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2013/6/10 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
このところ、異様なハイテンションが目立つ安倍首相は、先週末も“ドライブ”がかかっていた。8日の土曜日は都議選に向けた遊説を墨田区でスタート。いきなり、11分間もマイクを握りっぱなしで、「ずっと日本を覆っていた暗く厚い雲が、空気が、大きく変わった」とアベノミクスの成果を強調。その後、都内5カ所を回ったから驚いた。
きのう(9日)もボルテージは上がりっぱなしで、NHKの「日曜討論」では「確実に経済は動き出している」と自画自賛。テレビの後は再び遊説に向かい、三田、麻布十番、武蔵小山、桜新町、渋谷……と実に8カ所でマイクを握り続けた。衆院選の最終日じゃあるまいし、「どうしちゃったの?」と言いたくなるし、よくもまあ、この“状況”で自分の経済政策の成果を強調できるものだ。
自分が「私の経済政策の本丸」と位置づけていたアベノミクス第3弾は、5日の講演の直後から、株が売り浴びせられ、市場にダメ出しを食らった。本丸がズッコケたのである。普通ならば、シュンとするし、少なくともマイクを握って舞い上がっている場合じゃないだろう。それなのに、安倍はテレビで、街頭で大威張りなのである。
この首相、大丈夫なのか。相当、ヤキが回っているのではないか。聴衆だって、そう感じたのではないか。
「恐らく、気分が高揚して周りが見えていないのではないか。そんなふうに感じます。政権発足時から期待され、おだて続けられてきたことで、妙な自信ができている。忠告してあげられる人もそばにいないのかもしれません」(立正大教授・斎藤勇氏=心理学)
2度目の登板で大宰相気取り……。だとしたら、てんで自分が見えていないというか、つける薬がない大バカだ。
◆中身空っぽのスピーチにひとりでコーフン
あの第3弾のスピーチも、安倍の“危うさ”が全開ではなかったか。中身がないくせに表現だけは大仰で、三浦雄一郎さんのエベレスト登頂を例に出し、「私の成長も同じ」と言ってのけ、岡本太郎の「芸術は爆発だ!」を引用し、「『民間活力の爆発』。これが、私の成長戦略の最後のキーワードです」とか言っていた。
断っておくが、成長戦略の中身は空っぽだった。だから、市場は投げ売りになった。しかし、安倍だけは、ひとりでコーフンし、「日本経済は世界を変える」みたいなことを言ったのである。
この臆面のなさというか、誇大妄想というか、とにかく、「危なっかしさ」には、朝日の天声人語(8日付)も〈問題は、爆発した先の日本がどんな姿になっているのかだ〉と皮肉ったほどだ。
「安倍首相は“言葉の負のスパイラル”に入ってしまったようだ」とは政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏。
「首相が強烈なメッセージを発信し、国民に夢を与えて引っ張っていく。それ自体は悪くありません。しかし、政治家は言葉を発したら、同時に説明責任を果たさなければいけません。ところが、安倍首相は言いっぱなし。根拠や道筋をすっ飛ばして次々に大袈裟なことを言う。だから次第に国民が疑心暗鬼になり始めているのです。期待が大きければ大きいほど、その反動も大きくなる。それが怖いから、さらに大きいことを言わざるを得なくなる。首相はそんな悪循環に陥っている印象がします」
つまり、どんどん、ウソとゴマカシを重ねていく。もちろん、市場はだまされないから、安倍が口を開くたびに、失望売りを招くことになる。
◆「幻」が露呈したことの重大性が分からない危うさ
このスピーチの失敗、成長戦略の空振りは安倍が考えているほど、甘くない。
そもそも、黒田バズーカで株が上がったのはバブルだ。実体経済は何も変わっちゃいないし、それは市場も分かっていた。その先の成長戦略への期待先行、6月の発表までの「つなぎ」で株が上がったのである。
それなのに、アベノミクスには核がなかった。成長戦略は幻だった。それが露呈しただけでなく、安倍自身がその重大性をまるで分かっちゃいなかった。口では「本丸」とか言いながら、官僚の書いた中身スカスカ草稿を棒読みした。安倍の低能ぶりもまた、「これでもか」と露呈されたのである。
元経産官僚の古賀茂明氏は本紙のインタビューで、成長戦略に出てきた数字は「官僚がひねり出した数字」と看過し、〈経済が分かっている首相であれば、こうした官僚のレトリックに気づくはずですが、そのまま発表して、失望売りを招いた〉と切り捨てた。
こうなると、今後、安倍が何を言い繕っても無駄だ。さすがに「ヤバイ」と思ったのか、安倍は昨日になって、「秋には投資減税」なんて言い出したが、減税は国債暴落と隣り合わせだ。小粒なものしか出せないし、かといって、小粒では市場に見透かされてしまう。もう八方ふさがりではないか。それなのに、まだ、安倍は自信過剰。ますます異様に見えてくる。
「アベノミクスで何もかもうまくいく。こう思って酔っていたマーケットが正気に戻り、それを見透かしたヘッジファンドが売り浴びせている。これが株式市場の現状です。彼らにとって日本の経済が良くなろうが悪くなろうが知ったこっちゃない。“今売り崩すチャンス”と捉えていますから、株式市場も安倍政権も翻弄される状態が続くと思います」(株式評論家・杉村富生氏)
◆アベノミクスを取ればただの極右政治家
さて、安倍からアベノミクスを取ったら、ただの極右のナショナリストだ。米国の議会報告書でも“ストロングナショナリスト”と書かれた。その安倍が“敵視”する中国の習近平国家主席はオバマ大統領と8時間も胸襟を開いて語り合った。安倍はオバマと会っても共同記者会見すら開いてもらえなかったから、その待遇差は歴然だ。
つまり、安倍は世界から相手にされていない。株が落ちれば、ご用済みなのである。
安倍は都議選の遊説の合間に、側近に「元気が出ますよ」と勧められ、「高気圧酸素治療法」を受けたが、さあ、いつまで持つか。
あとになって、この政権を振り返ったとき、「あのスピーチの失敗が境目だった」ときっと言われる。この政権は下り坂を落ち始めている。