http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130523-00014057-toyo-bus_all
東洋経済オンライン 5月23日(木)8時0分配信
金融政策の「わかりやすさ」を重視する黒田東彦日本銀行総裁だが、今回は曖昧模糊としていた。22日の金融政策決定会合後の会見で、何より注目されていたのは足元の長期金利上昇に対する黒田総裁の見解だった。
4月4日にブチ上げた金融緩和策では国債の大量買入れで「イールドカーブ全体の金利低下を促す」と宣言したが、むしろ金利は短期から長期まで上昇している。円安と株高が進む中、5月10日以降に長期金利の急な上昇が起きたこともあり、会見での質問は「金利」に集中した。
黒田総裁は長期金利の要素について、?景気回復や物価の上昇見通し、?債券保有に伴うリスク(リスクプレミアム)という二つで形成されていると繰り返し説明。日銀による巨額の国債買入で「リスクプレミアムを圧縮する効果がある」とし、「買入れが進むにつれてその効果が強まっていく」と述べた。要は、日銀が低下を促す金利ははあくまで「部分的なもの」というわけだ。
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■ 結局は金利の上昇を容認?
4日の金融緩和決定以降、銀行の市場運用担当者からは「仮に物価上昇が実現するという見方が強まれば、当然、金利は上昇していく。しかし、日銀は金融緩和で下げると言っている。金利はいったいどちらに動くのか」という声はあった。黒田総裁は会見で、「経済学の理論が教える通り」と断ったうえで、「短期金利のように中央銀行が完全に(長期金利を)コントロールできるものとは違う」とも述べているように、足元の金利上昇をいくらか許容しているとみられる。
従来、日銀は短期金利だけをコントロールし、長期金利の動向は市場機能に任せていた。一方、黒田日銀ではこれまでの緩和策が不十分だとして、短期から長期まで全体の金利低下を促すという未知の領域に踏み込んだ。それがうまくいかずとも、大胆な金融緩和を打ち出したことで人々の期待が変わり、円安・株高から企業業績の改善や個人消費の増加につながっていることに救われている面があるだろう。
そもそも、金利水準に影響する二つの要素を定量的に区別することは難しい。理屈としては、景気回復や物価上昇期待が大きく上昇すれば、日銀によるリスクプレミアム圧縮を相殺して金利が上昇する。黒田総裁は、「今の段階で直ちに金利が上がると見ていない」「大きく金利が跳ねると考えていない」と繰り返したものの、「さらなる金利低下を促す」と踏み込んだ発言はしなかった。
■ 国債市場の安定化には要時間
日銀の予想に反して早々に金利が上昇し続けるようだと、金融緩和の中で住宅ローン金利などは上昇する。超低金利で利払いが抑制できていた政府にとっても痛手となる。金融緩和で”時間”を買っている間は、できるだけ低金利が維持されているほうがいい。
黒田総裁は「金融緩和の3つの波及経路のうち1番目の経路(長めの金利や資産価格のプレミアムへの働きかけ)として重視している。引き続き尽力していく」と述べた。
だが、実務を担う金融市場局ができることは、「全体の金利低下を促す」ことではなく、景気回復や物価上昇期待からくる金利上昇をできるだけ抑制し、市場が混乱しないように円滑に国債の買入れを進めることなのかもしれない。
いずれにしろ、日銀が今回の金融緩和を通じて資金供給量を2年で2倍に増やすため、民間金融機関から膨大な額の国債を買い入れることに変わりはない。日銀は異次元の金融緩和にどのような副作用が伴うのかを、これまで以上に注視していく必要がある。
井下 健悟