靖国参拝失敗の検証記事をこの時期に掲げた朝日の意図
http://blog.goo.ne.jp/ichimurasan2006/e/2d77d0396d50b9482fb407fecc6a0a60
★「天木直人氏の視点ー(2014/01/28)」★ :本音言いまっせー
きょう1月28日の朝日は一面トップと二面を使って、昨年12月26日に行われた安倍首相の靖国参拝についての検証記事を大きく掲げている。
その内容の多くは、すでに各紙が断片的に推測記事として書いて来たことだ。
しかし、これほど総括的に、そして断定的に、多くの日米両政府関係者の証言を引用して書かれた検証記事ははじめてである。
そしてその内容は極めて深刻だ。
すなわち、政府内部のあらゆる関係者が懸念を抱いていたにも関わらず、誰も反対の声を出せずに訪問を許したこと、
とくに外務省の衝撃と落胆は大きく、「参拝すれば日本外交の底が抜ける」とまで認識していたのに止められず、今省内では虚脱感が漂っていること、
安倍首相でさえも当初はためらっていたが、側近議員(古屋圭司拉致担当相、衛藤晟一首相補佐官、山谷えり子参院議員ら)におされて決断したこと、
その根拠が、「関係が改善し、首脳会談が行われると参拝できなくなるから、関係が非常に厳しい今しか参拝の機会はない」という本末転倒の判断があったこと、
米国の判断を見誤り怒らせたこと、その背景には辺野古移転の決断を米国は評価するだろうという甘い読みがあったこと、
米国の「失望」はオバマ政権の総意であり、もっとも強く「失望」したのは、オバマ政権と米国議会の調整役を一手に引き受けているバイデン副大統領であったこと、
これで米国議会と安倍政権の関係も悪影響が出かねないこと
事態がここまで深刻になっているというのに、誰も安倍首相を止められず、「関係修復どころか、総理が再び参拝するかもしれない」(政府関係者)という懸念があること、
もはや米国は従軍慰安婦問題と靖国問題では韓国の立場を理解し、集団的自衛権の行使うをめぐる韓国の立場(朝鮮半島では行使させない)にも理解を示すようになっていること、
以上が朝日の検証記事の骨子であるが、これは驚くべき深刻な検証記事である。
注目すべきは朝日がこの時期に一面トップでこれを大きく書いたことだ。
朝日は今や日本の大手メディアの中では最も米国に近く、日米同盟関係をもっとも重視しているメディアである。
その朝日が安倍首相の靖国参拝問題について、ここまで警鐘を鳴らすことは非常事態であるということだ。
安倍首相はもはや右翼側近を切り捨て、米国の意向を受け入れるしかない。
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参拝3日前、側近を私邸に呼んだ 安倍首相の靖国参拝
http://www.asahi.com/articles/DA3S10948357.html?ref=reca
2014年1月28日05時00分 朝日新聞
昨年12月23日。政権発足1年となる3日後に靖国神社に参拝すると決めた安倍晋三首相は、側近の今井尚哉秘書官を東京・富ケ谷の私邸に呼び、打ち合わせに取りかかった。
当日の段取りや参拝後の談話、各国への説明――。情報漏れを防ぐため、参拝方針は菅義偉官房長官ら数人を除き当日まで伏せられた。本殿にまつられない、海外の人々も含めたすべての戦没者の霊をまつる「鎮霊社」への参拝も、この頃固まった。「不戦の誓い」を強調するためだ。周囲には内心、靖国参拝に反対の者もいたが、声に出せなかった。
保守主義者を自任する首相は靖国参拝を、外交や内政への影響を超える「信念」の問題と位置づけた。「自民党が政権を担うようになったら堂々と参拝すべきだ」と野党時代に公言し、第1次政権での参拝見送りを「痛恨の極み」と表現した。首相復帰後、ひたすら参拝のタイミングをうかがい続けた。
最初は第2次政権発足翌日の2012年12月27日を検討した。反対派の機先を制そうと首相周辺がもくろんだが、経済政策が滞るのを恐れた側近の反対でついえた。昨年春の例大祭は7月の参院選への悪影響、秋の例大祭は台風被害への対応……。そのつど理由を付けて、参拝を見送った。中韓両国への配慮もあった。
