タイトルは簡単に書きましたが、実際にはかなり込み入った複雑な話の様子です。
まず、最初は普通のウラン燃料で未使用と使用済みの放射能量について、次にMOX燃料について、最後に再処理をした後に残るガラス固化体の放射能ともとになるウラン鉱石の放射能の比較について述べてみます。
1.ウラン燃料について
すべての原子炉で同じことなのですが、核反応が起こると、核分裂が起こり、様々な放射性物質が発生します。これには大まかに分けて二種類あり、比較的半減期の短いもの、つまり半減期が数秒とか数日、または数か月といったものと、比較的半減期が長いもの、つまり半減期が数十年、数百年、または数億年と言ったものです。
半減期が短いとはそれだけ活発に放射線を発するわけで、放射能も一般的に半減期の短いものが強いと評価をします。半減期が長いものはそれだけ放射線を発することが少ないので放射能もそれだけ弱いと評価することが一般的です。
一般的にウラン燃料は原子炉にセットして一月ほど運転すると、半減期の短い放射性物質の量が平衡状態になります。つまり、原子炉にセットして核分裂させるとその瞬間に例えば半減期5秒の放射性物質が発生しますが、5秒後には半分の量に、10秒後には4分の1に、15秒後には8分の1、と言うように減少していきます。もちろん、運転している限り、次々と半減期の短い放射性物質はどんどん発生していきますから、しばらくは消滅する量よりも増える量のほうが多く、それが一か月ほどで増える量と減る量がほぼ同じになり増えも減りもしなくなるのです。
よって、運転を止めた段階で半減期の短い放射性物質はどんどんと減少していきます。半減期5秒の放射性物質なら、その放射能の強さは1分後には4000分の1以下になります。
これが問題をややっこしくしているのです。つまり、いつの時点の使用済み核燃料と比較するのかで、放射能の量がかなり変わってくるのです。
福島第一原発事故のように、まだ動いている原子炉が事故にあうと、半減期が短い、つまり、本来であれば1週間程度そのまま原子炉の中に置いておけば数千分の1に減少してしまうはずの放射性物質がどんどんと環境中に放出され、人体に取り込まれれば、ほとんどは数日で姿をけし、いくらホールボディカウンターでチェックしようとも何も検出されないことになります。
一般的に、原子炉を一年程度動かした直後の放射能の量は未使用のものに比べて10億倍と言われます。多少時間が経過すると一気に減少し、1億倍程度になるとされています。このことから考えても、運転中の原子炉が事故った場合の恐ろしさが分かるでしょう。
なお、日本では使用済み核燃料が安全になるまでに1万年程度、アメリカでは100万年程度かかるとしているようです。これを知って、本気なのかとは思いませんか。千年だってちゃんと保管ができるとは思えません。
2.MOX燃料について
MOX燃料はいくつか種類がある様子です。ここでは、泊原発で使われているプルトニウムの含有量が少ないものに付いて述べます。
MOX燃料は主にウランが核分裂するのではなくプルトニウムが核分裂することで発電します。そのため、発生する放射性物質の性格が異なります。半減期の長い、そして、中性子の発生が多いものになるのです。その代り、ガンマ線の発生はウランの使用済み核燃料よりも減少します。一般的に中性子の発生量は普通のウランの使用済み核燃料に比較して10倍、ガンマ線の発生量は2割程度減って8割程度になるそうです。
このことはとても重大な影響を持ちます。つまり、もし、仮に地下へ埋設処分するとしても発熱量がなかなか減少しないために地上でプールの中に保管して水冷する期間が普通のウラン使用済み核燃料の約10倍必要になるからです。普通のウラン核燃料は30年程度プールで冷やすのです。ですから、MOXの使用済み核燃料は300年程度はプールでの保管が必要になるのです。あるサイトにはMOX使用済み燃料は500年のプールでの冷却が必要になると書かれています。なお、普通のウラン使用済み核燃料は5年から10年程度プールで冷やせば乾式キャスクに入れて地上保管が可能になります。しかし、MOX燃料は中性子を多く出すので乾式キャスクでの保管は基本的にできません。水中での保管が必要であり、それが500年続くということです。
