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週刊エコノミスト 10月15日(火)10時47分配信
◇須内康史(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)
中国食肉大手の双匯国際控股は9月26日、米国豚肉加工大手のスミスフィールド・フーズの買収手続きを完了した。中国企業による過去最大級の米企業買収となったが、中国企業による対米投資については米国内でいまだ安全保障上の懸念が燻っている。
今年5月、双匯国際はスミスフィールドと約47億ドル(負債引受額を含めると約71億ドル)で買収することで合意。その後、買収計画を、米政府の対米外国投資委員会(CFIUS)が国家安全保障上の観点から審査し、9月6日に承認が出た。
CFIUSは九つの行政機関の長から構成され、外国企業による米企業の買収が国家安全保障に脅威を与えるものでないか審査を行う。審査にあたっては、買収が米国の基幹産業に与える影響や外国政府による支配をもたらす可能性などが考慮される要素とされている。ただ、明確な審査基準やガイドラインなどは示されておらず、個別ケースの審査内容も一切公開されない。
スミスフィールド買収についても、CFIUSの具体的な審査内容に関する情報は公開されていない。しかし、7月10日に行われた米議会上院農業委員会の公聴会で、双匯国際と中国政府との関係性、中国産豚肉の輸入への懸念、食糧安全保障上の影響などにつき、議員から質問や懸念が出されており、こうした議会の懸念点も踏まえ審査を行ったものと思われる。
今回、CFIUSは、最終的に買収を承認したが、30日間の第1次審査に加え45日間の第2次審査を行った。審査が決して単純なものでなかったことがうかがえる。
◇一歩前に出てきた中国
中国企業による米企業買収には、米政府や議会から国家安全保障上の懸念が示され、買収実施に至らなかった案件が複数ある。有名なのは2005年に中国海洋石油が米議会などの反対で、米石油大手ユノカルの買収を断念したケースだ。また、昨年9月、CFIUSの提言を受けてオバマ大統領が、オレゴン州の米海軍施設近くの風力発電企業4社の中国系企業による買収を阻む決定を下したことは記憶に新しい。
中国企業の対米投資額はここ数年で急拡大し、12年に過去最高を記録している。対米投資拡大傾向のなか、中国側にはCFIUSの審査に見られるような政治面・規制面での参入障壁に対する不満が強い。一方、米国はこれまで、中国に対して市場開放や国際的ルールにのっとった貿易・投資活動を求めてきた。
今年7月の米中戦略・経済対話で、両国は投資協定締結交渉再開に合意した。この中で中国は、明示的例外を除くすべての産業を交渉の対象とする前例のない姿勢を打ち出した。その背景には、米国の要請に応える一方で、対米投資における政治面・規制面での参入障壁への対処を米国に求める側面もあるようだ。
米国はこの中国側の姿勢を「画期的」と評価している。中国国内市場の開放やルールに基づく透明性の向上につながるからだ。また、中国企業による米企業買収の中には、賃金水準の向上や研究・開発投資の増大といった経済的便益をもたらす例も見られる。しかしながら、米国内には中国企業の対米投資に対する安全保障上の懸念は依然として根強い。
自由な投資環境を築く投資協定の交渉と、中国企業による対米投資の安全保障上の懸念を、米国がどう調和させていくのか。米中の投資協定を議論した戦略・経済対話と、スミスフィールド買収にかかる上院公聴会が同じ日にワシントンで行われたのは象徴的であり、両国間の投資協定交渉の行方が注目される。