http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130611-00010000-takaraj-hlth
宝島 6月11日(火)16時30分配信
5000人以上のがん治療をし、ホスピス医として2500人以上の末期がん患者を診てきた
ホスピス医、小野寺時夫(おのでら・ときお)氏にお話を伺いました。
ホスピスで心を痛めることのひとつは、抗がん剤治療を受けすぎてズタズタになってくる人が
非常に多いことです。高度進行がんに対して諦めずに種々の抗がん剤治療を受けたが効果が
なく、ひどく衰弱進行してくるため、ホスピス入院後間もなく死亡する人が少なくないのです。
抗がん剤は、どんながんにもやらないよりは多少でも効果があると思っている人が多い感を
受けますが、それは大きな誤りです。抗がん剤が効くのは、急性白血病、悪性リンパ腫、
睾丸のがん、胎盤の絨毛上(じゅうもうじょう)皮ひがん、小児がんで、これらのがんには
7割くらいの人に有効で、5年生存率も6割を超えます。
問題なのはそれ以外のがんで、乳がんや卵巣がんでは有効例が比較的多いのですが、
それ以外のがんで本当に延命効果があるのは、おそらく10人に1人以下ではないでしょうか。
近年、分子標的薬が開発され、副作用が少なく効果が一段と上がっていると医師が話し、
マスコミも報道しますが、副作用がかなり強く重大なものもあり、効果は従来の抗がん剤に
比較すれば多少効く頻度が高いのが真実でしょう。
抗がん剤治療は効かなければ苦しみながら人生の大切な時間を失い、命を縮める危険も
あるので、患者は効く率や副作用をよく理解した上で、受けるか受けないか、効かなければ
すぐに中止する決断をしなければならないのです。
■大学病院医師の信じられない言葉
肺がんの手術から2年後に再発した男性のKさん(当時71歳)は、大学病院大学病院医師の
信じられない言葉で抗がん剤治療を勧められ、抗がん剤の組み合わせと投与法の異なる
5種類のなかから、好きなものを選ぶよう言われたそうです。
どれがおすすめなのかを医師に聞くと、
「治療してみないとわからないから、5通りの方法を比較しているのです」
と言われ、Kさんはあまりしつこく聞いてはいけないと思い、3番目の方法を選んだのです。
2カ月近く入院治療を受けたそうですが、副作用で食欲がなくなり、身の置き所のない
不快感に悩まされました。効いているかどうかを医師に尋ねたところ、
「残念ながら効いていないようなので、残り4つのなかから選んだものに変更します」
と言われそうです。
Kさんは呼吸苦も胸痛も強くなってきたので、すぐには決心がつかず考えて後で返事をする、
と答えました。ところが、若い医師に
「大学病院は研究機関でもあることを承知でかかっているのでしょう。もし治療を受けないのなら、
すぐ退院してほかの病院に行くように」と言われ、やむを得ず1番目の方法を選んだのです。
新しい献立の治療は、週1回の注射に通うものでしたが、二月目に入るとまったく食欲が
なくなって味もわからなくなり、だるさが増して手がしびれ、著しく減少した白血球や血小板が
回復しなくなったのです。その時点で医師からホスピスを勧めれれ、私のところに入院して
きたのです。
Kさんの肺がんは抗がん剤の効きにくい「腺(せん)がん」でした。脊椎や肋骨に転移が
多数ある上、腹膜転移もあり、抗がん剤治療の適応は考えられない状態でした。
本人も家族も、大学病院が抗がん剤治療を強く勧めたのは、研究のためだと不信感を
持っていましたが、私もそれは否定できないと思います。
5つの抗がん剤治療法の特徴や効く率の説明もせず、どれかを選べというのは患者の
人権を無視しています。大学の権威を笠に患者を脅迫するなどは、許しがたいことで、
日本がいまだ文化国家とは言い難い一端ではないでしょうか。
■抗がん剤は命を賭けたギャンブル
抗がん剤はどれくらいの率で効くのか−これが最も大きな問題ですが、医師もマスコミも
よく効いた稀な例を挙げて、あたかも誰にでも効くような印象を与える傾向が強いのですが、
延命効果のある例があることは事実ですが、非常に少ないのが真実です。殊に日本の医師は、
信頼できる臨床データがなく、勘で話している場合が多いのです。
私も若い時代の一時期は、積極的に抗がん剤治療を試みた時期がありました。しかし、
乳がんの骨移転や大腸がんの肝臓転移に著効して延命効果があった例がありましたが、
30人くらいに1人の割合で、そのほかのがんの著効例はなく、私は次第に抗がん剤治療に
期待しなくなったのです。
最近、ホスピス入院患者で抗がん剤治療を受けた300人のなかで、診療情報提供書
(医師からの紹介状)に抗がん剤効果の有無が書いてある160人について有効率を
調べてみました。160人中、有効とあったのは6例だけでした。この6例のなかでも、乳がんの
ひどい皮膚転移、肺の小細胞がん、卵巣がんの3人は治療で延命したと思われましたが、
ほかの3人は一時的に有効とあっただけ。また、160人中、抗がん剤の種類を2度、3度と
変えて治療した人が約80例ありましたが、抗がん剤を変えたら効いたという例は一例も
なかったのです。
抗がん剤は使ってみなければ効くかどうかわからず、がんが少し小さくなったり、腫瘍マーカーが
一時的に少し下がったりしても延命効果まではないことが多いのです。本当に延命効果の
ある率は、とくに乳がんや卵巣がん以外では非常に低く、肝臓がんや胆道がんの有効例を
私は一例も経験していません。同じ臓器のがんでも、がん細胞の性質は個人個人みな異なり、
抗がん剤や放射線がAさんに効いたからBさんにも効く、ということはなく、Bさんに効かない率の
ほうがはるかに高いのです。
言い換えると、抗がん剤治療は命を賭けた当たる確率の悪いギャンブルなのです。ですから、
がん治療専門医やその家族ががんの場合、抗がん剤治療を受けない例が多いのです。
高名ながんセンター総長が肺がんになった時、何の治療も受けず、モルヒネを使いながら
最後まで自宅で過ごしたというのは、医療界では有名な話です。