半減期の長い放射性物質が多く発生するため、普通のウラン使用済み核燃料に比べてMOX燃料は無害になるまでの時間が長くかかります。日本の基準で考えても100万年程度とされてしまうはずです。人類が地球上に発生したのが50万年程度前とされるようですから、とても想像できない時間の長さです。
3.ガラス固化体について
ガラス固化体のことについてはあまりよく分からないため、資源エネルギー庁のサイトにある資料をそのまま引用します。簡単に言えば、放射能の強さはウラン鉱石の2万倍で千年後には3千分の1に減衰するということです。千年誰が保管するのでしょうね。
http://www.enecho.meti.go.jp/rw/hlw/qa/syo/syo03.html
製造直後のガラス固化体1本(日本原燃(株)仕様、約500kg)あたりの放射能量は、その元となった燃料の製造に必要なウラン鉱石(1%の品位で約600t)の放射能量と比較して約2万倍(2×10の16乗Bq(ベクレル))になっています。しかし、この放射能量の多くは半減期の比較的短い核種(セシウム-137,ストロンチウム-90,プロメチウム-147,セシウム-134等)が占めているため、比較的早く放射能が減衰し、千年後には製造直後の放射能量の約三千分の一になります。また、数万年後にはその元となった燃料の製造に必要なウラン鉱石と同程度の放射能量にまで減衰します。
なお、それ以降の放射能量は半減期の長い核種(テクネチウム-99,ジルコニウム-93,ネプツニウム-237等)が支配的となり、 ゆっくりと減衰していくことになります。
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【 特集 放射能と放射線『放射性廃棄物』 】
(掲載日:2010年12月6日)
藤村 陽 氏
放射性廃棄物とは
放射性廃棄物とは、不要になった放射性物質そのものや、放射性物質が付着した不要物です。あとで述べるように、放射性廃棄物は、原子力発電に関連するさまざまな施設で大量に発生します。
原子力発電関連以外では、診断などに放射性物質を用いる医療機関からも放射性廃棄物が生じます。また米国、ロシアをはじめ核兵器の保有国では、核兵器製造に関連する施設からも放射性廃棄物が発生します。
さまざまな放射性廃棄物のなかで、発電に使い終わったウランの核燃料(使用済み核燃料)は、放射能が特に強いので、高レベル放射性廃棄物と呼ばれます。図1に示したように、発電をすると核燃料の放射能の強さは使用前の10億倍にもなります(図の1ギガベクレルは1秒間に100億回の放射性崩壊を表す)。これは核分裂によって、核燃料のなかに放射能が強い核分裂生成物などが生じるためです。図1から、高レベル放射性廃棄物は放射能が弱くなっていくのにも長い時間がかかることがわかります。
使用済み核燃料以外の放射性廃棄物は、どんなに放射能が強くても、すべて低レベル放射性廃棄物に分類されます。
図1. 核燃料1トン当たりの放射能の経年変化
放射性廃棄物の処理・処分
放射性廃棄物の処理・処分は、将来にわたって人間の健康に被害を与えるような量が環境中に漏れないようにしなければなりません。そのため世界各国で悩みの種となっています。 放射能が強い原子核を放射能がない安定な原子核に変換する研究もありますが、この方法で放射能をすべてなくすのは不可能です。海洋投棄が検討された時代もありましたが、現在はロンドン条約で禁止されています。結局のところ、放射性廃棄物はすべて埋設処分することになっています。 放射性廃棄物を埋設するのは、原子力発電をした電力会社や放射性物質を使った医療機関ではなく、国が認めた事業者です。日本では、放射能の強さなどに応じて、埋設施設の深さや放射性物質を密閉する厳重さに4 段階のレベルがあります。 放射性廃棄物の埋設処分場は、大多数の住民が最初から立地に賛成するような施設ではないので、簡単に決めることができません。日本でも実際に埋設処分されているのは、原子力発電所の日常の運転で発生する放射性物質に汚染された消耗品や作業着などだけです。最後に述べるように、高レベル放射性廃棄物の処分地は特に難題です。
原子力発電で発生する放射性廃棄物
