まさかの復活。日の丸液晶の大勝負 社運を懸けたスマホ液晶の増産投資は吉と出るか
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2013年06月16日 前田 佳子 :東洋経済 記者
日の丸電機は今度こそ飛躍できるのか。
日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶子会社を統合し、昨年4月に発足したジャパンディスプレイ。官民ファンドの産業革新機構が2000億円を出資して株式70%を保有する文字どおり、日の丸液晶会社である。6月3日、1500億円弱を投じた茂原工場(千葉)の新ラインが動き出した。
「日本メーカーは技術で勝って、ビジネスで負ける状態にあった」(ジャパンディスプレイの大塚周一社長)。統合前、それぞれの親会社は業績変動が激しい中小型液晶事業と距離を置いていたため、3社は積極的な投資を行えずにいた。
しかし、専業メーカーとして生まれ変わり、親会社とのしがらみを断ったことで、一気に攻勢へ転じた。調達資金の残り500億円強もすべて増産投資に投じ、数年内には生産能力を倍増させる。旺盛なスマホ向け需要に加え、新ラインの立ち上げ後は「タブレットが伸びてくる」(大塚社長)と期待を込める。
経営のスピード感もアップしている。今回の新ラインは347日という短時間で立ち上げた。「期待以上の仕事に感謝している」と産業革新機構の谷山浩一郎・執行役員は満足そうに語る。4月には旧3社の労働条件の統一にもこぎ着けた。研究開発は茂原に集約し、製品開発も加速している。
「統合後に各社の技術を見比べて、こんなことができるのかと技術者同士で驚きの声が上がることもあった」(同社幹部)。低消費電力の液晶パネルを開発し、有機ELの技術開発にメドをつけるなど成果は上々だ。
茂原工場がたどってきた道のりは平坦でなかった。新ラインは、パナソニックから買い取ったテレビ用液晶パネル工場を改造した。そもそもは東芝と日立、松下電器産業(当時)が共同出資した工場を2010年にパナソニックが完全子会社化したものだ。一時はキヤノンが子会社化する予定だったが、それも頓挫。台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業への売却交渉が浮上したこともある。稼働率が低迷する中、最終的にジャパンディスプレイが買い取った経緯がある。
まさかの復活ぶり
そんな紆余曲折を吹き飛ばすかのように、茂原工場は息を吹き返しつつある。スマホ用パネルは需給が逼迫しており、足元はフル稼働。製造部門では約400人の採用を見込む。技術はあるがカネはなく、親会社に翻弄されてきた過去を振り返ると、まさかの復活ぶりである。
問題は持続力だ。昨年6月には能見工場(石川)で新ラインが稼働した。が、昨年末ごろは主要顧客である米アップルからの受注減少に悩まされ、新規顧客で穴埋めして何とか切り抜けた。現在は大手スマホメーカーをはじめ、中国などの中堅メーカーの取り込みにも成功している。
同社が得意とする高精細な中小型液晶は量産が難しく、台湾や中国のメーカーは追随できていない。一方でスマホやタブレットのメーカーは、軒並みアイフォーンやアイパッド並みの高価な液晶パネルを求めているという。「低価格スマホ向けのビジネスはしない」(同社幹部)と高級路線にこだわる戦略は、今のところ奏功している。
しかし、恐ろしいスピードで変化するのが、モバイルデバイスの世界。激安スマホが世界を席巻すれば、たちまちそっぽを向かれて稼働率が低下するおそれがある。台湾や中国のパネルメーカーが技術力をつけて量産攻勢を仕掛けてくれば、熾烈な価格競争が待っている。
希望と不安を抱え、走り出した日の丸液晶会社。税金が入っている以上、もう負けは許されない。
(撮影:ロイター/アフロ =週刊東洋経済2013年6月15日)