だが、次第に首相の支持層から参拝を求める声は強まった。秋の例大祭への参拝を見送った約1週間後、首相に近い古屋圭司拉致問題相、衛藤晟一首相補佐官、自民党の山谷えり子参院議員らが集まり、「参拝に行ってほしい」と声を上げた。
首相は9月の主要20カ国・地域(G20)サミットで中国の習近平(シーチンピン)国家主席に立ち話を持ちかけるなど対話の糸口を探ったが、改善の兆しは見えない。11月、中国は尖閣諸島上空に防空識別圏を設定し、韓国との協議も難航を極めた。「関係が改善し、首脳会談が始まったら参拝はできない」(政権幹部)。参拝するなら関係が非常に悪い今しかない、との思いを強めた。
米国の「失望」という反応は首相にも想定外だった。参拝前日、米軍普天間飛行場の移設先である沖縄県名護市辺野古の埋め立て申請に県知事から承認を得る見込みが立った。米国もこれを評価し、強く反発しないと踏んでいたからだ。
「任期中に一度は行かなければいけなかった。タイミングの問題だった」と官邸首脳は語るが、首相は今後の参拝の有無についても明言しない。
■副大統領は「参拝せず」と理解した
安倍首相の靖国神社参拝は、日韓関係はもちろん、対米関係の冷却化を招いた。背景には、昨年12月6日にソウルであった朴槿恵(パククネ)韓国大統領とバイデン米副大統領の会談がある。
バイデン氏は3日に行った安倍首相との会談内容を説明。首相が日韓関係で行きすぎた対応があったことを認めた、と伝えた。安倍氏が村山、河野両談話を継承し、靖国参拝を行わない考えを示した、とも説明したうえで、日韓協力を進めるよう求めたという。
この情報に触れた日本政府は「首相が靖国への不参拝を外国要人に約束するわけがない」(関係者)と驚いた。米韓両政府に会談内容の確認を求めたが、ほぼ同じ趣旨の答えが返ってきた。複数の関係者は「なぜ、バイデン氏がそう理解したのかは謎だ」と語る。
昨年10月に訪日したケリー国務長官とヘーゲル国防長官は靖国神社ではなく、東京都千代田区の千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪問。日本外務省は「靖国に参拝するなというメッセージ」(同省当局者)と受け取っていた。別の関係者は「バイデン氏は、自分の願望も含めて朴氏に語ったのではないか」とみる。
複数の日本政府関係者によれば、日本外務省は昨夏、首相官邸でも一部の関係者だけの秘密とされていた年内の靖国参拝に向けた首相の動きを察知。米国の政府、議会関係者や有識者らの反応を極秘に探った。結果は「安倍政権の外交を百%支持するが、参拝すれば、その評価は百八十度変わる」といった否定的なものばかりだった。
外務省はこの結果を首相官邸に報告したが、菅官房長官が参拝に慎重になる一方、安倍首相の姿勢に変化はなかったという。
バイデン氏の発言はこうした経緯を踏まえたとみられる。事実、首相の靖国参拝後、日本政府が米国の反応を探ったところ、「バイデン氏の反応が最も激烈だった」(政府関係者)といい、これが米政府の「失望」という表現につながったとみている。
日本政府関係者の一人は「バイデン氏はオバマ政権の議会調整役を一手に引き受けていた。元々、首相とオバマ氏の関係は良好とは言えないのに、さらに米議会との関係にも悪影響が出かねない」と懸念する。
一方、韓国政府関係者はバイデン氏の発言を契機に「米国は今、日本よりも韓国寄りになっている」との見方を語る。そのうえで、安倍政権が推進する集団的自衛権の行使や敵基地攻撃能力の保有などの協議が、少なくとも朝鮮半島では進まなくなると予測する。
韓国政府によれば、米国は従来、韓国側に対して、集団的自衛権の行使を巡る安倍政権の政策について「日米同盟の枠内で行うので、理解してほしい」と説得してきた。同時に「従軍慰安婦と靖国参拝の問題では韓国の立場を理解する」という考えを韓国側に伝えていたという。
