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週刊実話 2013年9月26日 特大号
証券界で長らく“疫病神”と囁かれてきた東京電力の株価が、このところ50円前後の小幅ながら続伸している。政府が福島第一原発の汚染水問題で国費470億円の投入を決定し、安部普三首相が「汚染水問題は東電任せではなく、政府が前面に立って解決に当たる」と力説したのを受けてのことだ。
高濃度汚染水が海に流出していることが明らかになったのは7月初めである。ところが関係者の対応は遅く、政府試算で1日あたり約300トンもの汚染水が流出していることが明らかになったのは、判明から実に1カ月遅れの8月7日のことだった。
福島県漁業協同組合連合会は「東電は信用できない。これではいつまでたっても消費者の理解が得られない」と述べ、9月以降の試験操業中断という苦渋の決断を下した。
そんな矢先、政府がやっと重い腰を上げたことを好感した投資家が東電株に群がった図式だが、証券アナリストは辛らつだ。
「政府が前面に出たのは東京五輪招致を目前に控えた安倍政権のスタンドプレー。一方、地域独占企業の座にアグラをかいてきた東電には『どんなことがあっても政府はつぶさないし、つぶせない』の甘えがある。住民=ユーザーを人質に取っている以上、この開き直ったスタンスは電力各社に共通します」
果たせるかな北海道、東北、四国の3電力会社は、火力発電用燃料の高騰と円安を理由に9月1日から電気料金を値上げした。今年5月には同じ理由で関西電力、九州電力が値上げしている。
昨年9月に先陣を切って値上げした東電は「今年4月から柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼動」を前提に事業計画を立てており、もしこれらに道筋がつかなければ「来年早々にも再値上げを申請するのではないか」との観測さえ飛び交っている。平たく言えば東電はユーザーの喉元に匕首を突きつけ、原発再稼動か料金値上げかの選択を政府に迫っているのだ。
東電がそこまでシャカリキになる理由は明白である。東電は国と銀行から支援を受けるに当たって「2014年3月期の黒字化」を“公約”に掲げていた。しかし、巨額の赤字を垂れ流している上、柏崎刈羽原発の再稼動は全く見通しが立たない。だからこそ今年の4月1日、事業運営方針発表の席で廣瀬直己社長は「今年度に黒字化できなかったら当社は投資適格でなくなり、会社のテイを成さなくなる。私の責任ウンヌン以前の問題で、修繕費の繰り延べも含め、ありとあらゆる手段を尽くす」と危機感をあらわにしたのだ。
その脈絡で捉えると、東電が前述した汚染水問題で漁業関係者から轟々たる非難を浴びた裏事情が透けてくる。
原発事故で被曝した福島県民で構成する『福島原発告訴団』は9月3日、東電の廣瀬社長など現・旧幹部約30人を、管理のずさんさが汚染水漏れにつながったとして、公害犯罪処罰法違反で福島県警に告訴した。原発地下に四方を囲む遮水壁を造るのが最善の方法と知りながら、1000億円規模の工事費が掛かることから海側にだけ遮水壁を造り、政府に理解を求めた、というのだ。
東電は今年の2月、国会の事故調査委員会に対し「中は真っ暗」とウソをつき、福島第一原発4号機の現地調査を妨害した“前科”がある。それだけに遮水壁のケチケチ作戦が招いた汚染水問題は、今後“人災”論議に発展し、世間の東電バッシングに拍車がかかるのは間違いない。
しかし、いくら妙手を尽くしたところで、来年3月期の黒字化はもはや絶望的。政府の後ろ盾があるとはいえ、銀行団に東電と“抱き合い心中”する勇気があるかとなると甚だ怪しくなってくる。
ところが東電は10月に8000億円の融資借り換えを控え、年末には3000億円を調達する必要に迫られている。締めて1兆1000億円。自らのコスト削減努力にも限度があるだけに、深まる秋とともに東電は修羅場を迎えることになる。
それどころか、原発事故の賠償費用や除染、廃炉費用などをトータルすると20兆円規模に膨らむとの試算さえある。これを東電単独で賄うのは不可能だ。
「知恵者揃いの東電は『いざとなったら政府に働きかけて原発を再稼動させる』という奥の手を考えている。それが嫌なら電気料金をバンバン引き上げる。二つの切り札を握っている以上、彼らはこれらを有効に活用すべく、悪知恵の限りを尽くすに決まっています」(東電ウオッチャー)
折しも中部電力は、社員の給与カットを組合に打診した。社員が血を流すことで、電気料金の値上げを申請する前工作との見方がもっぱらだ。中電に輪をかけて崖っぷちの東電のこと、どんな“秘密兵器”を繰り出すことやら…。