バーナンキ議長 (ロイター)
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130926/dms1309260733001-n1.htm
2013.09.26 「日本」の解き方
米FRB(連邦準備制度理事会)は18日、市場の事前の予想を覆して量的緩和縮小を見送った。米国金融政策の「出口」について、多くの市場関係者は証券購入額の段階的な縮小を決めると思っていたようだ。
筆者には、どうして出口なのかさっぱりわからなかった。約3カ月前の本コラムでも「出口戦略が具体化されるには少し時間を要すると思われる」と書いた。
ところが、市場関係者は“バーナンキ議長の発言の真意はこうだ”とか、筆者には無理筋と思われる解釈をしたり、発言の一部だけを取り上げて“出口は近い”とはやし立ててきた。
FRBは6・5%の失業率と2%の消費者物価上昇率を量的緩和の出口条件としてすでに提示している。9月上旬に発表された8月雇用統計の新規雇用者数などをみても、とても金融引き締めを正当化できないのは明らかだと思うが、どうも市場関係者はデータを見ないで、思惑だけを話していたようだ。
市場関係者にとっては、自社のポジションが有利に展開することだけに興味があり、経済全体のマクロデータは自己の利益に用いる道具でしかない。彼らからすると、“バーナンキ議長は意見を変えた”と言うだろう。
筆者は、ポジション抜きで考えているので、18日の決定はFRBが以前に示した条件である6・5%の失業率と2%の消費者物価上昇率には当分届きそうもないので出口をあきらめたとしか思えない。バーナンキ議長の発言は何も変わっていないのだ。
それでも市場関係者は、“バーナンキ豹変(ひょうへん)”の理由探しに奔走している。その一つが、バーナンキ議長は、次期議長に金融タカ派のローレンス・サマーズ氏が有力だったので早期の出口を探っていたが、サマーズ氏の議長就任辞退を受けて、急に出口の先送りに転じた−というもの。これは市場関係者の希望的観測をあたかもバーナンキ議長の意見だったように言っているだけだ。
バーナンキ議長が先行き不透明の要因の一つとして挙げた債務上限問題についても、市場関係者はそれだけの理由でバーナンキ議長が意見を変えたように言う。しかし、債務上限問題は以前からわかりきっていたことであり、意見変更の理由にはなりえない。
バーナンキ議長は、金融政策の目的である物価の安定と雇用の確保、ひいては経済成長の達成に忠実なだけだ。あくまでその目的のために、いろいろな外部環境を見ながら金融政策の最善手を打っていくというスタンスはかなり徹底している。これは、バーナンキ議長が18日の記者会見で「われわれの政策は市場の期待に左右されることはなく、経済のために必要なことに基づいて決めなければならない」と述べたことからも、わかるだろう。
勝手に期待していた市場関係者は怒るだろうが、金融政策にとって重要なのは、金融市場の関係者ではなく、マクロ経済がよい状態にあることだ。これまで銀行関係者の意見で左右されてきたと批判される日銀も、FRBの経済重視の姿勢は参考にしたらいい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)