消費税を増税すべきと考える人がいていいし、消費税は廃止すべきと考える人もいていいと思っているが、消費税に対する賛否が違っていても、消費税がどういう税制なのかという事実認識についてはきちんと共有すべきだと思っている。
欧州諸国でもデタラメな制度と説明がはびこっているが、日本ではより酷いレベルで嘘とゴマカシが闊歩していると言える。事業者の付加価値に課される税である消費税を、名称からしてそうだが、あたかも「売上税」か「物品サービス販売税」であるかのように説明しながら運用しているからである。
去る水曜日にBSフジで放送された消費税をめぐる討論番組(「プライムニュース」)でも、消費税を不公平な税と批判している立教大学経済学部の山口義行教授までが、「大企業は輸出することで支払った消費税の還付を受けている」と間違った説明をしていた。
転載するコラムの説明を読めばわかるように、消費税は、事業者が稼いだ付加価値に課税されるものなのだから、仕入で納品事業者から消費税を“転嫁”されたことは“消費税の支払い”を意味するわけのではない。
輸出企業は、消費税を1円たりとも支払ってもいないのに、なぜか還付という名目で莫大な利益を得ることができている。
消費税税収総額の30%ほどが輸出企業への故なき還付として使われているから、消費税が10%に増税されれば、同じ30%であっても、額は倍に跳ね上がる(およそ3兆円からおよそ6兆円に)ことになる。
先頭に立って消費税増税の旗振り役を務めている日経新聞だが、先日も投稿したように、消費税の内実についてきちんと書く記事がぽつぽつと現れている。
今回はコラムだが、消費税がいわゆる“消費税”や売上税ではないことを説明している。
今回のコラムは、「消費税を導入して以来、国税庁は「消費税は事業者が負担する税ではない」ことを徹底させるための指導を行ってきた。だが消費税を事業者が負担しないというのは法律上の建前である。実際は、先ほども述べたように売り上げから仕入れを引いた付加価値に課税する税である。導入から20年以上たち、消費税と価格の正しい関係を、原点に戻って見直す時期に来ている」とまとめている。
しかし、「消費税を事業者が負担しないというのは法律上の建前」という説明は誤りである。
正しくは、「「消費税を事業者が負担しないというのは国税庁(大蔵省・財務省)の詭弁」であり、消費税法には事業者が消費税の納税義務者(負担者)であることが明記されているが、「消費税を事業者が負担しない」といった類のことは一切書かれていない。
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[大機小機]混乱必至、2つの価格表示
6月に消費税転嫁対策特別措置法が成立し、来年4月から2017年3月末までの特例として、外税であることを明記すれば「税抜き表示」が認められることになった。
消費税率が予定通り引き上げられた場合、買い物したときに、「300円(税抜き)」の表示で購入時に8%の消費税が加算され324円を払う店と、最初から324円(税込み)と表示する店が併存することになる。小売業界の多くは税抜き表示にする意向のようだが、これまで通り総額表示の店もあるので、消費者の混乱は必至だ。
消費者はどちらの店を選ぶだろうか。私なら、迷わず後者の店である。きちんと総額を表示してほしいというのが日本人の正直な受け止め方ではないか。現に様々なアンケート調査でも、消費者は総額表示を支持している。それでも小売業界が税抜き表示を選ぶのは、消費税を確実に転嫁するためである。
しかし5月10日の本欄で述べたように、我が国の小売業者の、消費税と価格転嫁の関係は日本独特のものである。そもそも消費税は個々の商品に税率が対応しているわけではない。事業者の納税消費税額は、売上合計額×消費税率(105分の5)―仕入れ合計額×消費税率(同)で計算する。課税標準は、売り上げから仕入れを引いた事業者の付加価値(マージン)で、税額相当分は納税者に転嫁されることが予定されている税である。
事業者が考えるべきは、自らのマージンを最大化すべく商品ごとの価格を設定することである。需要の少ない商品は増税分を転嫁できないが、売れ筋商品は消費税率引き上げ分を上回る転嫁も可能なはずで、全体として転嫁できればよい。電気代、ガソリン代、原材料価格などが上がる中で消費税率引き上げは、コスト増の一つにすぎない。税抜き表示にこだわって消費者の信頼を失っては元も子もない。
消費税を導入して以来、国税庁は「消費税は事業者が負担する税ではない」ことを徹底させるための指導を行ってきた。だが消費税を事業者が負担しないというのは法律上の建前である。実際は、先ほども述べたように売り上げから仕入れを引いた付加価値に課税する税である。導入から20年以上たち、消費税と価格の正しい関係を、原点に戻って見直す時期に来ている。
(ミスト)
[日経新聞9月6日朝刊P.19]