避けて通れない新興国市場の低迷 世界に備えはあるか?
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2013年09月22日 ケネス・ロゴフ :ハーバード大学教授 東洋経済
主な中所得国の多くで景気後退が深刻化し、おしなべて資産価値が急落している昨今、この影響が新興国市場に波及することは避けられないのだろうか。新興国の生産性は2008年の金融危機以降も順調に向上してきた。ところが、中国の成長に陰りが見えてきたうえ、先進国の超金融緩和政策が終わる可能性が出てきていることで生産性低下の懸念も浮上している。
中国の成長力低迷などが新興国市場に与えた影響の大きさを考えると、これから先、何がさらなる大きなショックを与えるかわからないし、それに新興国市場が適応できるかも未知数だ。
ブラジル、インド、南アフリカおよびインドネシアのような、巨額の継続的経常赤字に対するファイナンスが必要な国々に対し、市場は特に厳しい。幸い、柔軟な為替レート、十分な外貨準備高に通貨体制の改善や、外貨借り入れからの脱却を進めれば、いくらか身を守る手段はあるだろう。
しかし、長年マヒ状態の政治、そして先延ばしされた構造改革が脆弱性の原因となっている。むろん、アルゼンチンやベネズエラのような国は、経済成長の追い風となっている物価安と低金利国際金融にかなり依存している。この好調さがほかの多くの国でも問題点を見えにくくしている。
昨今、資産価格の不安定さは景気の失速よりも頻繁に報道されているが、後者のほうがより深刻だ。途上国の株式、債券市場は長らく人気の割に比較的非流動的なままである。そのため、少量のポートフォリオの移動でさえ価格が大きくぶれる。
最近まで、国際投資家は新興国市場でのポートフォリオ拡大は簡単なことだと思っていた。先進国が事実上低迷しているのに対して、途上国は堅調に成長しているからだ。将来的に経済成長だけでなく安定した政治にも支えられて成長するとみられる、中級クラスに注目が集まり始めた。ロシアやナイジェリアのような政治腐敗が取りざたされる国でさえ、中所得層の急増と個人需要の伸びを示しているのである。
しかし、格差が縮まったことで投資家にとって新興国市場は若干難しいものとなり、これがこうした国々の資産価値に多大な影響を及ぼすようになっている。
過剰に低くなってしまった金利を正常化しようとする動きがあっても、パニックが起きることはないだろう。債券価格の再下落も、1980年代の中南米債務危機や90年代後半のアジア通貨危機を繰り返す前兆にはならない。実際、コロンビアなどの新興国で発行される国債は米国債に対して利率が低い。こうした国の財務担当相は、空前の低金利を喜ぶ一方でそれが長続きしないだろうことも知っておかねばならない。
■新興国市場の低迷への備えが不十分な先進国
憂慮すべき理由はいくらでもある。そもそも、自国通貨でさらに借り入れすることで金融危機を解消できると考えるのは愚かなことだ。今後も銀行は倒産し、貧困層はさらに苦しくなり、成長は行き詰まる。
あるいは、先進国が第2次世界大戦後にしたように、より厳しい資本規制を金融市場に課す国々もあろう。だが金融的抑圧は悪影響がないとはいえず、結果、長期成長に打撃を与えることがあるかもしれない。
もし新興国市場の景気悪化が今、あるいは数年後にさらにひどくなるとして、世界にその備えはあるか。ここにも、深刻な懸念材料がある。
世界の銀行システムはいまだに脆弱で、特に欧州は完成度が低い。欧州危機を体験した国際通貨基金(IMF)が新興国市場の危機にどうアプローチするかはかなり不透明である。先般の欧州危機では、最重要課題だったユーロ地域内の構造改革を進めるため、そして短期的経済保護のために政策のバランスを取らなければならなかった。
それはまた別の話としておくが、欧州危機での体験は、IMFが欧州各国(ここでもギリシャなどは新興国と実際同じだが)にダブルスタンダードを設けているのではないか、という厳しい疑問を投げかけた。
できればこうした事態は避けたい。なぜなら、新興国市場の長期的な見通しが先進国のそれよりましとはいえない状態になった今でも、一部の投資家には新興国市場から手を引くつもりはないからだ。
ユーロ圏は最悪な状況を脱した、という現在の見方も楽観的すぎる。イタリアやフランスなどの国における構造改革はほとんど実施されていないといっていい。欧州の銀行同盟をどうやって運営していくのか、といった基本的な問題もいまだに残っている。スペインの巨額なリスクプレミアムはほぼ消滅したが、債務問題はまだ解決していない。
一方、大西洋を渡った世界政治の中枢である米ワシントンは、債務制限が限界に達しつつあるという苦境に立たされている。今は先進国の資本市場へ撤退していても、すぐにまたそこから撤退することになるだろう。
新興国市場の後退が今後さらに加速する可能性は否めない。その時に対して世界が万全に備えることを望むばかりである。
(撮影:ロイター/アフロ =週刊東洋経済2013年9月21日号)
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