韓国は敵基地攻撃能力について「朝鮮半島の唯一の合法政府である韓国の承認なしに、日本が攻撃することは認められない」として、北朝鮮に対する敵基地攻撃も基本的に容認しない考えを示している。
1月に入り、谷内正太郎国家安全保障局長が訪米。バーンズ米国務副長官が来日した。いずれの場でも日韓の関係改善を米側が働きかけた形だ。だが、韓国政府関係者は「関係修復は簡単ではない」。日本側にも「関係修復どころか、総理は再び参拝するかもしれない」(政府関係者)との懸念が広がっている。
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「あす靖国参拝」切れた日韓の糸 首脳会談協議の翌日、通知
http://www.asahi.com/articles/DA3S10948386.html
2014年1月28日05時00分 朝日新聞
「明日、総理が靖国に参拝する可能性がある。準備してほしい」
韓国政府が日本からの非公式な通知を受けたのは、昨年12月25日夜。安倍晋三首相の参拝前夜だった。
韓国側は絶句した。前日、日中韓首脳会談の実現に向け、東京で日韓の外交事務当局者が協議したばかり。1週間前の18日には、日韓首脳会談実現の地ならしとして、翌1月に日韓次官級対話を行うことを模索する事務協議も行っていた。
靖国神社参拝を模索する首相周辺の動きを止めようと、外務省は日中韓と日韓の両首脳会談の可能性を探っていた。日韓の外交当局はこの時点で「年内は無理でも、3月の核セキュリティーサミットあたりで首脳会談を模索できるかもしれない」と見ていたが、全て水泡に帰した。韓国側には「参拝やむなしの口実に使われたのか」(韓国政府関係者)という不信感だけが残った。
首相官邸の首相側近は昨年10月ごろから外務省などに「政権発足1周年を契機に、北京に行くのか、靖国に行くのか結論を出す」と伝えていた。外務省は「参拝すれば、日本外交の底が抜ける」(幹部)と危ぶみ、日中、日韓、日中韓の各首脳会談の早期実現に向け、遮二無二、進み始めた。
日韓首脳会談に向けては、昨年7月と9月に実現した外相会談を受け、すでに調整が始まっていた。
さらに11月7日、ソウルで日中韓次官級対話が開かれたことで、外務省は首脳会談の実現にも淡い期待を抱いた。同月14日、斎木昭隆外務次官が李丙ギ韓国大使を外務省に招き、「どんな日程でも調整する」と伝え、年内の日中韓首脳会談の実現を強く要請した。
ただ、韓国側は日韓首脳会談実現の条件として、安倍首相が自分の言葉で村山・河野談話を継承する考えを語ることを要請。従軍慰安婦問題を解決するため、(1)首相による謝罪の手紙(2)人道上の理由以外での政府予算による元慰安婦支援などを求めた。
だが、「前提条件なしの首脳会談開催」を求める安倍首相の意向を受けた外務省はこれに難色。逆に、「国際社会での反日行動の自制」「日本による支援が今回で最後であることの明確な保証」を打診し、交渉は暗礁に乗り上げた。
さらに、防空識別圏の問題を契機に日中対立が激化。日本は、日中韓首脳会談の2014年の議長国を、引き続き韓国に任せる考えから、日本が就いて主導権を握る方針に転じた。中国も12月19日の中韓次官級対話で、日本が議長国になった場合は、日中韓首脳会談に絶対に応じない考えを表明。韓国は板挟み状態になり、12月24日の日韓事務協議でも結論は出なかった。
一方、首相官邸の高官は12月初めの段階でもなお、「靖国に行けば、外交はめちゃくちゃになるだけだ」と語り、首相の参拝に否定的だった。韓国政府関係者は今、「日本は官邸のごく一部の側近たちだけが、外交の論理とは別の次元で動いていた」と振り返る。
外務省関係者の一人は「今、省内には虚脱感が漂っている」と打ち明けた。
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首相官邸は靖国参拝と中韓との関係改善をどう整理していたのか。米国はなぜ、参拝にあれほど怒ったのか。背景を探った。
(機動特派員=牧野愛博)