STAP細胞はあるのか 〜検証 小保方会見〜 クローズアップ現代
STAP細胞はあるのか 〜検証 小保方会見〜
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3482_all.html
2014年4月10日(木)放送
理化学研究所 小保方晴子研究ユニットリーダー
「STAP細胞はあります。」
理化学研究所 小保方晴子研究ユニットリーダー
「STAP細胞は200回以上作製に成功しています。」
論文に不正があるとされた、小保方晴子研究ユニットリーダー。
日本中が注目した昨日(9日)の会見から一夜。
NHKが国内の科学者20人以上を取材したところ、会見の内容に疑問を感じる声が相次いで寄せられました。
「科学的に違和感」。
「『科学の常識』からかけ離れている」。
科学者たちの疑問の背景には、研究の核心部分の実験結果の画像を切り貼りするなど、科学の世界では通常考えられない行為が行われていたことがあります。
研究者
「無いものを入れたりするのは、現実と違う。
科学の世界では許されないこと。
科学的にはアウト。」
理化学研究所 小保方晴子研究ユニットリーダー
「研究を続けていきたいと考えております。」
STAP細胞を巡って深まる疑念。
その真相に迫る緊急報告です。
■揺れるSTAP細胞 検証 小保方会見
STAP細胞の論文疑惑。
理化学研究所 調査委員会 石井俊輔委員長
「小保方氏が、ねつ造にあたる研究不正行為を行ったと判断した。」
理化学研究所の調査委員会がねつ造があったと認定したのは、「ネイチャー」に掲載されたこの画像です。
3年前の博士論文に使われた別の実験の画像と、極めてよく似ていたのです。
これについて、昨日の会見で小保方リーダーは単なる取り違えだったと反論しました。
さらに、論文に本来掲載すべきだった正しい画像が存在し、その証拠は実験ノートの記録に残っていると主張しました。
理化学研究所 小保方晴子研究ユニットリーダー
「記述がノートにございます。
自分でやった実験ですので、自分で書いたノートですので、そこには自信は当然ございます。」
小保方リーダーが証拠だとした実験ノート。
研究者には欠かせないものです。
京都大学のiPS細胞研究所で見せてもらうことにしました。
「これがうちで使っている実験ノートです。」
実験ノートは日々の実験の結果を詳細に記録するための専用のノートです。
日付を必ず書き込み、画像やデータなども貼り付けて保管します。
論文の作成や特許の申請に使うため、定期的にチェックを受け、サインをもらいます。
別の研究者が見ても内容を理解できるように書くことが基本で、万が一ねつ造の疑惑をかけられても身を守る手段になります。
一方、調査委員会が小保方リーダーの実験ノートを調べたところ、日付が入っていないものが多く記述も断片的でした。
正しいとされる画像がどのような実験によって得られたのか、確認することはできませんでした。
小保方リーダーも、会見で実験ノートの記入のしかたに不十分な点があることを認めました。
理化学研究所 小保方晴子研究ユニットリーダー
「まず記述方法につきましては、当時の私にすれば十分トレースできるものだった。
第三者がトレースするには不十分だった点に関しては、本当に私の反省するところです。」
今回NHKは、20人を超える研究者に小保方リーダーの会見をどう見たか取材しました。
その中には、実験ノートに不備があったことに対する厳しい意見がありました。
40代 国立大学准教授
“客観的に示すデータがあって初めて科学者としての主張ができるのであり、それがない仮説はただの妄想。”
50代 国立大学教授
“小保方氏はなぜ、STAPはあるというノートをいまだに公に提示しないのか。”
論文不正に詳しい専門家も、科学の世界では客観的な証拠を示せなければ、いくら主張をしても説得力がないとしています。
九州大学 生体防御医学研究所 中山敬一教授
「ノートがあっても日付がないとか、乱雑で何が書いてあるか分からないとか、前後関係も全く分からない、単なる走り書きみたいなものがあっても、第三者が追跡できなければ証拠にならない。
きちんと証明をして、証拠を出して、納得してもらって初めて科学になる。
それをしないと科学ではない。」
調査委員会が不正と認定したもう1つの画像。
それは、STAP細胞が存在したことを示す遺伝子の痕跡です。
一連の実験で得られた別の画像が切り貼りされていました。
画像は、どのように切り貼りされたのか。
実際にやってみることにしました。
市販の画像加工ソフトを使い、右の画像からその一部を切り出して角度を合わせてから縮小。
左の画像に貼り付けます。
