森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 橋下民主主義の危うさ
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週刊実話 2014年2月27日 特大号
橋下徹大阪市長が、来年末までの任期を残しながら突然辞任を発表した。さらに3月に行われる出直し市長選に立候補するという。自民党や民主党は、対立候補の擁立を見送る予定のため、橋下氏の“再選”は確実だ。橋下氏がこうしたマッチポンプに打って出る理由は、暗礁に乗り上げた大阪都構想を推進するためだ。
大阪市議会では、橋下氏が代表を務める大阪維新の会は、過半数を得ていない。そこで橋下氏は、公明党の協力を得て大阪都構想の実現を図る腹づもりだった。そのために前回の総選挙で大阪維新の会は、公明党と選挙協力もした。ところが、大阪都の区割り案を一つに絞り込む段階で、公明党が慎重に検討する姿勢を打ち出したため、橋下氏が怒りを爆発させたというのが、今回の辞任劇の背景だ。
橋下市長は、焦っている。水道事業の府市統合や市営地下鉄民営化など、市長選の公約で掲げた主要政策は何一つ実現していない。これで大阪都構想が頓挫すれば、政治的に何の実績も残せないことになる。だからといって、再び市長選に打って出て自分に対する市民の支持の高さをアピールするという戦略は、あまりに自分勝手だ。
確かに橋下氏の出直し市長選で圧勝するのは確実だが、2011年4月に行われた市議会選挙の結果もまた、重大な民意なのだ。放っておいても、来年4月には市議会選挙があるのだから、そこまで待てばよい。
大阪市長選挙は、少なくとも5億円もの選挙費用がかかる。しかも、橋下市長は、再選されたあと市議会が大阪都構想を否決すれば、再度市長選に打って出る構えだ。年内に2回、市長選挙が行われることになる。当然、選挙費用も2倍かかるのだ。
橋下市長は、大阪市の財政再建のために、住民福祉を含む多くの分野で予算をカットしてきた。文楽協会への2900万円の補助金についても、公演の入場者数に年間10万5000人のノルマを課し、達成できなければ補助金を減額する。今年度の入場者がノルマを達成するのは絶望的で、文楽協会への補助金は大幅にカットされる見込みだ。伝統文化に対して厳しい姿勢で臨みながら、自らの政治的パフォーマンスのために莫大な市民の税金をつぎ込む姿勢は、わがまま以外の何物でもないだろう。
橋下市長は、大阪府知事の時代にも、大阪市長選に立候補するため任期途中で辞任した。明言はしていないが、今回、出直し選挙に合わせて、国政を担う日本維新の会の共同代表も辞任する可能性を示唆している。日本維新の会は、橋下氏の看板で保っているようなものだ。だから代表辞任は、橋下氏に共鳴して集まった議員やスタッフを裏切ることになる。
また橋下氏は、出直し市長選に負けるようなことがあれば、松井一郎大阪府知事と一緒に政界を引退するとした。この発言こそ、橋下氏の民意無視の象徴だ。松井府知事は、大阪府民の民意で選ばれている。橋下市長が道連れにしてよい理由はどこにもないのだ。
橋下民主主義の暴走を抑えるためには、本来なら出直し市長選挙で大阪市民がきちんと意思表明をしないといけないのだが、主要政党が候補者擁立を見送る中、実質的に対抗馬を選べない可能性が高い。民主主義の崩壊だ。