大新聞はなぜ政権を正面から批判しないのか 腰抜けメディアがこの国の民主主義を殺す
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2013/11/6 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
どのチャンネルに合わせても四六時中、安倍礼賛報道ばかり――。そんな北朝鮮さながらの異常な光景が現実となりかねない。
NHKの松本正之会長の任期満了が来年1月に迫り、安倍官邸がロコツな「松本降ろし」を画策しているからだ。引きずり降ろす理由は、NHKの報道内容が気に入らないのである。原発再稼働やオスプレイ配備の問題点を取り上げた番組に、自民党の保守系議員がブーイングを上げ、ツルんでいるのか、安倍官邸も「我が意を得たり」とばかりに便乗したのだ。
まさに政治の言論介入で、民主主義の否定だ。権力の横暴以外の何モノでもないのだが、意に介さない安倍官邸はNHK乗っ取りシナリオを着々と進めている。
NHK会長を選ぶ経営委員に4人の安倍シンパを新たに送り込み、会長人事の「拒否権」を握る算段だ。国会同意人事だが、衆参の数があるから何でもできる。会長続投には経営委員12人のうち9人以上の賛成が必要で、安倍シンパ4人が反対すれば会長のクビが取れる。
かくして、政権与党の意向に沿わない報道機関のトップは簡単にクビを切られてしまうことになった。後任会長は内部昇格にしろ、外部登用にしろ、間違いなく「安倍のお友達」が選ばれるのだろう。NHKは安倍官邸の“お抱え機関”になるのである。
◇ガキの腹いせで「あべさま」の公共放送に
安倍官邸はここまでNHKを目の敵にする裏には「私怨」が見え隠れする。05年1月に発覚した「NHK番組改変問題」へのリベンジだ。
01年当時、官房副長官だった安倍が従軍慰安婦を扱った番組の放送直前にNHK幹部を呼び出し、「内容が偏っている」と苦言を呈した。この面談後に番組内容が大幅に変わった、と朝日新聞がスッパ抜いて、その後、圧力を「かけた」「かけない」で大モメになったアレである。
「安倍氏は『NHKに政治圧力をかけた』と批判にさらされました。当時の安倍氏はポスト小泉の筆頭格。恐らく本人は“自分の追い落としを狙った意図的なリークで、NHK関係者が自分に汚名を着せようとした”と受け止めたのでしょう。以来、NHKとの関係は悪化。恨みを晴らす機会を待っていたのだと思います」(改変問題を取材したジャーナリストの横田一氏)
安倍の子供じみた腹いせで、公共放送の報道姿勢が歪められていいのか。放送法の第1条には「不偏不党」の原則や「放送の自主自立」が唱えられている。しかし、私怨や私憤しかない安倍は「言論の自由」や「放送の独立」などクソ食らえなのだろう。
もちろん、NHKは逆らえず、「みなさまのNHK」から、「あべさまのNHK」に変貌していく。本当に平壌放送や人民日報とどこが違うのか、というありさまだ。
◇腰抜けメディアがこの国の民主主義を殺す
問題は、ここまであからさまな安倍の言論介入を他のメディアがまったく批判しないことだ。どの新聞も経営委員の新メンバーを「安倍首相に近い」と書く程度で、安倍官邸のロコツな言論介入を糾弾する記事はどこにも見当たらない。
「メディアがこの体たらくだから、安倍政権の数に頼んだおごり高ぶりが横行するのです。特定秘密保護法案なんて、国民の知る権利を土台から壊す危険なシロモノ。言論の自由を奪われれば、メディアだって商売あがったりです。今まさに権力にケンカを売られているのに、まるで歯向かおうとしない。これじゃあ、ますます安倍政権はツケ上がる。メディアが悪政・暴政をエスカレートさせているようなものです」(元NHK政治部記者で元椙山女学園大教授の川崎泰資氏)
2日付の朝日新聞は、〈経済だ、株だとかまけるうちに面舵いっぱい、気がつけば国の鼻先はあらぬ方に向いていたと悔やむのは避けたい〉と、安倍政治をチクリと批判していた。ただし、掲載先は1面下段の小コラム「天声人語」。言論の自由を踏みにじる政権には、1面からキャンペーンを張って「100倍返し」を食らわせて当然なのに、そうしない。だったら「言論機関」の看板を返上した方がいいが、朝日はまだマシな方で、他紙なんて批判コラムすら載せないのだ。もはや日本のメディアには、小コラムのスペース程度の良心も残っていないのか。暗澹たる気持ちになってくる。
大新聞が政権を批判すべき材料は、それこそ山積みだ。1日から審議が始まった「社会保障プログラム」法案の中身だって、ムチャクチャだ。「来年度から高齢者(70〜74歳)は医療費の窓口負担2倍増」「再来年度から軽度の老人は支援切り捨て」という老人イジメの日程を決める法案だ。弱者に負担を求める前に、やるべきことがあるのに、どのメディアもそうは書かない。財務省のプロパガンダに乗っかり、財政難を錦の御旗に社会保障カットに同調だから、まったくフザケた話である。
◇恐怖政治の到来に沈黙を守り続けるのか
震災復興費の流用だって一時は騒がれたが、今や「昔のこと」になっている。原発再稼働はどうなる。日本版NSC、TPP、憲法改正……と、安倍政権は日本の将来を危うくするデタラメの限りを尽くしているのに、なぜメディアは真正面から政権を批判しないのか。
その一方で大新聞は、消費税の軽減税率欲しさに政府にスリ寄っている。「新聞は誇るべき日本の文化と民主主義の健全な機能にとって不可欠である」とか何とか言って、陳情しているのだから、こりゃあ安倍への批判なんかムリである。
メディアの自殺行為、腐敗堕落以外の何モノでもない。九大名誉教授の斎藤文男氏(憲法)はこう言った。
「安倍政権の強権発動は、今回のNHK会長人事だけではありません。日銀総裁に始まり、法制局長官など自分の意向に沿わない政府の要人のクビを次々とはね飛ばし、トップを“お友達”にすげ替えてきた。独裁国家さながらの恐怖政治がすでに始まっているのです。健全な民主主義は批判勢力が存在しなければ成り立ちません。野党が弱い今こそ言論機関が機能しなければいけない時期なのに、当のメディアにその自覚はない。このままでは日本の民主主義はジワジワと死に絶えてしまいます」
敗戦を機にメディアの戦争責任を痛感して朝日新聞を辞めたジャーナリストのむのたけじ氏は、こんな言葉を残している。
「始めに終わりがある。抵抗するなら最初に抵抗せよ」
先輩の言葉を忘れたのか。最初から白旗を掲げる日本のメディアを見ていると、その先に暗黒の世界しか見いだせない。