僅か数分でできました。
昨日、会見で小保方リーダーは、見やすくするために切り貼りしただけで結果は変わらず改ざんではないと主張しました。
理化学研究所 小保方晴子研究ユニットリーダー
「結果自体が変わるものではないので、それ以上の科学的な考察に影響を及ぼすとまでは考えていなかった。」
画像の切り貼りをすることに問題はないのか。
実験でDNAの痕跡を写すのに使ったのは、寒天です。
細胞のDNAを寒天に注入し、特殊なカメラで撮影するとしま模様が現れます。
ところが、寒天は1つ1つ微妙に違いがあるため、同じDNAであっても結果に差が出ることがあります。
左の寒天には線が3本現れていますが、右の寒天には線が2本しか現れていません。
たとえ一連の実験であっても結果に微妙な違いが出るおそれがあるため、注釈を付けずに画像の切り貼りを行うことは大きな問題だといいます。
京都大学iPS細胞研究所 沖田圭介講師
「(違う寒天による結果は)同じものとしてはのせない。
直接比較ができないし、(科学者として)やってはいけない。」
画像の切り貼りは不正に当たらないとした小保方リーダー。
しかし研究者たちからは疑問の声が上がっています。
50代 国立大学教授
“切り貼りされていることはすぐには気付きません。
意図的に読者のミスリードを誘導するために行われたと思われても、しかたありません。”
専門家は、科学の世界では切り貼りを行っただけで信頼を失ってしまうと考えるのが常識だと指摘します。
東京大学 上昌広特任教授
「小保方さんの考えを推し進めると、結果さえ良ければプロセスが多少間違っていてもいいと。
すると、どこまでもデータを改ざんすることが許されてしまう。
結果があっていれば多少図をいじってもいいじゃないかと、これはどう見てもおかしいですよ。」
■揺れるSTAP細胞 検証 小保方会見
ゲスト北澤宏一さん(東京都市大学学長)
ゲスト藤原淳登記者(科学文化部)
●会見を聞いた科学者の声は一様に厳しいが?
藤原記者:そうですね。
私も昨日会見に出席してきたんですけれども、その中ではねつ造と改ざんについて、小保方さんから、例えば実験のデータですとか画像ですとか、そういう科学的な新たな証拠が示されることが期待されていたんですけれども、昨日の会見の中では、その科学的な部分については小保方さんの発言もあいまいな点も多く、この疑問を払拭するような新たな証拠が示されることはなかったという印象でした。
北澤さん:小保方さんの昨日の会見は、あのネイチャーの論文の大事な部分というのは間違っていました、あるいは違うものが差し込まれていましたということをみずからお認めになられたわけですけれども、そうなるとあのネイチャーの論文は科学的にはもはや存在しない、そういう論文であると考えざるをえなくなりましたので、その意味ではSTAP細胞が存在するというようなことはなくなって、仮説の段階に戻ったというふうに考えざるをえないと思います。
●クリアなデータに差し替えるなど誤った考え方はよく起きる?
北澤さん: 科学を進めていくときには実験をやって、それで自分の立てた仮説を証明していくわけですけれども、そのときに、一番最初に学生たちが出会うのは、その実験で仮説を証明しようとするときに、一番最初のころはまだ実験も下手ですから、そうするとデータがばらつくんですね。
ばらつくと、こういう点がとれて、こういう点がとれて、それで本当はこのぐらいに出てきてほしいというときに、こちらを捨て去ってこちらを採用するっていうようなことは、学生たち、よくやるんです。
だからそれを、こんなことやっちゃだめなんだよ、科学っていうのは事実がすべてなんだ、事実のほうがあらゆることよりも強いんだということを、ちゃんと言わなきゃだめだろうということだと思います。
●あとから出てきたより良いデータを採用する場合、どこから始めるべき?
北澤さん: あとになればなるほど、学生の実験のテクニックってよくなっている場合もあるわけで、もしそうだとするとそれまでのデータを全部捨て去って、その上でもう1回一連の実験をやらないと、それは都合のいいデータだけとっていったら違う結論が出てきてしまうんで、これはもうとても許されることではないんですね。
●小保方リーダーは博士論文を取ったプロの研究者だが?
北澤さん: でもこれはやはり学生時代に、特に卒業論文を始めた頃に、そういうことをきちんと大学では教え込まないといけないと思います。
やっぱりねつ造とか改ざんっていうのは、世界的にもたくさんありますし、それを教え込まなければ、学生たちがそういうことに染まっていってしまうというふうに思います。
心配します。
●理研と小保方リーダーとの対立、どんな問題があった?