日本の1 年分の原子力発電で発生する放射性廃棄物のうち、核燃料の製造に関係するものを図2にまとめました。
図2. 日本の1年分の原子力発電で発生する核燃料関連の放射性廃棄物
ウラン鉱山でウラン鉱石を取り出したあとに残るウラン残土、ウラン鉱石の精錬で純度の高いウランを取り出した後に残るウラン鉱滓は、あまりにも量が多く、野ざらしにされます。
精錬されたウランから、核分裂しやすいウランの量を高めたウランを得るウラン濃縮という工程では、発電に使う濃縮ウランの5倍から10倍近い量のウランが廃棄物になります。これは劣化ウランと呼ばれ、核分裂しやすいウランの量が天然ウランよりも減っていて、現在のところ原子力発電には使えません。
日本は大部分の濃縮ウランを購入しているので、ここに挙げたウラン残土、ウラン鉱滓、劣化ウランはほとんどが海外に存在しています。
原子力関連施設では、放射性物質を扱った消耗品や機器など、放射性物質に汚染された雑多な放射性廃棄物が発生します。操業中に放射性物質が漏れる事故やトラブルがあれば、敷地が放射能汚染される恐れがあります。
最終的には施設自体が大きな放射性廃棄物として解体されます。特に発電所では、もとは放射能のなかった原子炉などが、原子炉内で発生する大量の中性子によって放射性物質に変化してしまい、放射能がかなり強い放射性廃棄物になります。
なお、原子力発電所や関連施設の建材などは、量があまりにも膨大なので、放射能が一定の強さ以下ならば、産業廃棄物と同じ扱いで処分できることが法律で認められています。
高レベル放射性廃棄物と再処理
使用済み核燃料は放射能がとても強く、近くに立てば数秒で致死量の放射線を浴びるほどです。そのため使用済み核燃料は、人間が立ち入らないようにして遠隔操作のクレーンで取り扱います。
使用済み核燃料をそのまま廃棄せず、核燃料のなかのプルトニウムとウランを化学的に分離して再利用する場合は、そのための再処理工場でも放射性廃棄物が発生します。再処理工場は放射性物質を大量に含んでいる使用済み核燃料を溶かして、化学的な処理をするので、プラント自体がひどく放射能汚染されます。また規制値以下ですが、日常の運転で発生して外部へ放出が認められている気体や液体の放射性廃棄物の量は、原子力関連施設のなかでは群を抜いています。
再処理をした場合は、使用済み核燃料からプルトニウムとウランを分離したあとの廃液が、高レベルの放射性廃棄物になります。液体のままでは容器を腐食して漏れるなど管理しにくいので、これをガラスと混ぜて固めたガラス固化体を高レベル放射性廃棄物とします。ガラス固化体の放射能の強さは、使用済み核燃料からウランとプルトニウムの分が減っただけで、使用済み核燃料とほぼ同じと考えて差し支えありません。
現在のところ日本は、このプルトニウム再利用路線をとっていますが、青森県の再処理工場はトラブル続きで稼動が滞っています。
高レベル放射性廃棄物の地層処分
高レベル放射性廃棄物の処理・処分は、原子力発電を始める当初から問題視されていました。その方策が確定する前に、世界各国で原子力発電の商業利用が広まっていったため、原子力発電は「トイレのないマンション」と批判も浴びました。 将来にわたって人間による管理を必要としない方策をとるという考えからは、人間の生活圏よりも遠くに隔離することになります。宇宙への投棄はロケット打ち上げに失敗するリスクが大きく、海洋や南極への投棄は国際条約で禁止されていることから、結局のところ、自国の地下に埋設することが、国の代表によって構成される国際的な原子力機関での合意になっています。処分地が決まった国はありますが、埋設はまだまだ先です。 高レベル放射性廃棄物は、地下数百メートルを超える深さへの埋設が計画されていて、他の放射性廃棄物の埋設が地表付近や地下百メートル程度なのに比べれば、ずっと深くに埋設されます。これを「地層処分」といいます。 地層処分施設のイメージを図3に示しました。地下に多数の坑道を掘り、専用の容器に入れた高レベル放射性廃棄物を埋設します。現在の計画では、日本の40年分の原子力発電で生じた高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体に換算して約4万本相当)を1つの処分場に埋設する予定です。
