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2013/9/2 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
日本が初めて本格参加したTPPのブルネイ交渉会合。先週末まで各分野別の作業部会が続いたが、その結果、驚くべき実態が見えてきた。日本以外の各国は2年近くも交渉を続けてきているのに、ちっとも合意に向けた話し合いが進展していないのだ。
なぜかといえば、米国が身勝手で、ベラボーな要求を押し付けているからだ。それにマレーシアやベトナムなど、東南アジアの新興国が猛反発。「米国だけにおいしい思いはさせない」と鋭く対立しているのである。
これには仰天ではないか。先進国を気取りながら、米国にヘーコラしている日本とは大違いだ。
とりわけ、対立が激しいのは「知的財産権」「環境基準」「競争政策」の3分野だ。
知財権とは医薬品の特許・データ保護や、ディズニー映画などの著作権をめぐる権利である。保護期間を延長させたい米国に対し、新興国は猛反発している。ジェネリック(後発医薬品)に頼る新興国にとっては、医薬品のデータ保護延長は国民生活に直結する問題だからだ。
米国が厳格な国際規制を迫っている環境基準も、そこまで対応しきれない新興国は当然、ノーだ。競争政策とは、自由な競争を求める米国が新興国に国有企業優遇を「外せ」と迫っているものだが、こちらは「国有企業の定義」という入り口でモメているありさまだ。
「新興国の反発は当然ですよ。米国はTPPを通じて新興国を黙らせ、自国のクスリや映画をドンドン売りつけようとしているが、そんな簡単にいくわけがない。例えば、多民族国家のマレーシアは移民の華僑と先住民のマレー人との経済格差が大きい。その是正のため、マレー系企業を優遇する『ブミプトラ政策』を実施。歴代政権はマレー系企業を政治基盤にしてきた歴史がある。そこにTPPで米国が割って入り、マレー系企業を競争を阻害する国有企業と見なせば、反発を招くのは当たり前。米国が新興国の事情を無視して、自国のビジネスを優先させようとしても、交渉がまとまるわけがありません」(経済アナリスト・菊池英博氏)
◆アジアの新興国もあきれたシッポ振り
さすがの米国も押され気味で、全29章の条文案のうち空欄が300カ所近くあるという。新興国の想像以上の反発に、年内決着を急ぐ米国は焦りまくっている。そのため、今回の閣僚会合では「年内決着」を盛り込んだ共同声明を強引に採択し、来月にもワシントンで首席交渉官による会合を開くように仕向けた。
自国で交渉会合を開催すれば、議長ポストを握れる。新興国に四の五の言わせず、有利な議事進行ができる。そんな策略、腹積もりで、つくづく米国の身勝手、わがまま、横暴には呆れてしまうが、その尻馬に乗って、お先棒を担いでいるのが、誰あろう、日本の甘利TPP担当相なのである。
甘利はブルネイで「米国とアジアの橋渡し役を担いたい」とシャシャリ出て、日本政府主催の夕食会まで開いた。国際会議の場で、議長国以外の国がこうしたパーティーを開くのは異例中の異例だ。
しかも、その夕食会で甘利はこう言ってのけたのである。
「10月の(APEC)首脳会合までに確かな成果を出すのはわれわれの責務だ」
交渉には初参加のくせに、いきなり、米国にシッポを振って、年内決着を後押しとは、どういう神経なのか。米国と厳しくやりあっている新興国の交渉担当者たちは開いた口が塞がらなかったのではないか。前出の菊池英博氏はこう言った。
「米国流を押し付けられて困るのは日本も同じなんですよ。ジェネリックがなければ医療費が高騰し、社会保障がパンクする。政府が全株を保有する日本郵政だって、『国有企業』と見なされればピンチです。日本も新興国の気概を見習うべきなのに、米国に逆らわない。それどころか、米国との2国間交渉では日本郵政の全国2万カ所の販売網を差し出し、軽自動車の優遇策を見直すなど、何もかも米国に譲歩しまくっています。これでは新興国に『TPPは日本の富を米国に引き渡すためのデキレースなのか』と思われても仕方ありません」
