉は研究段階。ただちに新設につながるとは考えていない」と否定したが、結局、計画の中に「高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する原子力技術の研究開発を国際協力の下で推進する」という表現は残った。
さらに、原発自体についても「必要な技術、人材維持の観点から、確保していく規模を見極める」と記され、今後の新増設に含みを残した。茂木敏充経産相は十一日の記者会見で「既存の原発の安全確認を進めている。新増設はその次のステップと認識している」と、原発を新増設する可能性に言及した。
■運転延長
原発の運転期間は法律で四十年に制限されている。原則通り廃炉が進めば、十五年後には半分、二〇五〇年にはゼロになるはず。
民主党政権下では「あくまで例外中の例外」とされた二十年間の運転期間延長が、最近では「延長制度」と名づけられ、計六十年が基本のような状況となっている。今回の計画にも、どのように廃炉を進めていくか記されていない。
延長が認められるためには、原発の新規制基準をクリアするだけでなく、老朽化をチェックする特別点検も受ける必要がある。突破は容易でないが、電力各社は「年数がたっていても、技術的な安全確認をしていけば活用できる」(電気事業連合会の八木誠会長)と延長に意欲満々だ。
例外が乱発されると、当面は原発は一向に減らない可能性は十分ある。
むしろ、東日本大震災前に着工し、工事が進んでいる電源開発大間原発(青森県)や中国電力島根原発3号機(島根県)が完成すれば、減るどころか逆に増える事態まであり得る。
■巨大市場
計画には「原発インフラの国際展開を推進することが重要」と、輸出推進も盛り込まれた。
安倍政権は東京電力福島第一原発事故の原因が十分に解明されていないのに「事故から得られた教訓を国際社会と共有し、世界の原子力安全の向上に貢献する」との理屈を掲げ、原発の売り込みを進めている。
三〇年までに世界で最大三百七十基が新設され、百兆円規模の巨大市場になると見込み、原発輸出を経済成長戦略の柱に据える。
安倍晋三首相は昨年一月に訪問したベトナムで、原発建設に協力する方針を表明した。昨年五月にはアラブ首長国連邦(UAE)やトルコと輸出の前提となる原子力協定に署名した。その後、日本の原発メーカーがトルコの原発建設の受注を決めた。
さらに協定の署名に向けてサウジアラビアなど五カ国と交渉中だ。
しかし、トルコは地震、ベトナムは津波、中東はテロなどの不安材料を抱える。事故の教訓を生かすというが、福島第一原発の事故収束に向けた技術開発はまだ途上で、提供できるノウハウは少ない。このまま進むと、行き場の定まらない核のごみ問題まで輸出することになる。
(政治部・城島建治、横山大輔、東京経済部・岸本拓也)
◆再稼働 結論ありき
安倍政権は、脱原発を求める世論が強いにもかかわらず、原発推進のエネルギー基本計画を決めた。世論調査では、内閣支持率は依然として50%を上回る水準を維持しているが、原発政策が支持されたわけではないことも示している。
安倍晋三首相は二〇一二年十二月の就任直後から、原発推進の姿勢を取り続けている。一三年一月、民主党政権が決めた三〇年代に原発稼働ゼロを目指す戦略を「ゼロベースで見直す」と明言。五月には「再稼働に向け政府一丸となって、できる限り早く実現したい」と踏み込んだ。
しかし、首相の説明は世論の支持を得られていない。昨年十二月に基本計画の素案を公表した後、共同通信の世論調査では原発ゼロ目標の転換に反対する人が65・7%に上った。ほぼ三人に二人が脱原発を求めたことになる。首相は「安くて安定的な電力を供給しなければ豊かさは失われてしまう。即ゼロとはいかない」と原発再稼働に理解を求めたが、その後の世論調査でも常に半数以上が再稼働に反対している。
民主党政権の原発ゼロ戦略は、意見公募や国民同士が話し合う「討論型世論調査」といった国民的議論の末、決まった。公募で寄せられた意見では87%が原発ゼロを支持した。明確な民意が、民主党政権の政策決定を後押しした。
これに対し、安倍政権は基本計画案の意見公募はしたが、賛否の割合を公表せず、結論ありきで政策を変えた。世論を無視しているのも同然だ。
国民の声に耳を傾けず、政権の意のままに政策を進める手法は、特定秘密保護法の制定や消費税増税でも使われた。内閣支持率が落ちないことを頼りに、また民意と離れた決定がなされた。
(横山大輔)
◆「国民に背く行為」議員団が談話発表
自民党議員四人を含む六十五人が参加する超党派の「原発ゼロの会」は十一日、原発推進を鮮明にした政府のエネルギー基本計画決定を受け、「明らかに(東日本大震災の)被災地や国民の思いに背く行為」と批判する談話を発表した。
談話は、基本計画が「原発の『長所』と原発停止の悪影響ばかりが強調される一方で、再生可能エネルギーの『短所』に重きを置いた記述が目立つ」と指摘。「原発ゼロへの民意に向き合うことなくまとめられた本計画は、正当性に欠ける」としている。
ゼロの会は今年一月、基本計画で原発ゼロへの道筋を明確にするよう求める提言を茂木敏充経済産業相に提出していた。