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2013/8/19 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
松江市の教育委員会が小中学校の図書館で、漫画「はだしのゲン」を自由に閲覧できないようにしていたことが報じられたが、ついに来るところまで来たような気がする。
「ゲン」は戦争や原爆の悲惨さを描いた傑作。20カ国語に翻訳されている反戦漫画だが、旧日本軍の蛮行のシーンが問題視された。「歴史認識を誤らせる」という意見が出たのである。
これが一地方の“歪んだ判断”と無視できないのは、安倍政権の発足以後、急激に過去の歴史を糊塗する動きが広がっているからだ。
安倍は第1次内閣で教育基本法を全面改定し、「愛国心」を盛り込んだ。今度の政権では、その第2弾なのか、「教科書検定の見直し」に前のめりだ。今年4月、衆院予算委で「(教育基本法の教育の目標に)愛国心、郷土愛も書き込んだが、検定基準については改正教育基本法の精神が生かされていなかった」と発言。これを受けて自民党の部会が5月、教科書出版会社の社長らから編集方針などを聴取した。編集方針の聴取と言えば、聞こえはいいが、これは一種の圧力だ。検閲になりかねない話で、耳を疑う出来事だった。そうしたら、「はだしのゲン」の閲覧制限が出てきたのである。
◆歪んだ歴史認識を教科書に強要
安倍は、太平洋戦争の旧日本軍の植民地支配について「侵略の定義は定まっていない」とうそぶく男だ。過去には従軍慰安婦について「強制連行はなかった」と言い放ったこともある。
だからこそ、世界中から「歴史から目をそむけるな」という非難が殺到しているのに、終戦記念日の式辞ではアジア諸国に対する加害者責任や不戦の誓いをカットした。これは、先の戦争が侵略であったことを認め、アジア諸国に多大なる苦痛を与えた反省を明言した村山談話の完全否定みたいなものだ。
安倍にしてみれば、あの戦争は侵略ではなかった、蛮行もなかった、ということだ。それを認め、反省するのは自虐史観だと決めつけている。
個人がどういう歴史認識を持とうと勝手だが、安倍の場合は、自らの俗説を教科書に強要しようとしている。侵略の歴史的事実を教科書から抹殺し、覆い隠そうとしている。
とんでもない事態が進行中なのだが、自民党は今や、完全に安倍と一体化している。7月の参院選の際、自民党の政策集には、〈多くの教科書に、いまだに自虐史観に立つなど、偏向した記述が存在します〉との表現があった。〈研究上事実として確定していない事柄は基本的に(教科書の)本文では扱わない〉とも書いていた。犠牲者の数がハッキリしない以上、「南京大虐殺は教科書に書かせない」ということだ。
彼らの言う「自虐史観」とは、旧日本軍の残党みたいな連中が作り出した造語である。日本軍の蛮行を明らかにし、反省する。つまり、歴史に学ぶことを「自虐」と呼んで否定する。そんな連中がいつのまにか、大手を振って歩くようになってしまった。だから、「はだしのゲン」のようなことが起こるのだ。この国は完全にトチ狂ってきたというしかない。
◆感情論むき出しの「自虐」とはいったい何なのか
国民は、安倍がいかに無知で、その歴史認識がいかに陳腐で危険かをよく知っておいた方がいい。
月刊誌「世界」(9月号)で、琉球大名誉教授の歴史研究家・高嶋伸欣氏がこう書いている。
〈いったい、「自虐」とは何なのか。(中略)もともと、安倍総裁の歴史認識が浅薄であることは、「侵略」の定義問題や「主権回復記念式典」の強行ぶりで明らかである〉
〈「反日的・親日的」というような、二者択一の認識法は、情緒的なものに過ぎず、戦争の論理でもあって危険すぎる〉
