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2013/5/21 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
今年1―3月期のGDPが年率3・5%の高い成長率となり、株高に拍車がかかっている。平均株価はきのう(20日)も1万5360円とハネ上がり、また年初来高値を更新した。日本の景気回復に期待した外国人や機関投資家が買いに走っているからだが、国民の間には不安がよぎる。素直に喜べない。それがアベノミクスだ。
株高はうれしいがこんな異次元緩和がいつまで続けられるのか。国債暴落危機はないのか。今の株価が金融緩和によるバブルだとしたら、崩壊後の株価はどうなってしまうのか。あれやこれや、心配の種は尽きないのだが、そんな不安を象徴していたのが、GDP年3・5%増を伝える新聞報道だ。当初、大新聞は1面トップで大きく取り上げ、「アベノミクス効果じわり」「消費・輸出が好調」と持ち上げた。が、一夜明けた朝刊はガラリと論調が変わったのである。
朝日新聞は「景気先行き不安拭えず」と見出しを打ち、設備投資が5四半期連続のマイナスになったことに懸念を示した。読売も「『異次元の回復』とは気が早い」と題した社説で、甘利経済再生相の「異次元の景気回復への歩みが始まった」との自画自賛を批判した。毎日も「政府の新施策、期待は薄く」「続く就職難、デフレ」といった具合で、前日のアベノミクス礼賛報道に自ら急ブレーキをかけたのである。
毎日の世論調査(18、19日)では「景気回復を実感していない」と答えた人が80%に達したが、一体、景気は回復しているのか、ウソなのか。真相を知りたいところだ。
◆設備投資が伸びなければ賃上げも景気回復もなし
実は専門家であればあるほど、安倍バブルを警戒している。黒田日銀の異次元金融緩和の怖さを知っているからだ。彼らは当然、景気回復には否定的だ。この株高はつくられたバブルだ、という見方である。
専門家だけでなく、企業経営者もそう見ている。だから設備投資を増やさない。営業利益が前年比36%増、1兆8000億円に上ったトヨタでさえ、今期の設備投資計画は横ばいだ。ほかは推して知るべしで、どの業界を見渡しても、設備投資額を前年並みに据え置いた企業がゾロゾロ。これこそ、彼らが「景気は回復していない」と見ている証拠だ。景気が回復しているのであれば、今こそ、設備投資を増やさなければ、儲けのチャンスを逸してしまう。それなのに、企業経営者が慎重なのは、景気回復指標も一時的なものだと受け止めているからなのだ。
だとすれば、今後、賃金は絶対に上がらない。実際、安倍の賃上げ要請で期待された春闘はてんで、結果を出せなかった。厚労省がまとめた3月の平均給料は26万7000円で、安倍政権発足直前の昨年12月より700円減ったのである。
経済評論家の広瀬嘉夫氏はこう言った。
「そもそも、全国の企業は270兆円もの内部留保を抱えています。カネは余っているのに、それでも設備投資に回さないのは、何に投じたら儲かるのか、内需は回復するのか、という見通しが立たないからです。安倍政権はそうしたビジョンを示さずに金融緩和をやって市場をジャブジャブにしているが、これでは資金需要は生まれません。企業はますます内部留保を抱え込むばかりで、賃金は上がらず、消費者にカネは流れない。個人消費に火が付き、本格的な景気回復にはつながらないのです」
安倍は企業の設備投資額をリーマン・ショック前の70兆円規模に回復させると言ったが、出足がこれじゃあ夢のまた夢だ。
そのうえ、アベノミクスを危惧しているのは国内の専門家だけではないのだ。英金融大手HSBCの主任エコノミスト、スティーブン・キング氏は、アベノミクスについて「それほど効果がない可能性が最も高い」と切り捨てている。日本経済の長年にわたる不振は「短期的にはそれほど変えられない」とし、「アベノミクスで物価上昇効果は出ても、それに応じた賃金上昇に結びつかない危険がある」と指摘。「賃金の上昇がなければ、経済の回復は得られない」と断じているのだ。だとすると、今の株高は何なのか。単なるバブルということになる。
◆年金積立金で株を大量買いするウルトラCも
それでも、安倍政権は見せかけの景気回復を煽りに煽るつもりなのだろう。
その狙いもハッキリしている。来年4月の消費増税だ。そのために、判断材料となる4―6月期のGDP成長率を名目3%、実質2%まで引き上げなくてはならない。もちろん、株高維持も必須だ。
そのための仕掛けも着々である。13年度予算はすでに大型補正でカサ上げ済み。来月には3本目の矢となる成長戦略をブチ上げる。絵空事のような数字を並べたアドバルーンだ。花火はデカくて派手な方がいいから、こんな“ウルトラC”もささやかれている。
「国民の年金積立金を管理・運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に株式投資の割合を増やすよう迫るのです。GPIFとは、かつての年金福祉事業団で、110兆円もの資金を運用する世界最大級の機関投資家。リスクを避けるために株式投資の運用割合は現在、1割ほどしかありませんが、さらに1割を突っ込ませるだけで、市場には10兆円超の巨額マネーが注がれることになる。成長戦略に“GPIF改革”を盛り込めば、株価は暴騰する。その勢いで、消費を増やし、4―6月期のGDPを一気に底上げしてしまおうというわけです」(金融ジャーナリスト)
株価さえ、つり上げておけば政権の高支持率は維持できる。その勢いで夏の参院選に大勝すれば、あとは数に物を言わせて何でもありだ。
政治評論家の本澤二郎氏が言う。
「10月をめどに判断する消費増税が決まった時点で、首相はもう国民に何も遠慮をする必要がなくなります。任期満了までやりたい放題を始めるでしょう。米国にナショナリストのレッテルを貼られた安倍首相ですから、憲法9条を破壊して軍国化に突き進みかねません。一方、国民生活はインフレに増税がのしかかる。貧者は目も当てられなくなりますが、大メディアはこうしたアベノミクスの副作用を伝えない。国民は何が本当なのか分からないまま、危ない方向に向かって進んでいるのです」
増税が決まれば、直前には駆け込み需要があるだろう。しかし、それが終われば、地獄だ。来年4月以降、日本経済はジェットコースターのように急降下する。気がついたら右傾化だけが進んでいた、なんてことになりかねない。