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2013/10/16 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
「実行なくして成長なし。この国会は、成長戦略の実行が問われる国会です」――。きのう(15日)の所信表明演説で、安倍首相は「成長戦略実行国会」を高らかに宣言してみせた。
安倍は「これまでも同じような『成長戦略』はたくさんありました。違いは『実行』が伴うかどうか。もはや作文には意味はありません」とまで言ったが、本当に「実行」できるかどうかは怪しいものだ。
成長戦略なんて、いつも口先だけのアドバルーンだった。絵に描いたモチのような話をいかに具体化するか。それを雇用の安定や暮らしの向上にどう結び付けるのか。それこそが問われているのに、安倍は具体的な施策を何ひとつ示さなかったからだ。
デフレ脱却や被災地の早期復興、福島原発の汚染水問題の解決、社会保障改革と財政再建の両立、若者・女性の雇用拡大、農業・農村の所得倍増……と、安倍は取り組む課題を次々と列挙したが、プロセスは何も語らなかった。どれもこれも一筋縄じゃいかないどころか、処方箋すら見当たらないのに、大風呂敷だけは広げて、高揚していた。
なぜ、安倍がやれば、この国の経済は成長するのか。
なぜ国民の生活は豊かになるのか。なぜ復興や原発被害は収束するのか。なぜ若者の年収は増えるのか。国民には答えや道筋はちっとも見えてこなかった。「実行を伴わない作文」とはまさしく、安倍の所信表明演説だったのである。
◆明治や昭和の成功者に自らを重ねる高揚感
国民をけむに巻くために安倍が持ち出したのは、“古き良き日本”へのノスタルジーと、お涙頂戴の美談の数々だ。
明治時代の教育家・中村正直の「意志さえあれば、必ずや道はひらける」との一説や、ホンダ創業者の本田宗一郎の「チャレンジ精神」を奨励する言葉を借りて、「明治の日本人にできて、今の私たちにできないはずがない」「再び起業・創業の精神に満ちあふれた国を取り戻す」と叫んでいたが、逆に「根拠はそれだけ?」と“ドン引き”した国民も多かったのではないか。精神論で経済が良くなれば苦労はしない。
安倍は福島への帰郷を決意したある母親が書いた「若い世代が暮らさないと、福島に未来はない」という手紙の一説も紹介。IOC総会で「私は失ったものを数えるのではなく、得たものを数えていきます」と語ったパラリンピックの競泳選手の“感動秘話”も織り交ぜた。そのうえで、「今の日本が直面している数々の課題も『意志の力』さえあれば、乗り越えることができる」「私はそう確信している」とも言った。
「『強い意志』だけで難題を解決できるなら、政治はいらない。陳腐な根性論など、国民は政治に求めていないのです。具体性ゼロ、中身スカスカの内容をごまかすために美談を持ち出し、国民をけむに巻こうとした演説でしたね。首相本人は高支持率や参院選の圧勝におごり高ぶり、一種のトランス状態に陥っているのではないか。明治の英傑や昭和の天才経営者に自らを重ね合わせ、今の俺なら何でもできるという高揚感に包まれているように見えました。上っ面だけの自己満足の世界に浸り、国民の暮らしに思いを寄せることがない。この先、どこまで身勝手な政治を続けるのか、と不安になります」(政治評論家・山口朝雄氏)
安倍が誇大妄想のごとく、自分に酔っていられるのは、党内に敵なしだからだ。この程度の政治家がふんぞり返る永田町。
「もうちょっとマシな政治家はいないのか」と、絶望的な気分になってくる。
◆歪んだ劣等感を隠す空疎なパフォーマンス
安倍首相は憲法改正について、「国民投票の手続きを整え、国民的な議論を更に深めながら、今こそ前に進んでいこうではありませんか」と意欲を見せた。その一方で、歴代の法制局長官からも批判が相次ぐ、集団的自衛権の行使容認への言及は避けた。
日本版NSC設置法案には言及したが、国民の「知る権利」を阻害する危険性がある「特定秘密保護法案」には触れなかった。復興法人税の廃止も素通りだった。
「地球儀を俯瞰する視点で、23カ国を訪問し、延べ110回以上の首脳会談を行った」と外交の成果を強調したが、領土や歴史認識で悪化している中韓両国との関係には口をつぐんだ。
今度の所信表明を通じて改めて思い知らされたのが、安倍の薄っぺらい口先パフォーマンス政治だ。大げさな身ぶり手ぶりを交えて、都合のいいことの上っ面だけを語る。待ったなしの染水対策や、公約が反故にされそうなTPP交渉、言論封殺の秘密保護法案など“臭いもの”にはフタをする。そこにあるのは、その場しのぎで、詐欺的政治手法である。ゴマカシというより、語るべき信念がないから、取り繕った言葉の羅列になる。
政治評論家の野上忠興氏はこう言った。
「安倍首相は米シンクタンクの講演で、『私を右翼の軍国主義者とお呼びになりたいのであれば、どうぞ』と豪語したじゃありませんか。本当の右翼なら右翼として、堂々と右寄り政策を国民に訴えたらどうなのか。確固たる思想信条や国家観、歴史認識を持ち合わせた政治指導者なら、己の信念に基づく政策を打ち出し、国民の評価に委ねるはずです。ところが、安倍首相には、そんな度胸や信念はありません。集団的自衛権の行使容認や、復興法人税の廃止への言及を避けたのは、反対する与党・公明党への配慮もあるでしょう。そうやって政権運営の妨げとなりそうなテーマにあえて踏み込もうとしない。今の首相はひたすら長期政権を見据え、ごまかしの政治を続けているだけです」
◆常に他人の目が気になる心の弱さ
安倍が長期政権にこだわるのは、一度は政権運営に行き詰まり、持病の潰瘍性大腸炎にも苛まれ、政権を放り出した過去があるからだろう。散々、自分を見下した世間を見返したい。そんな歪んだ発想も垣間見える。
ついでに言えば、安倍の家族は、祖父の岸信介や大叔父の佐藤栄作、父親の安倍晋太郎は皆、東大出の政治家だ。2歳年上の実兄も東大卒である。家族の中で、自分だけが小学校からエレベーター式で成蹊大に進学したという劣等感。そうしたコンプレックスが、長期政権への異様な執念につながっているのかもしれない。
前出の野上忠興氏は「安倍首相のパフォーマンス政治は『心の弱さ』の裏返しです」とこう言った。
「今回のような演説の前には、身ぶり手ぶり、水を飲むタイミングまで原稿にメモし、数日前から練習しているといいます。心のうちでは『今度は失敗できない』と常にビクビクしているから、いつも他人の目にどう映るのかを気にする。そんな弱気を隠すために虚勢を張り続ける。だから、過剰なパフォーマンス政治に走るしかないのだと思います」
こんな劣等感のカタマリのような男が、演説では教育改革にも触れていた。このマンガ的ナンセンスが、すべての政治課題の解決不能を暗示し、この国の笑えない未来を象徴しているようだ。