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2013/8/28 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
「日本を取り戻す」と叫んだ安倍自民が参院選に圧勝し、衆参のねじれが解消。「さあ、これから改革が始まる」と大メディアが謳っているが、さて、庶民はそれに期待しているのだろうか。
もし期待しているとすれば、この国は滑稽で、あまりに喜劇的だ。なぜなら、安倍首相がやろうとしている「改革」とは、庶民をますます貧乏にし、一握りの支配層が富を独占するための改革だからだ。
ジャーナリストの斎藤貴男氏が言う。
「安倍首相が推し進めているアベノミクスの思想的背景は新自由主義です。弱肉強食の競争社会で、日本も1%の富裕層と99%の貧者という米国型の超格差社会になる。庶民は貧民に転落するのです。くしくも、安倍首相は、成長戦略で『世界で一番、企業が活動しやすい国を目指す』と言った。大企業が儲けられればいい。そのための規制改革で、それが成長戦略の『一丁目一番地』だというのだから、国民生活のことなんて、これっぽっちも考えていませんよ」
安倍は「雇用の流動化」「産業の新陳代謝」などと言うが、要するに、雇用を調整弁としてクビ切りをしやすくする。古い産業には消えてもらい、失業者は新しい巨大資本に雇ってもらう。そういうことだ。これが庶民の生活を今以上に追い込み、巨大資本をますます富ませるのは言うまでもないが、安倍の悪魔的な政治はそれだけではない。
汚染水がダダ漏れの福島原発事故処理はどうなるのか。震災復興は今、どうなっているのか。TPPに参加した後、何が起こるのか。消費税増税を断行すれば、誰が一番苦しむのか――。一事が万事で、安倍がやろうとしているのは、すべてが庶民イジメと弱者切り捨て政策だ。
◆放射能まみれのどこが「美しい国」なのか
安倍が好んで使う言葉のひとつが「美しい国」だ。国土と国民の安全を守らなければならないとか、それが国家の誇りだとか言って、タカ派の右傾化路線を突き進んでいる。
いたずらに韓国、中国を刺激して脅威を煽り、戦没者追悼式典では「侵略戦争への反省」と「不戦の誓い」を切り捨てた。集団的自衛権の行使容認派を強引に法制局長官に据え、年内には日本版NSC(国家安全保障会議)を発足させる。秘密保全法案とともに、秋の臨時国会に提出するつもりだ。狂ったような意気込みなのだが、そのくせ、原発の汚染水や震災復興には関心を示さない。
「美しい国と言うなら、東北の美しい自然をどうやって取り戻すのか。そこで暮らす人々の安全を考えているのか。原発事故が収束しないかぎり、震災復興もないのです。まずは何をおいても事故処理を優先しなければならないのに、安倍首相はまったくの他人任せで、汚染水問題に国際社会が厳しい目を向けている最中に、企業幹部を引き連れて中東を外遊してハシャいでいる。原発事故を収束させ、本気で復興を進める気がないのです」(政治評論家・森田実氏)
その結果、原発事故は収まらず、日本はずっと放射能まみれのまま。これのどこが「美しい国」なのか。人々の命と安全はどうなるのか。足元の現実から逃げていて、何が国防だと言いたくなる。
しょせん、戦争ごっこで勇ましい自分をアピールし、海外でチヤホヤされたいだけなのだ。いかにもボンボン政治家が考えそうなことではないか。
◆アメリカのシステムに組み込まれ庶民は捨てられる
安倍政権が年内妥結を目指すTPPでも、打撃を受けるのは庶民だ。東大教授の鈴木宣弘氏(農政)がこう言う。
「日本中に巨大グローバル資本の価値観が押し付けられ、太刀打ちしようのない地方経済は壊滅してしまう。農村は失われ、人が住めない地域が急速に広がるでしょう。地方で職を失った人が都市部に流入し、都市はスラム化する。TPPに参加すれば、ひと握りの巨大企業の経営陣が今の何十倍もの収入を得るようになり、彼らに富を吸い上げられる庶民はどんどん貧しくなる。恩恵を受けるのは、ひと握りのグローバル資本だけなのに、選挙目当ての政治家も、天下り利権が欲しい官僚も、スポンサー料に群がるマスコミもこれに追従しているのです。国民の生命も安全も生活も破壊するのがTPPなのに、真実を知らせようとしない。それは、1%の“支配階級”がオイシイ思いを独占しようとしているからです」
許し難い棄民政策だが、その極め付きが消費税増税だ。
「消費税ほど弱者に冷たい税制はない。苦しむのは家計だけではありません。消費税は、景気が良ければ消費者が負担しますが、景気が悪い時は、価格転嫁できない売り手が負担することになる。いずれにせよ、弱者に負担が押し付けられるシステムなのです。こんなデフレ下で税率を上げれば、利益を削って税金を支払う自営業者や零細企業、町工場は立ち行かなくなる。従業員も仕事を失い、日本中が失業者だらけになるでしょう。政府だって、そんなことは百も承知です。それでもかまわないと考えているから、増税を断行する。安倍政権で弱者は完全に切り捨てられるのです。いずれ、食うためには戦争をするしかないというところまで追い詰められる。自分たちの暮らしが破壊されようとしているのに、黙って安倍政権を支持している人々が不思議でなりません」(斎藤貴男氏=前出)
◆絶望の中で極右首相が拳を振り上げる不穏
こうして見ると、アベノミクスもTPPも消費税増税も、日本を「取り戻す」どころか、ブッ壊すものであることがハッキリ分かる。
しかし、大メディアはそうは書かない。安倍のイカサマ政治に加担して、悲惨と格差の現実を隠し、バラ色の未来を喧伝するのだ。
これに庶民はダマされているのか? だとしたら、相当なお人よしで喜劇だが、そうではないのかもしれない。「どうせこの社会は変わらない」という諦めや、絶望が国民感情を支配しているようにも見える。
長年の自民腐敗政治に続き、政権交代の理念を潰した民主党の体たらく。政治への期待は完全に裏切られ、「もう、どうにでもなれ」とケセラセラで漂っているのかもしれない。
その中で、極右の狂乱首相が拳を振り上げている構図にはゾッとするのだ。よく、今の日本は80年前に似ているといわれるが、こうしたニヒリズムが蔓延する退廃的な世相もまた、当時と酷似してきたと言わざるを得ない。