いったい、日本は誰のための国なのか。世界が奇異の目で見ているのは間違いない。
◆米国のポチになることが日本の国益なのか
加えて、ヒドイのがTPP交渉を伝える大マスコミ報道だ。新興国の交渉姿勢を伝えながら、日本のやり方は批判しない。どうして「新興国のように米国にきちんとモノを言え!」と書かないのか。
大体、TPPの本質は、米国が自由貿易という名の米国流を押し付けて、自分だけいい思いをすることだ。大メディアだって、先刻承知だが、もちろん、そうしたことも一切、書かない。
「書かないどころか、日本のメディアは“バスに乗り遅れるな”と繰り返し、〈交渉参加が遅れれば、それだけ、国益を損なう〉と交渉参加をせっついてきたんです。すべては米国のためですよ。ところが、いざ参加したら、どうですか。2年近くも交渉しながら、何もまとまっていなかった。すると、メディアは〈今こそ日本の出番だ〉などと書いている。その出番とは〈米国と対立する新興国の調整役を買って出ろ〉と言うのです。日本のメディアにしてみれば、“米国の言いなりとなることこそが国益”なのでしょう」(元外交官の天木直人氏)
TPPでは、コメなど農産物の重要5項目の関税も到底、死守できる見込みはないが、メディアは政府に「話が違うじゃないか」とは書かない。重要5項目の死守は自民党の公約であり、TPP交渉参加の前提条件だったのに、今や、なし崩しだ。本来であれば、マスコミがぎゃんぎゃん騒ぎ、農家が怒り、政府も交渉離脱を決断すべきなのに、甘利は「年内決着」を他国に呼び掛け、大メディアは「調整役をすべし」などと書く。政府とメディアがグルになって、国民をだましているのだから、どうにもならない。
◆シリア攻撃に同調すれば孤立する
今や、完全に米国のポチである安倍は、シリア情勢でもシッポを目いっぱい振っている。わざわざ外遊先のカタールで会見を開き、「シリアで化学兵器が使用された可能性が極めて高いと考えている」と表明したのがいい例だ。
中東情勢について安倍に独自の情報網があるわけがない。つまり、シリアの内情なんて分かりっこない。それなのに、なぜ、シリアの化学兵器使用が「極めて高い」と言えるのか。
もちろん、米国情報だろうし、それを一方的に信じて、いち早く、“事実上の支持”を打ち出すことで、オバマ政権のご機嫌を取っただけだ。
石破幹事長など、「(米国が攻撃に踏み切れば)時を置かずに支持することが必要だ」なんて言っている。
世界中がシリアへの軍事介入には疑問を投げかけているのに、この段階で言うセリフなのか。まともな神経とは思えない。
安倍はこうやって、米国に媚(こ)びへつらえば、政権は長続きすると思っているのかもしれないが、ポチ政権が長続きしたところで、日本国民には何ひとつ、いいことはない。こんな政権は国民の方が願い下げだ。
「TPPにしろ、シリア攻撃にしろ、安倍政権が米国に追従し続けるのは危険な賭けです。イラク戦争以降、『世界の警察』としての米国の威信はガタ落ちし、今回のシリア攻撃がトドメとなりかねません。いずれ国際的な孤立を招き、国力も衰退していく。そんな落ち目の国によろこんでシッポを振っているのは日本だけ。米国と一緒に世界から孤立し、アジア諸国からも軽蔑されるでしょう。となると、日本には米国の属国となるより生き残る道はありませんが、米国が未来永劫、日本を守ってくれる保証すらない。TPPで日本の富を搾り取って利用価値がなくなれば、米国はドライに切り捨てることになります」(天木直人氏=前出)
それなのに、米国の手先、代弁者を続ける安倍政権は無能、無用というより有害だ。そんな政権とグルになっている大マスコミも同罪だ。こんな連中がのさばっている限り、いい思いをするのは日本国民ではなく、米国と一部のグローバル企業だけということになる。