http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130630-00014512-toyo-bus_all
東洋経済オンライン 6月30日(日)8時0分配信
バーナンキFRB(米国連邦準備制度理事会)議長の言葉に、市場は神経をとがらせている。
現行のQE3(量的緩和第3弾)は長期国債と住宅ローン担保証券を毎月合計850億ドルも買い入れるという空前の規模。異次元緩和をブチ上げた日本銀行と対照的に、米国は景気回復を背景に、金融緩和を縮小するタイミングを模索してきた。それゆえに今月19日の米国金融政策会合は世界中の注目を集めたが、QE3継続の方針に変更はなかった。
ところが、バーナンキ議長は会合後の会見で、今後の経済指標がFOMC(連邦公開市場委員会)の見通しどおりに改善すれば、「今年後半に資産買い入れのペースを減速し、来年半ばに終了するだろう」と、自ら縮小の時期に言及。緩和縮小による金融相場の終息が強く意識され、この日の米国株市場は大きく下落した。
■ 新興国から資金が流出
今回の発言以前から、市場は変調を来していた。その契機は5月22日。バーナンキ議長が議会証言後の質疑応答で、「今後数回の金融政策会合で資産購入を縮小する可能性がある」と発言したことだ。同日公表された直近の政策会合の議事録には、早ければ6月にも資産購入を調整することに、複数の参加者から前向きな意見があった、と記されていた。
これを受け、米国のみならず先進国の膨大な金融緩和で世界中にあふれたマネーが動揺した。翌日には外国人投資家が日本株の売却に動き、相場が大崩れ。それだけにとどまらず、新興国の通貨安が進み、各国の株式市場が軒並み下落した。
グローバルの資金フローに詳しいメリルリンチ日本証券の吉川雅幸チーフエコノミストは、「為替先物や投資信託の資金動向など複数のデータから、投資家が新興国から資金を引き揚げる動きが見られる」と話す。また、第一生命経済研究所の西濱徹主任エコノミストは、「米国の緩和縮小が投資家の中で意識され始め、新興国の通貨安に拍車がかかった。アジア株市場の変調は日本相場が荒れた前後から。各国では、6月に入って外国人投資家の売り越しが突出している」と指摘する。
5月からの動きについて、前出の吉川氏は「緩和縮小で何が起きるかわからないという不透明感やリスクを強く意識し、資金をいったん動かしたのだろう」と分析する。今後、リスクオフともいえる動きがどこまで続くかは未知数だ。
市場には、先月22日のバーナンキ発言を「マーケットに緩和縮小を徐々に織り込ませるための意図的な言及だった」と見る向きが多い。いずれにせよ、景気回復が続けば、米国は金融緩和の縮小に動く。野村アセットマネジメントの藤田亜矢子シニア・エコノミストは「新興国へ過剰に資金が流れ込んでいただけに、米国の金融政策が正常化に向かう中、新興国の通貨安は必要な調整プロセスだろう」と話す。
新興国といっても海外資金の依存度合いや経済情勢は各国で異なる。通貨安で輸出競争力が高まるメリットもある。困るのは「経済が減速する中、インフレが続いている国」(藤田氏)。通貨安を放置するとインフレ圧力が強まる。かといって政策金利を引き上げると景気をさらに冷やす、というジレンマもある。
緩和縮小は米国経済が強いことの裏返しといえる。ただ、バーナンキ発言を受けて金融市場がさらに動揺する懸念は残る。巨額の資産買い入れの縮小から金利引き上げへと、金融緩和が「出口」に向かう中、資本市場や世界経済にどんな影響が及ぶのかは、誰も予想できない。金融市場のみならず、新興国にとってナーバスな状況は続く。
(撮影:Bloomberg via Getty Images =週刊東洋経済2013年6月29日)
井下 健悟