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2013/8/10 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
「消費増税を固め歳出削減にも踏み込め」「(社会保障)制度維持に全世代の負担必要」「小松法制局長官 集団的自衛権見直しの布石に」
何かと言うと、いずれも、ここ数日、主要全国紙が掲げた社説の見出しだ。消費税アップ、社会保障の老人いじめ、憲法9条の解釈変更を是認する中身で、いかに大マスコミが安倍政権の味方かがよく分かる。
自民大勝を許した参院選以降、平均株価の上下の振れ幅は1200円を軽く超える。乱高下の原因はアベノミクスの危うさと、それでも選挙前に強引に株価をつり上げてきた反動なのだが、大マスコミからはもちろん、そうした批判は上がらない。
で、黒田総裁の「所得増が消費を刺激する好循環の兆しが出ている」(日銀政策決定会合=8日)などという、超楽観見通しを平気でタレ流すわけだ。
一体、どこの誰の所得が上がったのか。「兆し」ってなんだ? 聞いてみたいものである。
社会保障制度改革国民会議の「最終報告」だって高齢者に痛みを押し付けるメニューがズラリだった。選挙前はそぶりも見せなかったのにヒドイものだ。しかし、大メディアは問題にしない。それどころか、「全世代で負担を分かち合おう」という、国民会議の総括をそのまま書くのだ。
新聞社の元政治部長で政治評論家の本澤二郎氏はこう言った。
「奇妙なのは『最終報告』の数日前から、複数のメディアが報告の中身を報じていたこと。これこそ、さまざまな会議の事務方を仕切る官僚がよくやる手口です。『欲しいのは特ダネ、怖いのは特オチ』という記者の習性を手玉に取り、報告の中身を小出しに漏らす。記者が“まき餌”に食いついて『特ダネ』を書けばしめたもので、その記者は権力批判を控えてしまう。
増税分を全額、社会保障に回す約束で消費税アップを容認した国民の側に立てば、メディアは給付減・負担増の最終報告に『国家的詐欺だ』と追及して当然です。そうならないのは、いかにメディアが役人に手なずけられているかという裏返しです」
大新聞の記者は、取り込まれてしまっているのである。
◆メディアがこれじゃあ、やりたい放題
今月22日からブルネイでTPP交渉会合が再び開かれるが、遅れて参加した日本が「ぼったくりバーのオーナー」である米国の「カモ」にされることも目に見えている。
しかし、メディアは「守秘義務」を理由に交渉経過や中身を開示しない政府に同調し、国民に何ひとつ真実を伝えようとしない。
「国民生活を考えれば独自取材で交渉の中身をバンバン暴けばいいのですが、TPPのような国際交渉の現場でもメディアは官僚にコントロールされている。会議の資料は全文英字で数百ページに達するケースがざら。それを官僚がレクチャーしてくれる。一刻も早く日本の上司に報告したい記者にすればありがたい話で、やはり言いなりムードが醸成されてしまうのです」(本澤二郎氏=前出)
安倍政権は国家戦略特区をつくり、そこで法人税率減税をやろうとしている。雇用ルールの規制も撤廃し、大企業を優遇する。労働者にしてみれば、「なぜ、大企業ばかり?」だが、もちろん、そういう声も無視。麻生財務相のナチス妄言にしたって、てんで報じていない大新聞もある。もちろん、欧米メディアでクソみそに叩いていることも拭ってしまう。
これじゃあ、安倍政権は楽チンだ。衆参両院で圧倒的多数を握った上、メディアがこれだけ味方をしてくれれば、怖いものなし。やりたい放題の体制が整ってしまっているのである。
◆権力を勘違いしている傲岸不遜な大メディア
もっとも、大新聞の政権ベッタリの報道姿勢は今に始まった話ではない。権力と大新聞との汚れた癒着は、戦前からずっと続いてきたことだ。
戦前・戦中は軍の手先となり、大本営発表のウソを平気でタレ流したくせに、敗戦を迎えると一転、「言論の自由」を大上段にふりかざす臆面のなさ。しかし、その裏では当然、時の政権と懇ろになり、「電波利権」や「国有地払い下げ」の恩恵を受けている。
ほかにも、記者クラブの便宜供与や展覧会・イベント開催への協力など、政府と新聞社の癒着を挙げていけばきりがないほどだ。
これじゃあ、権力のチェックも何もないが、問題なのは、これだけ破格の“待遇”を受けながら、大マスコミは恥じるどころか、「当たり前だ」という顔でふんぞりかえっていることだ。
その背後には「時の政権を動かしているのは俺たちだぞ」という信じがたいほどの傲岸不遜が透けて見える。
例えば参院選の争点を「ねじれ解消」と書くか、それとも「安倍の暴走を許すのか」と書くか。政治部記者のペンによって選挙結果は違っていただろう。参院選の自民65議席獲得を「圧勝」と書くか、「単独過半数には届かず」と書くか。見出し次第で、政権の求心力にも影響が出る。
だから、連中は自分たちが政治を動かしているかのごとく、勘違いをするのである。
あざとい大新聞は「さあどう書きましょうか」とばかりに政権に恩を売る。政権は自分たちに都合のいい記事を書かせようと、大新聞を手なずける。そんな「持ちつ持たれつ」の癒着関係が延々と続いてきたのである。
◆なれ合いマスコミが健全な民主主義を潰す
「戦後政治の裏面史では派閥領袖の番記者が暗躍してきました」と言うのは、新聞社の元論説委員で政治評論家の山口朝雄氏だ。
「大手新聞の記者の中には、政局のたびにメッセンジャー役を買って出たり、時には人事にクビを突っ込み、ヘタな政治家以上に影響力を発揮した記者もいました。最たる例が読売新聞の渡辺恒雄会長ですよ。かつての自民党の大物、大野伴睦氏の番記者として大変かわいがられ、次第に大野氏の政界工作にも加担していった。その動きが『権力側に強い』と社内外で評判を呼び、経営者に『利用価値アリ』と判断されて、どんどん出世した。それでも政治家と適度な距離感を保てればマシですが、最近は癒着することが仕事だと勘違いしている記者が目に付く。メディアの幹部もこぞって安倍首相と会食していますが、こんなことは欧米メディアでは絶対に考えられないことです」
大マスコミは常に権力側と一心同体。それを恥とも思わない。それがこの国のメディアの歴史なのだが、だとすると、この国に民主主義があったのだろうか。それを問いたくなるというものだ。
「参院選直前に自民党がTBSの報道内容に抗議し、『取材拒否』したことがありました。怒りを買ったTBSの報道は永田町の住人なら誰もが知っていた中身です。それに自民党がカミついたのは、『身内のくせに』という意識があるからでしょう。TVなんて、宣伝機関くらいにしか思っていないのだと思う。TBSがあっさり恫喝に屈したのも、普段から他メディアと忠誠度を競い合っているからでしょう。私は東京に本社があるメディアは基本的に権力を支える用心棒だと思っています。とりわけ、今の安倍政権のように野党はもちろん、与党内にも政敵なしという状況では、権力の一極集中が進み、メディアは巨大権力の忠実な走狗と化してしまう。その危うさは、戦前の大新聞が雄弁に物語っています。この国のメディアは、民主主義をチェックするのではなく、民主主義の破壊者となり得る危険性をはらんでいる。それは昔も今も変わらないと思います」(山口朝雄氏=前出)
メディアがきちんとした情報を報じなければ、いくら選挙をやったところで無意味だ。この国は今も、名ばかり民主主義の国と言うしかない。