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毎日新聞 8月10日(土)8時30分配信
日米両政府は9日、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉と並行して両国間の貿易問題を話し合う日米並行交渉の初会合を終えた。東京都内で7日から開かれ、「自動車」では、米側が安全・環境基準の緩和を求めたが、日本は譲らず、双方の主張を確認するにとどまった。また、「非関税措置」の焦点である日本郵政の保険事業では、米側が「民間企業と対等な競争条件が確保されていない」と一段の改善措置を要求。日本は慎重姿勢を示し、初会合は平行線に終わった。日米は今後も2国間交渉を続け、合意点をTPPに反映させる方針だ。【大久保陽一】
◇自動車でも日本と溝
「(日本郵政と米アメリカンファミリー生命保険=アフラック=の業務提携拡大は)一歩前進と歓迎するが、これだけで米国が抱く懸念が解決されるわけではない」。米通商代表部(USTR)のカトラー次席代表代行は日米交渉後の9日の記者会見で、日本政府が全額出資する日本郵政傘下のかんぽ生命保険の民業圧迫批判を改めて展開。2国間交渉でかんぽ生命と民間との対等な競争条件確立に向けた一段の改善措置を迫る考えを示した。
米側は長年、かんぽ生命について、日本政府が全額出資する間は新規業務を認めないように強硬に求めてきた。かんぽ生命が「暗黙の政府保証」を受けている上、全国の郵便局ネットワークで商品を販売できる優位な立場にあるからだ。
新規業務参入を急ぎたい日本郵政は米政府の意向も念頭に、7月26日、米アフラックのがん保険の取り扱いを全国の郵便局に拡大する提携強化策を発表。今回の日米交渉はその直後だけに、日本側には「さすがの米側も保険分野で軟化するのでは」(経済産業省幹部)との期待があった。しかし米側は「(郵便局網開放は)米企業1社の(がん保険という)一つの商品が対象に過ぎない」(カトラー氏)と指摘。保険分野での強硬姿勢を変えなかった。
一方、自動車貿易で、日米は安全と環境性能に関する基準や、新車の流通制度のあり方など9項目を議論。USTRなどは米自動車の対日輸出拡大を狙い、燃費や安全、騒音の規制の見直しなどを求めたが、日本側は「譲れない」と拒否した。カトラー氏は9日の記者会見で「自動車分野で成果を出す重要性を強調した」と説明。米自動車業界が日本のTPP参加に反対したことも念頭に、日本に対して規制緩和を引き続き求める構えを示した。
日本側代表の森健良経済外交担当大使は初会合について「接点を探るところまではいっていない」と語り、日米の主張の隔たりが大きいことを認めた。
◇「5品目」例外化にも影響
日米並行協議の行方は今後のTPP交渉にも大きな影響を与える。日米が「知的財産」や「公共事業への外資参入」などの分野で妥協点を見いだせば、これらの分野でTPPのルール作りを主導できる可能性がある。また、日本が目指すTPPの農業分野での「重要5品目」(コメ、麦、牛肉・豚肉、砂糖、乳製品)の関税撤廃例外化にも米政府の理解と支援が欠かせない。
日米並行交渉はオバマ米政権が今年4月、日本のTPP交渉参加を認める条件として設置を要請。日米協議で決めた自動車貿易での合意内容はTPP協定に盛り込まれ、両国の間でのみ発効する。
「知財保護」や「政府調達(公共事業への外資参入など)」「サービス自由化」をはじめとした分野では、世界のGDP(国内総生産)の首位と3位の日米が高いレベルの合意に達すれば、TPP交渉の流れを作れる可能性が高い。カトラー氏は9日の記者会見で「日米で協力できる分野はたくさんある」と強調。日米がタッグを組み、TPP交渉でマレーシアやベトナムなど新興国に政府調達などの分野で規制緩和を促し、日米企業のビジネス拡大につなげたい考えを示した。
一方、日米協調を優先するあまり、保険や自動車貿易で米側の主張に大幅に譲歩すれば、日本のTPP交渉参加の利点が薄れる懸念もある。
焦点の農産物の関税撤廃や減免はTPP交渉で議論する。ただ、関税撤廃品目の決定に向けては、日米を含むTPP交渉参加国が事前に2国間の協議で下交渉を重ね、その結果を全体の協定案に反映させる形となりそうだ。
日本は今後、関税分野で他の11カ国と2国間交渉を行うが、ニュージーランドやオーストラリアは日本のコメや牛肉、乳製品市場の開放を強く迫る見込みで、大きな試練となりそうだ。