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2013/11/2 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
これで本当に来年4月に消費税を上げられるのか。安倍政権にこれを問いたくなってくる。
案の定というか、現場は大混乱になっているからだ。
例えば、鉄道運賃。消費税が8%になると、JR東日本の「スイカ」、東京メトロ・都営の「パスモ」は1円刻みで値上げするのに、自動券売機で買う切符は10円単位で値上げする。券売機で1円玉を使えるようにするにはコストがかかるかららしいが、これによって、同じ区間なのに“二重運賃”が発生する。「スイカ」を使えば、現在150円の区間の運賃は154円だが、切符だと160円になる。
さらに、同じJRでも、ICカードの普及率が低い北海道、東海、西日本、九州は1円刻みの値上げはしない。10円単位だ。東京から出張に出掛けたサラリーマンは「どうなってんの?」になるだろう。
タクシー料金もワケが分からなくなりそうだ。現在、東京23区の初乗り運賃は上限710円だが、増税によって一律730円に……とはいかないからだ。
「運賃の引き上げについて正式なことはまだ何も決まっていません。各事業者がそれぞれ判断して国に申請するので、料金はまちまちになると思います」(東京ハイヤー・タクシー協会)
自動販売機の飲料水は10円アップだったり、据え置きだったり。たばこは銘柄によって10円か20円の値上げになるが、一部は据え置かれる。
外税と内税の価格表示もグチャグチャだ。スーパーは「税抜き」の外税、百貨店は「税込み」の内税を基本方針としておりバラバラ。てんで足並みが揃っていない。
「特に食品スーパーは値上げしたかのように取られることを少しでも避けたい。税抜き価格と消費税分を併記する店舗が増えそうです」(流通ジャーナリスト)
店によって、表示価格が違えば、どの店が一番安いかも分かりにくくなる。買い物客からは怨嗟の声が噴出し、その不満は小売りの現場に向けられるのである。
◇軽減税率を導入できない「しがらみ自民党」
しかも、8%に上がった後、2015年10月には10%増税が予定されている。その際、軽減税率はどうなるのか。本当に2回も増税なんてできるのか。与党内もグシャグシャなのだ。
支持母体の反対を抑えて消費増税に賛成した公明党は、軽減税率を導入しようと必死だが、自民党に応じる気配はなく、野田毅税制調査会長は「(軽減税率は)さまざまなハードルがあり簡単ではない」と後ろ向き。麻生財務相も「キャビアは駄目だがイクラはいいとか、誰が決めるのか」と言って、軽減税率に反対している。
要するに、医師会、食品、小売業界などから陳情攻勢にあっている自民党はしがらみだらけ。「線引き」なんてできないわけだ。
しかし、だとすると、低所得者層はどうなる? 内需はしぼみ増税不況が吹き荒れることになる。
「そこで、現金給付と減税を合わせた『給付付き税額控除』などのプランが挙がっていますが、消費増税のダメージを考えれば、低所得層にとっては焼け石に水でしょう。確かに軽減税率では富裕層にも恩恵が出てしまう。消費増税の逆進性の解消にはならない。でも、だからといって、導入を断念すれば、景気は決定的に冷え込んでしまいます」(経済評論家の広瀬嘉夫氏)
安倍政権は一時的な対策として、住民税が非課税の世帯約2400万人に1人当たり1万円を支給する「簡素な給付措置」をとる。ただし、これは10%に上がるまでの1年半の暫定措置で、1カ月だとワンコイン(500円)に過ぎない。バカも休み休み言え、である。
◇増税で始まる「下請けいじめ」と庶民生活の混乱
一連のスッタモンダで分かったのは、安倍政権が消費増税の全体像を全く描けていないことだ。混乱の収拾はすべて民間業者の現場に押し付けようとしている無責任だ。
ただでさえ、増税で消費が冷え込むのに、民間業者は振り回されることになる。つくづく、罪つくりな政権だ。経済評論家の荻原博子氏がこう言う。
「消費増税のたびに値上げをアナウンスし、値札を張り替えなくてはならないスーパーなどは、いらぬコストを押し付けられる。もちろん、それに翻弄される消費者も大迷惑です。短期間に商品の値段がコロコロ変わったら、お年寄りなんてたまったもんじゃありません。もうひとつの懸念は、増税分のコストを納入業者に負担させる下請けいじめが横行しそうなことです。大企業は増税で消費が冷え込む上に、値札の張り替えというコストがかさむ。そのしわ寄せが中小企業に押し付けられる可能性が濃厚です」
政府は悪質な下請けいじめを取り締まる「転嫁対策特別措置法」を10月から施行したが、従わなくても罰金や営業停止といった厳しい罰則規定があるわけではない。「転嫁Gメン」を組織し、監視するというが、これぞ、アリバイづくりという気がする。結局、泣かされるのは弱者の中小零細企業なのである。
◇悪魔の税制で消費を冷え込ませる狂気
そもそも、なぜ8%に上げるのか。なぜ2段階で増税するのか。そこからして、分からない。消費税は庶民をなぶり殺す悪魔の税制だ。そんな税制で、現場を大混乱させ、しかも消費を冷え込ませるなんて、狂気の沙汰だ。そのうえ、この増税で、財政再建が担保されるのかというと、これも怪しい。不況になれば、税収は下がる。5%に上げた時もそうだった。
それじゃあ、どうするかというと、バラマキという景気対策を打つのである。支離滅裂な話である。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士・主任研究員はこう言う。
「消費税を3%上げて、8兆円の税収増と言っていますが、5兆円の景気対策をするのであれば、差し引き3兆円しか税収は増えない。だとすれば、増税は3兆円分でよかったのではないか、という議論が出てきます。しかも、歳入が増えることで、各省庁がこれにも使いたい、アレにも使いたいと言い出している。増税してもその分を使ってしまえば、財政再建にはちっとも寄与しないことになります」
だったら、なぜ、増税するのか。この増税で得するのは誰なのか。これを問いたくなるが、片岡剛士氏の説明は明快だった。
「増税することで、歳入、歳出のバランスシートが膨れ上がるんですよ。これはすなわち、官僚の権限が拡大するということなんです。そうなると、業界団体もおこぼれ欲しさですり寄ってくる。増税で得するのは、官僚とおこぼれにあずかれる人々。このままでは財政危機だと脅して、官僚が権限の拡大をもくろんでいるとすれば、あまりにもおかしな話です」
そうか、いつの間にか消費増税反対の声が消えたのは、みんながおこぼれ目当てに転じたからか。その筆頭が新聞協会で、財務官僚にゴロニャンして、軽減税率を迫っている。浅ましい話だ。かくて、国民には何ひとつ恩恵がなく、もちろん、将来世代へのツケが解消するわけでもなく、役人天国だけが肥大化することになっていく。
こんなデタラメ税制を押し付けられて、おとなしくしている庶民はアホである。