高速増殖炉もんじゅの事実上の運転禁止となる命令内容の説明を受け、記者の質問に答える原子力機構の鈴木篤之理事長(当時)=5月16日、東京都港区
ナトリウム「漏れて当然」、点検漏れ1万件「形式的」、もんじゅ傷口広げたトップ暴言・舌禍…「学者気分はもういらない」周囲は悲鳴
http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/130601/wec13060112000003-n1.htm
2013.6.1 12:00 産経新聞
原子力規制委員会が、高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)の運転再開の準備をしないよう指示したのを受け、運営する日本原子力研究開発機構の理事長だった鈴木篤之氏が5月17日付で引責辞任した。理由は1万点近い機器の点検漏れだが、学者出身の鈴木氏は「形式的なミス」などと原子力を扱う組織のトップにあるまじき発言で批判を浴びた。原子力機構は加速器実験施設「J−PARC」(茨城県東海村)で研究者が被曝(ひばく)し、施設外に放射性物質が漏れた事故でも批判されている。電力関係者からは「学者気分で不謹慎発言をする理事長はいらない」との声も上がる。
■安全軽視
原子力規制委が事実上の運転禁止命令を出したのは、鈴木氏辞任2日前の15日。原子力機構に対する「レッドカード」だった。
重要機器の点検漏れは、旧原子力安全・保安院の昨夏の抜き打ち検査で発覚し、内部調査で膨大な数にふくれあがった。
規制委はトラブル続きの機構の体質を問題視したが、鈴木氏は、規制委の事情聴取に対し、「事故は常に起こりうる。形式的なミスが出るのはやむを得ない」と発言し、事態をさらに悪化させた。安全軽視ととられたのだ。
実は、鈴木氏の“舌禍”はこれが初めてではない。もんじゅでもっとも警戒しなければならない冷却材のナトリウム漏れ事故について、地元・福井県で報道陣に向かって「起こって当然」と発言したことがあった。
■ナトリウム「漏れて当然」
「誤解を恐れずに申し上げるが、(高速増殖炉で)ナトリウム漏れは起きないという方がおかしい」
東京電力福島第1原発事故で、原子力行政が揺らいでいた昨年1月、福井県を訪問した鈴木氏は、報道陣を前にこんな言葉を発した。
詰めかけた報道陣は一瞬、あぜんとなった。
もんじゅは消費量を上回るプルトニウムをつくりだせる「夢の原子炉」として、政府が核燃料サイクルの中核施設として開発を進めてきた。しかし、水を冷却材に使う通常の原発と異なり、ナトリウムを冷却材に使うため危険性は増す。ナトリウムは水や空気に触れると激しく反応し、発火するからだ。
実際、もんじゅは平成7年に配管からナトリウムが漏れ、火災を起こした。
加えて鈴木氏はその日、面談した西川一誠知事から安全対策の徹底を要請されたばかりだった。
「今、当然とおっしゃったのか」。騒然となった報道陣に対し、鈴木氏は「事故は起こると思わなければならない。安全機器が作動し、運転員が対応できるかが肝心だ」と釈明した。
だが、鈴木氏は一連の発言の前に「(ナトリウム漏れは)世界の高速増殖炉で100回以上起きている」とも発言。ナトリウム漏れを軽い事故ととらえる姿勢が透けてみえた。
■学者の思考回路
鈴木氏は核燃料サイクルの専門家。東京大教授(核燃料サイクル工学)などを経て、18〜22年に旧内閣府原子力安全委員会委員長を務めた。委員長時代には、ナトリウム火災で長期停止中のもんじゅに最終的な「安全」のお墨付きを与え、22年5月の運転再開につながった。委員長に在職中、原子力機構の理事長公募に名乗りを上げ、同年8月に就任した。
ナトリウム漏れを軽視する発言について、福井県の原子力担当幹部は「学者がしゃべっていると思えば違和感はないが、組織のトップとして発言するべき言葉ではなかった」と顔をしかめる。電力会社関係者は「おおむね原子力工学の学者や理系出身の元官僚が就くポストで、電力会社のトップに比べて危機管理の意識は低かったのではないか」と分析する。
一方、西川知事は原子力機構の組織そのものに不信感を募らせる。もんじゅを管轄する文部科学省に対し「トップが代わるだけで、組織全体の体質は変わらない」と苦言を呈し、民間からの人材登用を求めている。
もんじゅをめぐる波乱の中、J−PARCでも放射能漏れ事故が発生した。原子力機構の「安全文化」が音を立てて崩れている。原子力機構関係者は「もはや施設の問題ではなく、組織としての安全意識が問われている」と苦しい胸の内を明かす。
安倍晋三首相は核燃料サイクル政策の継続を明言したが、J−PARCの事故で、原子力機構の運営体制が見直される可能性が大きくなった。新理事長は、元原子力安全委員会委員長の松浦祥次郎氏が決まったばかりだが、就任早々、厳しい課題を突きつけられる。原子力機構は、役職員の意識や管理体制など問題点を徹底検証し、抜本的な組織改革を図らなければ、解体もあり得そうだ。
(平岡康彦)