〈「自虐史観」の語に対する明白な異論が自民党内で起きなかったのだとすると、現在の自民党全体の知的水準が低下しているのだと判断せざるを得ない〉
そうなのだ。中韓に対して感情むき出しの安倍を見れば、その歴史認識が偏向的で、客観性を欠いているのは、すぐわかる。それなのに、安倍と一緒になって、自虐史観という、これまた感情むき出しの言葉を使って、歴史の直視を否定しようとしている自民党。
そこにあるのは、「好き嫌い」レベルの歴史認識ではないか。痴呆というか、知性もヘッタクレもないのである。
◆取り戻すのは「強い明治」
それでなくても安倍は「国民所得」と言うべきところを調子よく、「年収を150万円増やす」とか言って、無知をさらけだした首相だ。ついでに言えば、副首相はマンガで国際政治を勉強しているような人物で、漢字も読めない。知らないのはワイマール憲法の歴史だけじゃないのである。トップ2がこれじゃあ、他の閣僚も推して知るべしなのだが、そんなレベルの連中が「日本を取り戻す」と喚(わめ)く。
一体、何を取り戻すのか、と思っていたら、作家の赤坂真理氏が朝日新聞のコラムでこう書いていた。
〈自民党の(憲法)改正案は文言のトーンさえ大日本帝国憲法に似ている。「日本を、取り戻す。」という自民党のコピーがある。どんな日本を、かと思っていた。明治を、だとある時気づいた。二つの戦争に勝った「強い明治」〉
これはズバリ、正鵠だろう。
◆今の自民党は「物言えば唇寒し」の異様
それにしても、少し前の自民党はここまでひどくなかった。太平洋戦争を経験した反戦論者もたくさんいたし、何よりも平和憲法を尊重し、国民生活を豊かにすべく努力してきた。それがいつのまにか、安倍のような連中ばかりになってしまった。
政治ジャーナリスト・泉宏氏はこう言った。
「佐藤内閣から40年政治を見てきましたが、いまは内閣も自民党内も『物言えば唇寒し』みたいになっている。つまり、誰もトップに逆らわない。こんな異様な状態は初めてです。かつては閣内にいても、首相に対し言うべきことはしっかり言う大臣がいた。『私は賛成できない』と辞任した閣僚もいました。それなのに、いまは情けないの一語です」
後藤田正晴官房長官(当時)は1987年、米国が機雷除去のために海上自衛隊のペルシャ湾派遣を要請した際、敢然と反対した。中曽根康弘首相(当時)は前向きだったが、後藤田は「これは戦争になる」「国民にその覚悟があるか」と突っぱねた。
宮沢喜一は、著書「新・護憲宣言」で「われわれは将来に向かって自由の制限につながるかもしれないどんな兆候に対しても、厳しく管理する必要があります」と書いている。戦争を知っている宮沢は「兆候」の段階で止めないと、権力の暴走を止められないことを熟知していた政治家だった。
◆安倍は保守ではなく破壊者だ
武闘派とみられていた梶山静六や日米防衛ガイドライン見直し時の防衛庁長官、久間章生も反戦論者で有名だ。野中広務や古賀誠は国会議員を引退した今でも、改憲反対を主張し続けている。
その古賀は今春、派閥の総会で「安倍首相の右傾化には宏池会(現岸田派)として看過できない。我々は断固、物を申していこう」と発言した。メンバーの議員はみんな拍手したというが、会長の岸田外相は安倍べったり。どうにもならない連中だ。
「自民党の3分の2は安倍さんのやり方に本音では反対ですよ。しかし、高支持率に加えて、野党がだらしないから、安倍政権は今後、最長5年8カ月の長期で続く可能性がある。だからみな、安倍さんに睨まれたら冷や飯を食わされる、と黙ってしまう。それでどの派閥も長いものに巻かれろになっているのです」(泉宏氏=前出)
本来の保守とは故郷の山河を守り、そこで暮らす人と家族を守ることだ。強権、独裁で軍国化に猛進する安倍は保守ではなく、破壊者だ。
その暴走を止められない自民党の腐敗堕落こそを教科書に明記すべきである。