昨日7月1日、日銀は恒例の日銀短観を発表しました。これは3ヶ月に1度行われ、実に1万社以上を対象に景況感を調査したもので、そこから出てくるデータは極めて信頼度が高いと世界的にも高く評価されているものです。通称DIとも呼ばれています。
これについては毎回大企業の製造業に注目が行きやすいので、まずそこから見ていきますが、その大企業の製造業DIですけど、これは前回3月の調査から大幅に改善し、12ポイント上昇して「プラス4」となり、東日本大震災以降、はじめてプラス圏に浮上しました。なかでも主力の自動車の数字は極めて強く、実に「プラス16」となりました。
ちなみに、製造業の景況を示すものとしては、中国に、HSBC調査のものと中国物流購入連合会が調査するものとの2つあるように、日本にも2つあります。日銀に先立って、日経クイック短観というのが既に発表されており、これは大企業限定のものなのですが、このクイック短観が既にかなり良い数字を出してきていたので、今回の日銀による調査も、ほぼ事前の予想通りのものでした。
ところで、問題なのはここからです。
日本の雇用労働者の9割は中小企業に勤めていると言われています。日本経済にとっては、大企業よりも中小企業の方がずっと重要であるわけです。1割の大企業より、9割の中小企業がどうなのかということの方が、経済的にはずっと重要であるのは当たり前というものです。
で、その中小企業製造業のDIなのですが、大企業の景況感が急回復したのに対し、中小企業のDIは依然として悪く、今回の調査でも「マイナス14」という数字が出てきました。
このマイナス14という数字は、かなり深刻です。景況感が改善したと言っても、それは大企業に限った話であり、中小企業は依然として厳しい苦境の中にあるわけです。
大手新聞は、この日銀短観をいったいどのように報じたのでしょうか。
朝日新聞は、この数字が朝方に発表されたこともあり、朝日はこの短観を夕刊のトップで大々的に取り上げていました。見ていただくと解るのですが、かなり大きく紙面を割いてこの短観について報じています。
ところが、一面の記事をず〜っと読んでいっても、中小企業の数字についてはまったく出てこないのです。記事になっているのはひたすら大企業ばかりで、大企業でいかに景況感が改善しているか、また設備投資の動向はどうか、そういうことしか書いていないのです。中小企業のことはまったく出てきません。
おいおい、中小企業はいったいどうなってるんだよ? と思っていると、1面ではなく、次のページにあり、そこで中小企業については、小さく地味な感じで記事にしているだけなのです。しかし、これでは読者は読みませんよ。
一方、朝日新聞デジタルはどうなっていたでしょうか?
昨日、朝日デジタルの方は速報で「業況判断指数、1年9月ぶりプラスに 日銀短観」というタイトルの記事を載せています。当たり前ですが、このタイトルは完全な間違いです。プラスになったのは大企業だけで、残り9割が働く中小企業の方はマイナスなのです。それも、マイナス14なのです。つまり、依然としてかなり深刻なのです。
その後デジタルでは、「大企業、明るさ先取り 日銀6月短観、景況感プラス」というタイトルで、更に長い記事が出ました。
このタイトルも間違いです。225の大企業によって構成される日経平均株価が、DIを“先取り”して上昇していたのであり、DIそのものは何かを先取りするものではなく、あくまでも6月時点での“現在”を表わす数字です。
ちなみに、この長い記事の方ではさすがに中小企業についても書いてありますが、とはいえ、アベノミクスとかいうものによっていかに大企業の景況感がよくなっているか、というのが中心の記事であることに変わりはありません。
ところで、偶然ですが、この日は、中国でも、中国物流購入連合会による製造業PMIが発表されました。日本の方は0が好不況の分かれ目として設定されているのに対し、中国の方は50が分かれ目になっていて、また中国の方は企業の規模を区別せず全部一括で発表するのですが、この中国のPMI、6月は50・1という数字が出てきました。
繰り返しますが、日本の場合、良くなっているのは大企業限定の話で、大企業はプラス4であるのに対し、大企業はマイナス14なのです。一方で、中国は全体で50・1です。
この数字について、朝日新聞デジタルはどのように報じたのでしょうか?
恐るべきことに、「中国、製造業の減速鮮明に 景況感示す指数が低水準」というタイトルで、中国の経済がいかに悪化しているかということを延々と書いているのです。
当たり前ですが、中国と日本、どちらの経済状況の方が良いかというと、それはもちろん中国であり、日本の場合、良いのは大企業限定の話で、中小企業は、はっきりと悪いのです。
もっと歴然としているのは小売売上と所得でして、中国の小売売上はおよそ10%、所得は15%伸びているのに対し、日本の方は伸びるどころか下落しているのです。
にも拘わらず、新聞はこういう報道をします。そして、朝日新聞デジタル、朝7時の時点でのアクセス・ランキングを見てみると、なんと、この「中国、製造業の減速鮮明に 景況感示す指数が低水準」という記事が、全体の1位なのです。
こうして、大手メディアによるマインド・コントロールは着々と進んで行くわけです。
ちなみに、朝日新聞デジタルには、株価に関する記事もありまして、「短観を好感、株価上昇 中国経済には懸念」というタイトルなのですが、これも思いっきり間違いです。
日銀短観が発表されたのは朝の寄り付き前のことだったのですが、この発表を受けて日経平均がどう動いたかというと、上昇どころか、時間を追うごとにジワジワと下落していったのです。ところが、昼休みが終わって午後になると、俄かに強含んで、日経平均は急速に上昇を開始して、そのままプラスで終わったのです。
では、この日午後に何があったのか? この日の日経平均と上海総合のチャートを見比べると、両者はそっくりな動きをしていることが解ります。どちらも、午前中に下落し、午後になって急上昇して、そうして共にプラスで終えているのです。
ならば、この日上海が上昇したのは、中国の製造業PMIに反応したものでしょうか? まったく違います。実はこの1週間というもの、日経平均と上海総合のチャートはかなり連動性が高いのですが、それはひとえに、現在中国の当局が行っている銀行改革の影響によるのです。この1週間、日中両国の株価は、殆どこれで動いてきたと言っても過言ではないのです。
という訳で、朝日新聞は、金融・経済に関して、何一つ正確な記事を書いていないのです。デタラメばかりなのです。そして、朝日新聞がこうである以上、他の大手新聞がどうであるかも、推してしかるべきというものでしょう。
原発については、あれだけの大事故が起こった以上、大手新聞といえども、そうは嘘を書けない状況になってきています。それに対して、経済の記事については、とんでもないデタラメが横行しているのです。これが、大手新聞の現状なのです。
(経済のベース、金融のドラムブログより転載)