http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130905-00010203-president-bus_all
プレジデント 9月5日(木)14時15分配信
なぜ、名経営者たちは聴衆を引きつけ、人を動かせるのか。音声、しぐさ、パフォーマンスの権威が映像を徹底分析したところ、本人も気づかないような意外な事実が見えてきた。
プレゼン上手で知られるソフトバンクの孫正義社長は、ネット上に映像も多い。なかでも2010年の株主総会後に開かれた「新30年ビジョン発表会」では、2時間以上にわたって思いを語っているので見逃せない。
「やや特殊な声ですが、周波数は2500〜5000Hzの人間の耳の感度がいい領域をカバーしています。高周波になるSの発音もきれいです。ノイズが多い広い会場であるため、話速を落としているのも、聴衆が理解を深める助けになっています」(日本音響研究所所長・鈴木松美氏)
ステージをゆっくり歩きながら話すスタイルはお馴染み。自然に振る舞っているようでも、パフォーマンス学から見て適切な動きになっている。
「新30年ビジョンでは、初めの6分間で視線は右に14回、左に13回向けられています。視線のデリバリーができるのは、プレゼン慣れしているから。しかも視線を配る角度が広い。120度ほどの範囲をカバーし、会場全体に語りかけています」(日本大学芸術学部教授・佐藤綾子氏)
構成もよく練られている。
「冒頭で、理念、ビジョン、戦略の3点を話すと個条書きで宣言し、順を追って詳しく説明する。宣言なしに説明しはじめると、聞く人の頭に入りません。また、同じ言葉を繰り返す首句反復も巧みに取り入れています」(佐藤氏)
孫さんは新30年ビジョンを自ら「30年に1回の大ボラ」「私の現役時代の最後の大ボラ」と表現している。
「“大ボラ”を3回繰り返し、これから語ることが普通の話ではないと強調します。そこで会場のウケがよかったので口角挙筋をちょっと上げてクオータースマイルで間を取ります。ウケを狙って予定通りに笑いが取れたから、笑い返す。一言で言えば、余裕しゃくしゃくなのです」(佐藤氏)
大ボラの効果はもう1つあると、デジタルハリウッド大学教授の匠英一氏は指摘する。
「大きい夢を語ると、その言葉が自分自身を引っ張ってくれることがあります。これをアファメーション(自己暗示)効果といいますが、孫さんはそれがうまくできています」
その孫さんが別人のような顔を見せる動画がある。11年4月に原子力発電の専門家2人を招いて討論した「原発問題について熱く語る」だ。
「プレゼンでは腕を広げるオープンなしぐさが多いですが、ここでは逆に腕組みする場面もあります。専門分野ではないため、身構えているのです。そして鋭い質問を飛ばす。部下との間でもそうなのでしょう。質問によって相手に高揚感を持たせたり、気づきを与えたりする。孫さんはプレゼンのみならず、対話の達人でもあるのです」(匠氏)
佐藤氏によると、アイコンタクトは1分あたり54秒と90%を占め、かなり強め。声も高くなっている。興奮と、本気度が伝わってくる映像だ。
「孫さんは裏表がなく、自分の考えを率直に表現できる人。言行一致だからそれでも信用されます。何でもズバリ言うのは、若い頃にオジンキラーと呼ばれたように、年長者の心を掴む話し方です」(匠氏)
小柄で丸顔、頭髪が乏しいという容姿もプラスに働いている。弱点のある親しみやすいルックスは相手に安心感を抱かせるからだ。孫さんが尊敬する坂本龍馬もスキを見せて相手を安心させたという。
「もし長身のイケメンが、同じ率直さで自分の意見をズケズケ言えば、たちまち反感を買うでしょう」(匠氏)
ルックスに自信がある人は、あの率直な話し方を真似しないほうがよさそうだ。
■孫さんのマネをして うまくいくポイント、大コケするポイント
○あえて隙をつくる
○ホラを吹く
○鋭い質問を心がける
×率直な言葉づかい(特に外見に自信がある人は敵をつくる危険性あり)
ライター 伊田欣司=文 小倉和徳、若杉憲司、澁谷高晴=撮影