http://zai.diamond.jp/articles/-/146505?page=2」(チャート在り)
■日経平均の暴落を引き金に、米ドル/円が反落
米ドル/円が反落してきた。
前回のコラムで指摘したように、米ドル/円のブル(上昇)トレンドは、長期スパンではまだまだ続くものの、中期スパンでは103円台においてもういっぱいいっぱいであり、調整される運命にあった。
したがって、この値動きに関して筆者は当然視しており、まったくサプライズを感じなかった。
ところで、今回の米ドル/円の反落の、直接の引き金は日経平均の暴落であったことが興味深い。今回の暴落は、実は値幅以上にインパクトを持つものではないかと思う。
■では、日経平均暴落の背景には何があったのだろうか。
いろいろな要素が重なったところも大きいようだが、筆者は 長期金利の上昇がもたらした衝撃と警戒が、5月23日(木)の市況を作り出した最大の「犯人」ではないかと思う。
巷で言う主因であるバーナンキFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言は、表の原因にすぎないかもしれない。
■バーナンキ発言で市場の不安心理が高まったのはなぜか
もっとも、5月22日(水)夜のバーナンキ氏の発言が、マーケットを翻弄したのは確かだ。
バーナンキ氏は「政策の早期終了、景気にマイナス」、「状況に応じて出口政策を模索する可能性がある」といった前後相違の話を展開し、市場関係者の神経を尖らせた。
実際、議会証言の場合、政策変更の余地を残すために、曖昧な言い方をするのが慣例のようだ。今回、緩和縮小に言及したことはバーナンキ氏からみれば一種の「社交辞令」であったにもかかわらず、それは市場関係者に衝撃をもたらした。
なぜなら、現在日米欧の金融相場は、流動性によって支えられていると言っても過言ではないだろうからだ。
流動性を提供してくれる「世界中銀」のFRBがこれから政策変更をする可能性が少しでもあれば、マーケットの不安心理が一気に高まるのも自然の成り行きだ。
何しろ、 市場関係者ほど現在のマーケットの水準が高すぎる、つまり買われすぎであることを知っているからだ。
■株式市場のパフォーマンスから見る日米の温度差
このような状況の中、日本と米国でも温度差があることが、昨日(5月23日)の株式市場のパフォーマンスからうかがえる。
暴落した日経平均に対して、大した値動きを示さなかった米国株式が、両国の状況の違いを暗示。その相違はやはり、 長期金利の上昇に対する警戒の程度差にあるのではないかとみる。
言ってみれば、やれアベノミクスだ、やれ異次元緩和だともてはやされ、日本株は実力以上に買われ、円売りもまた行きすぎていた。
★アベノミクスの副作用、つまり 長期金利の上昇(一時1%を超えていた)がマーケット関係者の頭を冷やし、利益確定に走らせた。
景気が本格的に回復する前に金利だけ上昇したら、元も子もなくなるといった懸念が急速に浮上しているから、バーナンキ氏の発言後、本家より日本のほうがより激しく反応してきたわけだ。
5月HSBC(香港上海銀行)中国製造業PMI(購買担当者景気指数)の下振れ云々はあくまで表面上の材料で、売りに拍車をかけたきっかけにすぎないと思う。
では、本家の米国が割と冷静さを保っているのは…
■米国が冷静さを保っている理由とは?
では、本家の米国が割と冷静さを保っているのは、なぜだろうか。
米景気回復が日本より確実視されていることもあるが、最大の理由は、バーナンキ氏がFRB議長である限り、出口政策があったとしてもかなり慎重に行われるといった信頼感が、どこかにあるからではないかと思う。
米国長期金利も2%の大台を突破しているなか、日米市場の相違が日本市場における心理の脆弱さを浮き彫りにし、アベノミクスに対する疑心暗鬼を物語っている。
投機筋がトレンドに乗って「株買い・円売り」をしていたが、それとアベノミクスの成功への確信とは等しくないことを、今回の騒動で安倍政権もよくわかったことだろう。
第三の矢、つまり構造改革の中身が肝心で、金融政策頼りのみではいずれ限界があることも、今回の株暴落が知らしめることとなった。
■米ドル/円自体が反転のサインを灯していた
それにしても、米「出口」観測は、本来、米ドル高・円安要因である。が、米ドル/円が株安と連動して反落したことはなかなかおもしろい。
米ドル/円 日足
★今回の一件から見ても、 相場というものは調整すべきところが来れば、材料がどうであれ調整してくるし、またその理由づけは、あとになって正しい理由づけとなることが、改めて認識させられる。
要する値動きが先で、材料は後でついてくる、ということである。
前回のコラムでも指摘したように、米ドル/円自体、反転のサインを灯していた。
値動きを見ることに専念すれば、いち早くシグナルを把握し、マーケットの急変に巻き込まれるのを避けられるばかりか、トレードの根拠にもなり、利益の源泉をつかめる。
この場合、往々にして短期間で大きな利益を生むトレードになりやすいが、 肝心なのは急変する前に冷静にマーケットを分析し、巷の考え方に流されないようにすることである。
米ドル/円110円、日経平均2万円台といった大きなターゲットがマスコミの紙面に踊る中、相場の行きすぎを指摘するだけではなく、その逆を張ってみること自体が多大な勇気を要する。
行きすぎた相場は、裸の王様のごとく、純粋な目を持つ少年の喝破なしではなかなか認められないが、事後になっては誰のもとにも明白である。
■米ドル/円はさらに調整を深めていく可能性も
では、米ドル/円の「裸の王様」、つまり行きすぎた状況はどこにあったが、チャートで見てみよう。
このチャートは、5月19日(日)に作成されたもので、バーナンキ氏発言後の高値更新をまだ含めていないものである。
しかし、重要材料であるバーナンキ氏の発言があっても、米ドル/円は 結局2月高値から引かれた抵抗ラインを超えられず、テクニカル上における頭打ちの可能性を証左している。
(中略)
★煮つまりつつあった同シグナルが、“三度目の正直”ならぬ、“四度目の正直”をもって「王様が裸だよ」と警告してくれたので、前述の抵抗ラインと相俟って、バーナンキ氏発言後に絶好の売り場を提供してくれている。
その上、チャート上に記している第5波が、上昇ウェッジというフォーメーションを形成していることも見逃せない。
ウェッジ型の形成は、往々にして反落の確率を増大するパターンとして見られるので、行きすぎた相場の最終波の終焉を示唆してくれている。
★ちなみに、5月23日(木)の反落は、ちょうど同フォーメーションのサポートラインを試しているが、 これから下放れをもって調整を深めていくとも想定できる。
2012年9月を起点とした上昇波が延長されただけに、 いったん調整が始まると、早期終了は期待しにくいだろう。
前述の 上昇ウェッジの下放れがあれば、2013年8月中旬まで米ドルの調整波は続くとみる。(以下略/陳満咲杜)