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2013/7/30 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
山口、島根を襲った豪雨で亡くなったのは79歳の女性(萩市)で、84歳の男性(同)と60代の男性(福岡県)が今なお、行方不明になっている。
裏山が崩壊し、自衛隊に助けられたのは88歳の男性(山口市)で、ワゴン車が水没、命からがら逃げたのは70歳の男性と68歳の妻だった(萩市)。
島根県では24歳の男性が行方不明になっているが、報道を見る限り、お年寄りの被害が目立つ。もともと、若者が少ないのだ。老夫婦だけが住んでいる過疎地の家屋に記録的な豪雨が襲い掛かった。
もうひとつ、山口県周南市の5人殺害放火事件も、過疎地の老人の事件だ。被害者は71歳男性、72歳女性、79歳女性、73歳女性、80歳男性。容疑者は63歳男性で、舞台は高齢者ばかりが残された10世帯の限界集落――。若者が逃げて、取り残された集落での「村八分」が動機になったとみられている。
さて、ふたつの災害、事件に共通しているのは過疎だ。天災と過疎は関係ないように見えるが、これが大いに関係がある。地元紙記者はこう話す。
「林業が廃れると山の地力はどんどん、落ちてしまうのです。地力とは地盤の強さのようなもので、簡単に崩落するようになる。この辺は田んぼもまだら模様で、耕作放棄地が多い。田は自然のダムといわれているが、廃れてしまった。そのうえ、産業がないものだから、若者がどんどん、いなくなっている。山間地はもちろん、街中でも廃屋ばかりです。残されたのは老人で、近所付き合いもせず、地域のコミュニティーは死んでいる。災害の警報を発令しようにも、それぞれの家が孤立しているから、防災無線を各戸に取り付けているのです」
◆「限界的集落」「危機的集落」が激増
こういう地域に豪雨が襲うと、今回のような事態になるのだ。この記者は「被害者が少なかったのは奇跡的」「裏を返せば、それだけ人がいないのだろう」と言っていたが、こうした過疎化は全国で加速度的に進んでいる。
参考になるのが島根県が2010年に実施した集落調査だ。それによると、県内には20世帯未満で、65歳以上の高齢化率が50%を超えている「限界的集落」が453集落もあった。04年と比較すると、52集落増、全体(3334集落)の13・59%だ。
このうち、高齢化率が70%以上、10世帯未満という「危機的集落」は72集落。さらに島根大の調査で、戦後、次第に人が住まなくなった「自然消滅型集落」が57集落に上ることも明らかになった。
全国規模の集落調査は直近では見当たらないが、どの県も似たようなものだろう。地方における労働力人口は急減しているからだ。
こうした地域で天災が起こったら、誰がお年寄りを助けるのか。道路が寸断されれば、あっという間に集落は孤立化し、被害が拡大してしまう。「村八分」のようなことが起これば、第2、第3の八つ墓村事件が起こる。
日本の過疎化がもたらす悲劇は、もう見過ごせないレベルなのである。
◆地方を自立できなくさせた自民党政治の大罪
問題はこうした過疎化は誰のせいか、ということだ。
国民はてんで気づいていないが、自民党政権による積年の失政にあるのは言うまでもない。自民党は地方に公共事業をばらまいてきた。一見、地方に優しい政治をしてきたかに見えるが、とんでもない話だ。公共事業は自分たちの金儲け、利権だし、そうやって、自民党政権が公共事業をばらまき続けた結果、地方の産業はまったく育たず、公共事業がなければ生きていけない、“麻薬漬けの体”になってしまった。
原発だって同じ構図で、原発が止まると、地域経済が成り立たなくなっている。「麻薬漬け」ならぬ「放射能漬け」だ。自民党の政治屋たちは、そうやって、利権をむさぼってきた。その結果が今の地方経済の疲弊、過疎化なのである。
「歴代自民党政権は農家も平然と切り捨ててきました。自民党政権は農家を保護してきたように見えますが、大きな誤解です。例えば、EUは農家の所得の95%が補助金です。農家は国家公務員のような存在で、向こうは国が食料、国土を守るのは当然、という意識です。国があまった農作物を買い上げる制度も他国は無制限が当たり前。
自国の農業を守るためにもちろん、関税もかけています。一方、日本は補助金の補填は所得の15%。関税も重要5品目以外はほとんどゼロです。林業も昭和30年代に木材の関税をゼロにして衰退した。それで山が崩壊したのです。私は今度の豪雨は人災だと思う。過疎化を推し進め、山を守らなかった自民党政治が被害を拡大させたのです」(東大教授・鈴木宣弘氏=農政)
◆バラマキをやめて新自由主義の身勝手
農業よりも公共事業や原発の方が利権になる。そういうことなのだろう。おかげで、農家の担い手はいなくなり、地方の産業はなくなった。自民党の利権政治に頼らなければ生きていけなくなったのだが、薄汚い自民党は、その見返りに選挙での票を求めてきた。
しかし、財政難でバラマキもままならなくなったため、今度は新自由主義に走りだしたわけだ。小泉構造改革が中央―地方の格差を拡大させ、地方をシャッター通りだらけにしたのは周知の通り。安倍はというと、それをさらに推し進めようとしている。あまりに身勝手、ご都合主義の冷血政治だ。
「地方経済を活性化させるには産業政策がなければいけない。自動車産業はトヨタが頑張るだけでは育たなかった。港を造り、コンビナートを築き、道路を整備したから輸出産業になったのです。しかし、新自由主義は自由競争さえすればいい、という考え方で、産業政策は不要と考えている。これでは地方経済は廃ってしまう。地方の中小企業に海外で通用する競争力をつけさせるためにはどうするべきか。それを考えなければいけません」(立大教授・山口義行氏=経済)
◆地方をぶっ壊して何が「美しい国」だ!
それなのに、安倍は考えるどころじゃない。成長戦略とか言って、新自由主義を推し進めるだけでなく、よりによって、過疎化の総仕上げともいうべき、TPPに参加、地方にトドメを刺す気だ。こんな政権に任せていたら、地方は本当に殺されてしまう。
前出の鈴木宣弘氏はこう言った。
「TPPに参加すれば、日本の地方は経済が成り立たなくなり、文化、伝統も廃れ、いわば、身も心もズタズタになってしまう。それで得するのは1%のグローバル企業だけなのです。彼らが地方に雇用をもたらしますか? 安い労働力を求めて、海外に行くだけです。地方はますますすさみ、田畑は枯れ、大災害が起こり、凄惨な事件も頻発する。もともと、日本は災害立国です。厳しい国土で皆が助け合いながら、歴史を築き、経済を発展させてきた。それを1%のグローバル企業のために台無しにしていいのか。本来であれば、今こそ、地方の過疎化対策に政治が真剣に向き合うべきなのです。それなのに、安倍政権は国を売る。何が美しい国ですか。冗談じゃありません。この国はボロボロになりますよ」
参院選では、地方の1人区はもちろん、複数区でも自民党が圧勝した。地方の有権者はなぜ、こんな自民党に投票したのか。つくづくバカだ。自民党政権を続けさせたら、自分で自分の首を絞めることになる。生きていけなくなるのである。