除染実験用のヒマワリを採取する天野さん=福島県富岡町で、2013年8月17日、神保圭作撮影
<福島第1原発>事故29カ月 「ヒマワリ除染」信じて
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130818-00000025-mai-soci
毎日新聞 8月18日(日)14時12分配信
◇原子力機構職員 「安全神話」伝えた償い
東京電力福島第1原発事故のあった古里の福島県で、ヒマワリ栽培による除染にこだわり続ける人がいる。日本原子力研究開発機構(茨城県東海村)の職員で、かつて福島第2原発にも勤務した千葉県白井市の天野治さん(63)。ヒマワリの除染は国が一昨年に実施した実験で「効果なし」との結論が出されたが、しっかりとした実証方法があるわけでもない。汚染土の除染作業も遅々として進まない中で、何とか古里の再生に貢献したい。それが原発に携わった者の被災者への「罪滅ぼし」だ。【神保圭作】
猛暑が続く17日。天野さんは原発20キロ圏内の福島県富岡町にいた。40メートル四方の田んぼは一面、ヒマワリの苗が青々と茂っていた。1本ずつ刈り取ると、測定器にそっと入れた。麦わら帽子の研究者仲間たちがのぞき込む。「さて、どう出るか」。はやる気持ちを抑え、天野さんが小さくつぶやいた。
南相馬市生まれ。中学校の担任の「これからは原子力の時代」との言葉が頭を離れず、原子力工学の道へ。東北大大学院修了後、東電に入社。福島第2原発にも勤務し、2005年まで勤めた。今は原子力機構で後進の指導も含め原発の安全性などを研究している。
11年3月の原発事故で、自分の中の「安全神話」が崩壊した。高齢の父がいる実家や親戚の家は原発20キロ圏外だが、「ただちに健康への影響はない」と繰り返す政府の言葉は、被災者にとっては気休めだと思った。
居ても立ってもいられず、すぐに南相馬に入った。休日を利用し、月に1、2度、住民を集め、専門家の一人として放射線による健康影響などについて説明した。
ヒマワリなどの植物に土壌中の放射性物質を吸収させ、蓄積または分解することで無害化する技術は「ファイトレメディエーション」と呼ばれる。1986年のチェルノブイリ原発事故を機に注目され、現地ではいくつか効果があったとの研究論文が発表されている。
しかし、国が一昨年の実験後に出した結論は「効果なし」。ただ、実験の詳しい手法が分からず、ふに落ちなかった。実は研究者の間でも、確立された実験方法がないのだ。それなら自分で証明しようと、昨夏、自費で南相馬の水田を借り、種をまいた。大きくなったヒマワリの幹や根、花などを測ったところ、幹から最大1キロ当たり2万ベクレルの放射性セシウムを検出。目を見張った。
土壌を入れ替えるより、2、3年かけ植物に吸収させた方が手間もコストもかからない。何より簡単で農家自身、作業に参加できる。花も楽しめる。途切れた農業をつなぐ象徴になってくれるはずだと思った。
さて、富岡町での実験結果は−−。茎や葉を入れた測定器のモニターは「ND」と出た。検出限界値未満だ。今月10日の実験でも茎や葉からは検出されなかったが、根は4万ベクレルだった。「今回も根からはかなり高い値が出るはずだ」と天野さん。ヒマワリの部位や天候によっても吸収率は大きく左右されるようだ。
一筋縄ではいかないが、納得するまで実験は続けようと思っている。「ここではずっと自然を相手に暮らしてきた。それを取り戻すために、放射能をゼロにするんだ」。田んぼのヒマワリが満面の笑みを浮かべるように待っている。