図3. 地層処分施設のイメージ図
高レベル放射性廃棄物は核爆発をおこす恐れはありませんが、長い時間の間に格納容器から漏れ出た放射性物質が地下水に運ばれて人間環境を汚染することや、大地震や火山活動の影響などが懸念されます。そのため、そうした観点から処分場に明らかに適さない場所には処分場をつくらないことにはなっていますし、放射性物質が漏れたとしても、通常の条件ならば人間の健康被害は無視できるというシミュレーションはされていますが、予期せぬ事態がおこらないとは限りません。
高レベル放射性廃棄物は放射能が非常に強いため、埋設まで50年程度は地上で保管して放射能が弱まるのを待ちます。埋設作業も重量物を地下までゆっくり運んでから遠隔操作でおこなうため、ガラス固化体の埋設ペースは1日数本程度で、予定本数の埋設を終えるのに50年程度はかかる長い大事業になります。そのあと10年程度をかけてすべての坑道を埋める予定です。その後の管理や監視は現在から100年も先のことですから、どんな社会や文明になっているかも不確定です。
日本では原子力発電環境整備機構(NUMO)が地層処分の事業者で、2002年から処分地を公募中です。10年以上の時間をかけて段階的に地質などの調査をして処分場に決定することになっています。いくつかの自治体が応募を検討しましたが、応募後に首長が選挙に敗れ、応募を撤回した自治体が一つあるだけで、最も簡単な調査段階にすら進んでいないのが現状です。
調査地区には交付金(現在では第1段階の調査で年10億円、第2段階で20億円、最終段階は未定)が出るため、過疎に悩む小さな町や村で、首長または少数の議員が専行して誘致に動き、すぐに賛否が強く対立することが続いています。
原子力発電は、世代を超えて廃棄物の処理・処分の負担が残ります。高レベル放射性廃棄物の処分地選定が難航している今こそ、処分地に応募しそうな地域の問題としてではなく、原子力発電を社会がどう利用していくのか、多くの人が関心をもって議論していくべきです。
藤村 陽(ふじむら よう) 氏プロフィール
神奈川工科大学 基礎・教養教育センター教授。高レベル放射性廃棄物について、地層処分問題研究グループで活動しています。
Rikatan12月号 より転載
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http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/gat/grp/04/tyuukannhoukoku3_4.pdf
・使用済 MOX 燃料は使用済のウラン燃料に比べ、中性子の線源強度が大きくなるが、燃焼度が小さいためガンマ線の線源強度は小さくなる。
中性子の線源強度は10倍程度
ガンマ線の線源強度は8割程度。
使用済燃料からのガンマ線は、核分裂生成物が主線源であり、ウラン燃料、
MOX 燃料ともに燃焼度が高ければより多くの核分裂生成物が蓄積する。使用済
MOX を使用済ウラン燃料と比較した場合、
- ガンマ線源強度を決める支配的な核分裂生成物(ジルコニウム 95、ニオブ 95、
ランタン 140)の収率は、ウラン 235 よりプルトニウムのほうが低いため、
ガンマ線源強度は使用済 MOX 燃料のほうが低くなる。
- MOX 燃料では核分裂あたりのエネルギー発生量が多いので、燃焼度が同じで
あれば核分裂数は少なくなり、ウラン燃料と比べ核分裂生成物の量も小さく
なるので、ガンマ線源強度も低くなる。なお、今回使用を計画している MOX
燃料はウラン燃料より燃焼度が小さいため、ガンマ線の線源強度は、さらに
少なくなる。
使用済燃料の発熱は、核分裂生成物の崩壊熱(比較的半減期が短い)は使用済
ウラン燃料のほうが大きく、アクチニド(原子番号 90 以上の元素)崩壊熱(比
較的半減期が長い)は使用済 MOX 燃料のほうが大きい傾向にあるため、使用済
MOX 燃料のほうが発熱量の減衰が遅くなるが、使用済燃料が持つ発熱量は燃焼
度と冷却期間に大きく依存するため、MOX 燃料の使用済み燃料であるから発熱
量が特別に大きいというわけではない。
http://www.asyura2.com/13/genpatu31/msg/495.html