大気汚染で煙る北京の都市部。中国経済の先行きもいまだ視界不良だ(ロイター)
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20130903/frn1309031810005-n1.htm
2013.09.03
中国の経済危機は本当に去ったのか。製造業の景況指標が改善の兆しをみせ、政府当局者は経済成長率7・5%の目標達成に自信を見せる。しかし、楽観論を信じ込むのは危険だ。専門家は「問題を先送りすれば危機はさらに大きくなる」と警告、財テク商品「理財商品」の償還期限が集中する9月末や、理財商品に関する金融当局の報告が出てくる年末に向けて市場の混乱も懸念されている。
英金融大手HSBCが8月22日に発表した8月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI、季節調整済み)速報値はサプライズとなった。事前の予想の平均である48・2を大きく上回る50・1を記録、4カ月ぶりに50を上回った。9月2日発表の確定値も50・1だった。
1日には中国国家統計局と中国物流購買連合会が8月のPMIを発表したが、こちらも前回の50・3からさらに改善した51・0で、事前の予想を上回る結果となった。
PMIは景気の先行きを示す指数で、企業に受注や生産の状況をアンケートして算出する。50を上回ると景況感の改善を、下回ると悪化を意味し、国内総生産(GDP)との相関関係も強い。
国家統計局とHSBCは別々にPMIを算出しているが、国家統計局版の調査対象は大企業中心で、景況感が良い方向に数値が振れやすい傾向にある。市場関係者が首をかしげたのは、中小企業中心で景気の実態をより反映しているとみられてきたHSBC版のPMIまで不自然なほど大幅に改善したことだ。
第一生命経済研究所の西濱徹主任エコノミストは「HSBCのPMIは、国家統計局のPMIより信頼性があるとされるが、今回は不自然な動きで、半信半疑の数値と言わざるをえない」と語る。
それでは中国経済はどこが変わったのか。西濱氏は指標の中身を分析してこう指摘する。
「内需が回復しているが、その要因は国内投資一辺倒で、消費が増えているのかは疑問だ。輸出関連の受注や雇用も悪化したままで、このまま生産を拡大して大丈夫なのか懸念は残る」
中国が作れば作るほど儲かったのは過去の話。供給過剰に苦しんでいるはずの中国がさらに供給を増やし続けるという構図で、景況感が改善といえるのか、はなはだ疑問だ。
経済成長についても中国当局は強気だ。中国国家統計局の盛来運報道官は8月26日の記者会見で、2013年の国内総生産(GDP)成長率を前年比7・5%増にする目標は達成可能だと語った。
今年に入って以降の急減速で7%達成すら危ういという観測が広がっていた。李克強首相は当初、経済構造の改革を重視する「リコノミクス」を掲げ、成長率ありきの政策運営をしない方向性を示していたが、7月下旬に「経済成長率は7%がボトムラインであり、それを下回る成長率を容認することはできない」と述べたと伝えられた。これをきっかけに、経済成長を維持する方針に回帰したのか。
ただ、国家統計局が掲げる7・5%というのは相当ハードルが高い。
前出の西濱氏は、「実現するには、年後半は相当景気を加速させないといけない。これを短期的にやるには景気対策を打つしかないが、過剰な在庫や設備の問題を改革しようという李首相の方針と逆行することになる」と危惧する。
中国経済に詳しい企業文化研究所理事長の勝又壽良氏は「中国は7・5%成長を達成するために、鉄道建設にカネを出そうとしているが、これから作られるのは明らかな不採算路線で、新たな不良債権になるだけだ」と語る。
中国を揺さぶる「影の銀行(シャドーバンキング)」問題もくすぶったままだ。金融当局は焦げ付きリスクがある高利回りの金融商品「理財商品」の規制を始めたにもかかわらず、大手銀行の理財商品の残高は増え続けており、銀行の不良債権問題も深刻度を増している。
市場関係者の間では、「理財商品の償還期限が集中する9月末、そして理財商品について調査している金融当局の報告が出てくる年末に向けて金融市場が混乱する可能性がある」(国内証券アナリスト)との見方もある。
前出の勝又氏は「中国政府は短期金利が急騰しないように金融市場にカネを流すだろうが、本質的な問題は何も解決していない。成長率を維持しようとして問題を先送りすればするほど、リスクも大きくなる」と警告する。