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2013/5/15 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
トヨタの営業益1・3兆円など大企業の決算が大台となっているが、庶民の暮らしはどうなっている
「アベノミクスはもう半分破綻した」
ついに市場関係者の間から、こんな声が漏れ始めた。世間は株高に浮かれ、メディアはそれをはやしている。「それなのになぜ?」というと、長期金利の急上昇だ。これが止まらないのだ。指標となる新発10年債の利回りは先週末から0・1%ずつ上昇し、サーキットブレーカーが発動したが、きょう(15日)はとうとう、0・920%まで上昇した。
金利の上昇は国債価格の下落だ。それを大量保有する金融機関は1%の金利上昇で6・6兆円の損失を被る。当然、国債を大量発行する政府の財務も直撃するが、問題の本質はここではない。
黒田日銀の景気回復シナリオが完全に外れた。だから、「アベノミクスは破綻」なのである。
「4月に勝ち誇ったような笑みで異次元緩和を高らかに掲げた黒田総裁は、『(長期金利は)跳ねることはない』と自信満々でした。まさかこんな短期間で上昇基調が鮮明になろうとは想像だにしていなかったでしょうね」(日銀関係者)
日銀が大量に国債を買えば、需給関係から国債価格は上がり、金利は下がる。市場はカネでジャブジャブになり、銀行は貸し出しを増やす。金利が低いから、借り手も増える。マネーは設備投資に回り、景気が良くなる。これが政府・日銀の描いたシナリオだった。それがのっけから金利上昇でつまずいたのだ。
新発国債の7割を引き受けるという“黒田バズーカ砲”が、市場の需給のメカニズムをブッ壊してしまったのである。黒田のもくろみは外れるどころか、真逆の結末だから、最悪だ。
◆何もメリットがない金融緩和
「だから、言わんこっちゃないのです。そもそも、超金融緩和だけではデフレからの脱却はできない。これは小泉元首相の時代に証明済みです。日銀はマネタリーベースを35兆円まで積み上げたのに、資金は民間に全く流れなかった。規模の問題ではなく、資金需要がなかったのです。それを黒田日銀は規模の問題だと勘違いし、異次元の緩和に踏み切った。もともと資金需要がないのに、マネーをあふれさせれば、円安・株高になる。資金はそちらへ流れ、国債は売られる。当たり前の話です。それでなくても、日銀の国債大量購入で、市場機能は壊されてしまった。アベノミクスの最大の矢は金融緩和による景気刺激でしたが、マイナス面しか出ていない。だから、アベノミクスは半分破綻も同然なのです」(経済アナリスト・菊池英博氏)
だとすると、一体、何のための金融緩和だったのか。これを問いたくなる。長期金利の上昇なんて、政府にとっても、企業にとっても、住宅ローンに苦しむ個人にしても、いいことはひとつもないからだ。アホみたいな話である。
確かに、円安で大手企業の決算はマシになった。トヨタは営業利益が1兆3208億円。5年ぶりの1兆円超えだ。ホンダの営業利益も去年の2・4倍で5448億円。自動車8社が円安効果で積み上げた利益は、合計2500億円にもなる。電機業界は、ソニーやパナソニックだけでなく、経営危機のシャープも円安効果で今期は50億円の最終黒字の見通しを立てている。
それが平均株価を上昇させているのは確かなのだが、恩恵を受けているのは輸出企業だけじゃないか。このまま景気は良くなるのか、つまり、庶民の暮らしは上向くのか、というと、アベノミクスは厳しい。「半分破綻」なのだから、絶望的になってくる。
◆アベノミクスの負の逆回転が始まるゾ
アベノミクスが実体経済の回復に結びつかなければ、今後は負の側面だけがクローズアップされてくることになる。円安と長期金利の上昇だ。東京商工リサーチ情報本部長の友田信男氏はこう言った。
「輸出企業の決算が良くなったといっても、自動車はまだしも電機は依然として、商品の国際競争力はなく、プラス要因は円安だけです。苦しい大手電機メーカーが黒字見通しを実現するのは容易ではないと思います。加えて、急激な円安は輸入原材料のコスト増につながる。今後はマイナスの影響がジワジワ広がっていくのです。超円安で恩恵を受ける一部企業と、ボディーブローを食らう企業との間で二極化が広がっていく。それが今後、ピークを迎えると思います」
輸出企業にお化粧を施しただけの上っ面の業績回復。これがアベノミクスの真実だ。
これじゃあ、労働者の7割が働く中小企業に恩恵は行き渡らず、もちろん、賃金も上がらない。そこに長期金利の上昇と円安による輸入インフレ、さらに、どうせ実現できっこないが、黒田がシャカリキになっている物価上昇2%が押し寄せてくるのだから、庶民は踏んだり蹴ったりだ。
住宅ローン金利(10年固定)は今月1日、平均0・05%上昇したが、長期金利の急上昇を見て大手銀行は再び引き上げの検討を始めた。円安による輸入原材料の高騰で、小麦粉や食用油に続き、7月からマヨネーズやハム・ソーセージの値上げも決まった。静岡大名誉教授の土居英二氏(経済統計学)の試算では、1ドル=100円の円安で2人以上の平均世帯(年収599万円)は年間9万6000円も支出が増える。これが110円になれば14万2000円、120円なら18万8000円だ。これじゃあ、生活できなくなる。
◆来年の景気は相当冷え込むと専門筋
そこに来年4月からは消費増税なのである。内閣府は、消費税が10%になった場合、モデル世帯(年収500万円の4人家族)で年間11万5000円の負担増になるとハジいているが、もちろん、これは大甘見通し。社会保障アップも含めると、年収800万円世帯で年間43万円の負担増になる、と大和総研は算出している。ちなみにこの試算はアベノミクスによる物価高を加味していない。負担増は青天井ということだ。
「それだけじゃありませんよ。政府は『限定社員』なんていう考え方を打ち出してきていますから、給料は上がらないどころか、雇用も不安定になる。当然、賃金を含めて労働条件は下がります。そこへ物価の上昇、消費増税ですから、デフレ脱却、消費拡大なんてとても見込めません。私は『みなさん、財布の紐を固くして、まだまだ節約した方がいいですよ』とアドバイスしています」(経済ジャーナリスト・荻原博子氏)
こりゃ、景気は来年、相当冷え込むんじゃないか。前出の菊池英博氏もこう言った。
「物価上昇政策で名目GDPは上がるかもしれないが、給料が上がらなければ、消費は増えないので、実質GDPは下がります。たとえ黒田日銀が物価2%上昇を達成できても、実質成長はマイナス2%になるようなものです。消費増税なんて本当にできるんでしょうかね」
それなのに「日本は明るくなった」と強弁する安倍首相の正体は完全に見えた。国民生活を良くしようなんて気はサラサラなく、大企業を儲けさせ、株価を上げればいいわけだ。しかし、そのもくろみにも黄信号。怖いのはアベノミクスの副作用が大きすぎることだ。国民生活はとんでもないことになりかねない。