http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20130817/ecn1308171520001-n1.htm
2013.08.17
関西の鉄道各社が高齢者向け事業に本格参入し始めた。南海電気鉄道がグループ会社の保有地で7月から有料老人ホーム運営に乗り出したほか、阪神電気鉄道は線路の高架下で10月にデイサービス施設を開業する。“本業”とは懸け離れた多角化のようにも見えるが、各社は「将来の収益の柱」にと意気込む。沿線人口の減少で輸送人員が伸び悩む中、鉄道各社はなぜ、高齢者向け事業を強化しようとするのか…。
■鉄道会社ならでは“超駅近”老人ホーム
南海電鉄の子会社、阪堺電気軌道の我孫子道駅(大阪市住吉区)そばの我孫子道車庫。7月、この車庫の一角にある遊休地で、有料老人ホーム「南海ライフリレーションあびこ道」がオープンした。
敷地面積は1800平方メートルで、居室数は90。南海電鉄子会社の南海ライフリレーション(大阪市中央区)が運営し、介護と障害者の自立支援を手掛ける。介護職員が24時間常駐するほか、日中は看護師もいる。平日の昼食は定食や麺など複数のメニューから選べる。
駅のすぐそばなので、家族や友人が入居者を見舞いやすい。1人当たりの月額利用料は家賃や食費などを含め、15万9000円と平均的だ。
売上高目標は非公表だが、来年7月には稼働率を9割に高め、27年度には営業黒字化を目指す。
運輸収入は伸び悩むが、高齢化社会を反映して、沿線の高齢者人口は急増している。
このため、南海電鉄は今後、遊休地での老人ホーム運営など高齢者向け事業を増やす。
「鉄道会社ならではの沿線密着型の公共性の高い事業。住民に支持されるビジネスモデルを目指す」
南海ライフリレーションの担当者は、こう意気込む。
■「元気になって鉄道使って!」
鉄道各社が関心を示す高齢者向け事業は、老人ホームだけではない。
阪神電鉄は10月、西宮駅(兵庫県西宮市)近くの線路高架下でリハビリに特化したデイサービス「はんしんいきいきデイサービス」を開設する。同社が介護事業に乗り出すのは初めてだ。
施設では医療先進国ドイツで認証された最新のリハビリ機器を採用し、筋肉に適度な負荷をかけることで筋力の維持を目指す。介護保険の適用で利用者負担は1回当たり500〜600円となる見込み。「月700人程度が利用すれば、採算が取れる」(関係者)という。
平成26年度末までに2施設を追加する計画だ。
JR西日本も昨年10月、阪和線の南田辺駅(同市阿倍野区)近くの線路高架下にリハビリ専門のデイサービス施設「Jパレット南田辺」を開業するなど、高齢者関連事業を強化している。
同施設の1回の利用者負担は600円程度で、希望するプログラムでトレーニングを受けられる。またグループの日本旅行は、デイサービス施設利用者対象の旅行商品も企画し、JRファンの開拓にもつなげる狙いだ。
■沿線で急拡大する「シニア需要」を狙え
首都圏への企業流出など関西の地盤沈下は著しく、鉄道事業は苦戦を強いられている。かつては、マンション建設など不動産開発にも力を入れ、沿線人口を増やしてきたが、最近の少子高齢化で不動産開発が難しくなってきたという事情もあるようだ。
その一方、沿線の高齢者人口は年々増えているとみられ、「介護ニーズは確実に増している」(阪神電鉄の担当者)という。
野村証券によると、全国の介護関連市場は平成19年の7兆円から、37年には3倍程度の20〜25兆円に膨らむ見通しだ。
線路を張り巡らせている鉄道各社は、メーカーのように海外市場に軸足を移すわけにはいかない。
しかし、「地元密着の弱点は、実は強みでもある」(関係者)という。沿線住民にとって鉄道会社のブランド力は絶大のため、高齢者が安心して利用しやすいからだ。
多くの人は通学・通勤にJRや私鉄を使う。鉄道各社は最近、高齢者事業だけでなく、保育所まで手がけるようになっており、「ゆりかごから墓場まで」沿線住民をサポートする態勢を整えつつある。
各社の“新戦略”は実を結ぶのか。今後の展開から目が離せそうにない。
(中村智隆)