藤原記者: 今回は十分に自分の弁明の機会が与えられなかったということも言ってますので、そういう意味では、調査委員会が今回の不服申し立てに対して詳しく検討して、再調査をするかどうかについて、来週にもその判断をし、仮に再調査が必要ということになれば再びまた調査が始まるということになります。
■STAP細胞はあるのか 研究者たちの疑問
理化学研究所 小保方晴子研究ユニットリーダー
「わたし自身、STAP細胞は200回以上作製に成功しています。」
STAP細胞が存在することを強調したこの発言。
しかし、研究者にとっては逆に疑念が深まったといいます。
論文によると、マウスからSTAP細胞を作り出し、万能性を確認するのに1か月近くかかります。
200回作るとなるとその作業量は膨大。
また、その目的もはっきりしないと指摘されています。
30代 国立大学助教
“200回以上再現したということは、通常の研究者ならやりません。
時間のむだです。”
50代 私立大学教授
“どのような科学的根拠に基づいてそれを発言しているのか不明です。”
さらに、STAP細胞の再現性についての発言も物議を醸しています。
理化学研究所 小保方晴子研究ユニットリーダー
「インディペンデント(第三者の研究者)にやっていただいたこともあります。」
「その方は成功したのでしょうか?」
理化学研究所 小保方晴子研究ユニットリーダー
「その方は成功しています。」
「どなたか教えていただけますか?」
理化学研究所 小保方晴子研究ユニットリーダー
「ちょっと個人名になってしまうので、あまりに公の場ですので。」
もし本当に第三者が再現に成功しているのなら、STAP細胞が存在する証しになります。
にもかかわらず詳細を公表しない姿勢を、研究者たちは批判しています。
その1人。
3度にわたる再現実験を試み失敗した、関由行さんです。
これまで世界の研究者たちによる成功例が1つも確認されていない中、再現できたという発言はすぐには信用できないと感じています。
話:関西学院大学 関由行准教授
「実験データがない状態で第三者が成功したといわれても、全く説得力がないと感じました。」
■STAP細胞はあるのか 求められる調査
こうした中、研究者たちは理化学研究所にもまず、すべきことがあると指摘しています。
理研には今もSTAP細胞から作ったとするマウスの細胞組織などが保存されています。
この組織を「次世代シークエンサー」と呼ばれる最新の装置で分析すれば、STAP細胞の存在の有無を確かめられる可能性があるのです。
この装置には、微量のサンプルからでもマウスのDNAの25億に上る塩基配列を読み解く能力があります。
理研が保存しているサンプルがSTAP細胞から本当に作られたのか。
それとも、全く別の細胞なのか解明が期待されています。
DNA分析の第一人者、菅野純夫さんです。
東京大学大学院 菅野純夫教授
「ゲノム(遺伝情報)を調べると、STAP細胞がちゃんとあるのかないのかについて、ある種のデータがとれる。」
分析にかかる時間は僅か2週間。
しかし理研は、現時点ではこうした分析を行う予定はないとしています。
■STAP細胞はあるのか 真相はどこに
●次世代シークエンサー装置での分析の予定はない?
藤原記者: はい、理化学研究所では現在、実際にSTAP細胞が再現するかどうか、再現できるかどうかについての実験は今後1年かけて行うということは、すでに発表しているんです。
しかしこの今、研究所に残っているサンプルを、先ほどのVTRにありましたような最新の装置を使って詳しく調べ上げるかどうかについては、今のところまだ具体的な話にはなっていないんです。
●この論文を検証する上で有益なサンプルは他にもある?
藤原記者: 現時点で分かっているものとしましては、STAP細胞から変化させて作った「STAP幹細胞」というのがあるんですけれども、このSTAP幹細胞と、あとSTAP幹細胞からさらに作られた「キメラマウス」、これはまだ飼育されて生きた状態でいるんですけれども、そういったものが残っていることが分かっていますし、あと昨日の会見でも出てきましたが、STAP細胞から作った「テラトーマ」と呼ばれる組織があるんですけれども、この組織はごく顕微鏡で見るためのサンプルとして残されていることが分かっていますので、こうしたものをしっかりと調べ上げて、一体それがなんなのかというのを突き止める必要があると思います。
●理研として、信頼回復に向けてこれからやるべきことは?
北澤さん: 理研はまずこれだけやっぱり世間を騒がせたわけですから、その意味では、STAP細胞があるのかないのかっていうのは、今お話があったように小保方さんが残したという証拠をまず調べる。
その上で場合によってはゼロから始めて、STAP細胞があるかないかをきちんと確認するっていう、そういう作業がまず必要だと思います。
●今回の騒動、日本の体制はどういうところがぜい弱?
北澤さん: 今回の教訓としてはですね、やはり研究者はどうしても自分のデータの完全さとか美しさとか、いろんなそういうことに、魅力のあるものにしたいっていう誘惑にかられるような面がありますから、その意味ではデータを何人かで共有する、あるいはそれをどこかに預けておくシステムを、もうIT化の時代ですからそういうシステムを作る。
さらには重要なデータが出たときには、それを指導者がそこにもう1人、人を入れて、そしてそれを確認実験をしてから論文を出すといったような、そういったことを制度として入れていく必要があると思います。
(複数の目で確かめていく制度を作っていく?)
はい。
こういう制度を作れば、世界もねつ造問題とかそういったことで悩んでいますから、理研の新たなやり方っていうのを学ぶというふうになっていくかと思います。
●研究者の基本的な倫理の部分も問題では?
ですから、若いうちに研究者になろうとしている学生たちに、指導者たちは何が科学として大事なのか、事実こそ大事なんだということをきちんと教え込んでいく必要がありますね。