IHI、藻から航空機燃料量産 価格10分の1に
運航コストを削減
2013/7/15 2:00
IHIは藻を原料とする航空機向けバイオ燃料を量産する。現在のバイオ燃料の平均価格の10分の1程度で2018年にも東南アジアなどで生産を始める。航空機向け石油燃料は需要増加で価格が上昇、燃料費は運航コストの4割を占めるなど航空会社の大きな負担となっている。将来は自動車向けにも用途を広げる考えで、量産が本格的に始まれば燃料コストの抑制につながりそうだ。
バイオ燃料は航空業界での需要が今後大幅に増える見通し。ジェット燃料は原油の精製過程で一定の比率でしか生産できないためだ。米ボーイングによれば、ジェット燃料の価格は00年以降に年率平均12%のペースで上昇し現在1リットルあたり100円弱。
今後20年で世界の運航機数は現在の2倍近い約3万5000機になる見通し。燃料需要は急増しさらに価格高騰が予想されるため、低価格バイオ燃料の普及が必要だ。
バイオ燃料は業界基準でジェット燃料に最大5割まで混ぜて使えるため、コストが下がれば航空会社の収益改善につながり二酸化炭素(CO2)の排出も抑えられる。欧州エアバスは低価格化で30年にジェット燃料の3割がバイオ燃料になると予測する。
これまではトウモロコシやサトウキビを原料としてきたが、穀物価格の高騰を招いた。藻類は大量培養が難しいとされてきた。IHIは強みのプラント技術などによって藻の体積の5割を燃料として大量生産できる技術にメドをつけた。
すでに生産コストは1リットル当たり500円程度と、植物の種子などを原料とする一般的なバイオ燃料の半分程度にまで下げた。コストを同100円にするため東南アジアかオーストラリアで量産する。藻の光合成に必要な日照時間が長く、大規模工場などから二酸化炭素(CO2)を大量調達しやすいためだ。20年以降に生産量を年3億リットル程度に増やし、将来は年間売上高300億円規模の事業にする。
IHIの試算では藻原料のバイオ燃料市場は20年には自動車向けなども含め年8000億円になる見通し。そのうち航空機向けは同5000億円と大半を占めるとされる。
バイオ燃料の研究開発では米国が先行する。藻から抽出するジェット燃料でも米ベンチャー企業が事業化にしのぎを削るが量産段階には至っていない。日本企業ではJX日鉱日石エネルギーや日立製作所、デンソーも実証実験などを進める。日本にとって新たな成長製品となる可能性がある。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD14004_U3A710C1MM8000/?dg=1
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次世代燃料、なぜ藻に脚光? ストレス受け油をつくる
軽油などに代わる次世代の燃料として、藻がつくるバイオ燃料が脚光を浴びている。地球温暖化の原因になる二酸化炭素(CO2)を出さない利点が注目され、量産に向けた技術開発が活発になってきた。私たちの身近にある藻がなぜ、どうやって油をつくるのか。
バイオ燃料はガソリンに混ぜて自動車向けなどに使われ、世界で生産が急増している。今はサトウキビやトウモロコシなどからつくるエタノールが主流。しかし作物を原料にすると食糧供給を圧迫し、穀物価格が高騰する原因になっている。
そこで注目されているのが藻類だ。土壌などにすむ微細な緑藻「シュードコリシスチス」の仲間は光合成をしながら油をつくり、ディーゼル燃料を取り出せる。燃やすとCO2を出すが、その分は藻が育つ段階で吸収するため、排出は事実上ゼロとみなされる。
水田などで藻を大量に培養すると、大豆や油ヤシを同じ面積で育てるのに比べて20〜280倍の油を取り出せるとの試算もある。効率の高さに欧米などの企業や研究機関が注目し、商用化の一歩手前まできた。
なぜ、藻が油をつくるのか。中央大学理工学部の原山重明教授は「藻がストレスを受けることが、油をつくりだすきっかけのようだ」と話す。
実験では水に含まれる塩類や窒素の濃度、水温などが変わると藻は体内に脂質を蓄え始める。環境の変化をストレスと感じ、栄養が欠乏しないように油を作る。環境が回復した時に油を使って再び増殖し、種を絶やさずに生き延びてきたらしい。
ただ、すべての藻が油をつくるわけではない。微細藻類は少なくとも4万種いるとされるが、今のところバイオ燃料に向いているのはシュードコリシスチスなど一握り。もっと優れた新種の藻を見つけようと、温泉のまわりの土壌を探したり、遺伝子を組み換えたりして効率を高める研究も活発になってきた。
量産には、自動車レース場に似た周回型プールを水田に設けたり、光を通す巨大な反応槽で育てたりする方法が有望とみられている。日本でも自動車部品メーカーのデンソーなどが大量培養の研究に力を入れている。
人と藻類とのかかわりは深い。健康食品や食用色素としておなじみのクロレラやスピルリナも藻の仲間で、日本企業が大量培養に成功した。石油など化石燃料の消費を減らし、温暖化を防ぐため、藻類が新たな救世主になるかもしれない。
(編集委員 久保田啓介)
[日経新聞1月8日朝刊P.15]