福島第一原発 以前から問題多く「スパゲティ症候群」の指摘
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140412-00000005-pseven-soci
女性セブン 2014年4月24日号
事故から3年が過ぎ、事故の記憶が少しずつ薄れているのとは正反対に、福島第一原発の現場では深刻さが増している。何かを処置すれば、また別の問題に直面するその繰り返し。ある原発で所長を経験したことのある人物は、この状態を指して、「まるでスパゲッティ症候群だ」と言う。しかも、「震災前から原発はスパゲッティ症候群だったんです」と言うのだ。ジャーナリストの藤吉雅春氏が現地の実情をリポートする。
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スパゲッティ症候群とは、重病患者を治療するため、体中にたくさんのチューブやセンサーを取り付けた状態のことだ。次から次にチューブは増えていき、一体、何の目的かもわからなくなっていく。効果がないかもしれないが、チューブを外せば絶命してしまうかもしれない――
メルトダウンする以前からスパゲッティ症候群だったとはどういう意味だろうか。
まず、事故前に福島第一で安全管理を担当していた東電保全部の元関係者が、こんな話をする。
「安全管理の担当者は、鬱気味の人が多かったと思う。仕事熱心な人ほど、精神が崩れていくのです」
この話を別の東電関係者に話すと、「私も人のことは言えません…」と、気まずい空気になり、こう言われた。
「自分は何のために仕事をやっているのか、わからなくなるのです。国やマスコミや地元議会に叩かれないためなのか。叩かれないために、管理強化一辺倒となり、“人”は疎かにされていきました」
きっかけは、2002年に福島第一原発などでトラブル隠しが発覚し、国の安全規制が厳しくなったことにある。安全強化は一見よいことのようだが、前出の元保全部関係者は、「こんな些細なことまで報告しなければならないのか」と思ったという。
「福島第一原発の中に設置された『不適合管理委員会』が毎週火曜日に不適合事例の検証を行い、それを5段階にランク分けします。不適合といっても、設備の不備や、水をこぼしたといったものから、部屋の壁にペンキを塗る時の刷毛の種類や下塗りの厚さ、とにかく細かいことをすべて書類にして検討するのです」(元保全部関係者)
1か月で審議される不適合事例は、なんと600件以上。審議後、現場で対策を考えて、再度書類を提出する。
書類主義は安全に見せる“儀式”のようだ。ミスが発覚すると、東電の幹部が記者会見で深々と頭を下げる。そのたびに検査項目が細かくなり、不適合管理委員会による大量の検討書類が増える。
これで世の中は「安全になった」と思いこむが、原子力安全・保安院の元関係者はこう言うのだ。
「“木を見て森を見ず”の検査になり、本当の意味での安全の議論などする余裕がなくなるのです」
現場からは本末転倒の声が聞こえてくる。
「書類に縛られて、プラントを見に行く時間が減った」
これでは何のための安全対策なのか。規制が増えてこんがらがり、安全対策担当者たちの精神が次第にまいっていく。これがスパゲッティ症候群だというのだ。
東日本大震災の数日前、前出の元保全部関係者は、仕事帰りに東電の先輩から不安な顔でこんな悩みを聞かされた。
「共産党が議会で津波対策のことを指摘するらしい」
当時、最大で15.7mの津波が起こりうると試算されたものの、東電はその対策に莫大な予算と年月がかかることから躊躇していた。元保全部の彼もこう返した。
「そんな大きな津波が来るわけがないじゃないですか。新しい想定といっても、それは机の上で研究している人たちが言っているだけですよ」
目の前にある膨大な検査に追われて、本当に来るかわからない津波など考える余裕はなかった。いちばん重要なことを後回しにする危険な思考回路に陥っていたのだ。この会話から数日後、巨大な津波によって3つの原子炉がメルトダウンするという最悪の事態が現実化したのだ。