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5月1日 東京新聞「こちら特報部」 :「日々担々」資料ブログ
国民一人一人に番号を割り振り、税金や医療などの個人情報を国が管理するマイナンバー法案が、近く衆院を通過する見通しだ。なりすましなどで悪用されるデメリットはそのままに、効果を度外視した巨額の資金が投入されることになる。「プライバシー侵害の違憲性が濃い」との批判の声も上がる中、極めて危険な制度が導入されようとしている。 (林啓太、荒井六貴)
「マイナンバーは公共分野だけでなく、将来は金融分野などにも展開されるだろう」。ある大手IT企業の幹部は、マイナンバー制度導入に伴う巨額市場への参入に強い意欲を示した。
「二千億円から三千億円」。内閣府が見積もる、マイナンバー制度のシステム構築にかかる初期費用だ。さらに、運営や維持でも毎年二百億〜三百億円かかるとされる。これだけの税金が投入されるマイナンバー制度という名の「公共事業」は、IT関連企業にとっては「宝の山」に映る。
政府は、費用に対し、事務効率化などで多額の便益が見込めると説明する。だが、具体的にどれだけの効果があるのか、いまだに示していない。内閣官房社会保障改革担当室の担当者は「紙の文書を減らすことなどで一定の費用削減の効果はある。だが、例えば、書類の申請などで住民が役所に行かないで済むといったような『手間暇』を金額に直すのは難しい」と説明する。
マイナンバー制度に詳しい白鴎大の石村耕治教授(税法)は「マイナンバー制度は、IT関連企業の新たな利権の温床だ」と指摘する。便益があいまいなまま多額の税金を垂れ流すのは、「クマしか通らない」と揶揄(やゆ)された高速道路などの建設とそっくりだ。「制度は将来、行き詰まるだろう。大もうけをするのは、システムの構築や維持に加え解体までも受注することになるIT企業だけだ」
マイナンバー制度は、なりすましで個人情報を盗むなどの被害が広がる可能性が指摘されてきた。個人情報が大量に漏えいする危険性もある。
衆院内閣委員会では、パソコンを持って高齢者宅に上がり込み、「代わりに手続きをしてあげる」と言って、ICカードを盗んで悪用する例が挙げられ、内閣官房の向井治紀審議官は「そのような不正、詐欺事件というのは起こりうるのかなという気がする」と答弁した。
ほかにも、本人になりすまして失業手当の給付を受けたり、番号が流出することで、病歴や収入を知られてしまう恐れもある。
マイナンバー導入のメリットとして掲げていた「脱税や不公平な税の防止」も説得力を欠く。自営業者などの場合、カネの出入りをマイナンバーだけで把握するのは困難だ。所得の正確な把握が無理なことは、政府も認めている。民主党政権で議論されていた低所得者に税金を戻す「給付付き税額控除」についても、自公政権では立ち消えになった。
マイナンバー制度は、プライバシー権を保障した憲法一三条に抵触するという声は根強い。
日弁連は三月、「個人データを生涯不変の一つの背番号で管理し、名寄せや統合して利用することを可能にする制度で、最も枢要な人権の一つのプライバシー権が危機にひんする」と、反対声明を出した。
情報問題対策委員長の清水勉弁護士は「プライバシー保護のため、個人情報をいかに連携させないようにするかが世界的な流れなのに、全く正反対だ。本人の意思とは関係なく、情報を連携しやすくしているのは、憲法に反する」と訴える。
この個人情報の連携(データマッチング)に一石を投じたのが住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)の違憲性が問われた裁判だ。住基ネットは、住民票コード、氏名、生年月日、性別、住所など六情報が登録され、マイナンバー制度の個人番号もこのコードを基にしている。
最高裁は〇八年、住基ネットの情報は秘匿性が高くないことなどを理由に合憲とした。ただ、最高裁もデータマッチングについては、極めて否定的な判断を示している。
マッチングが容易になれば、個人の病歴、年齢、収入、職歴、社会保障給付、家族構成などが、いっぺんに関連づけて把握できるようになる。つまり、個人が丸裸にされる。
利用範囲は当面、社会保障、税、災害対策の公的な三分野に限られている。ただ、法案には「行政分野以外での利用の可能性を考慮する」と将来的に、民間分野での利用にも拡大する可能性にも言及している。
民間企業が個人情報をマッチングすれば、例えば、ネット通販で書籍を購入した場合、収入や生活実態まで把握され、知らぬ間に、広告宣伝や商品の売り込みに利用されてしまうこともあり得る。
個人情報の制度に詳しい上智大の田島泰彦教授は「本人が知らないところで、情報が扱われてしまうことにならないか。歯止めや際限がなくなる。犯罪歴なども登録される可能性もある。国民のデータベース化だ」と憂える。
個人の尊重をうたう憲法一三条は、自民党の憲法改正草案では「公益及び公の秩序に反しない限り」という制約がつけられた。
田島教授は「政府が『マイナンバーは、公の秩序を体現している』と言えば、憲法上も批判できなくなる」と危惧する。
田島教授は、自民党草案の一九条の二で「何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、または利用してはならない」と、新規に規定したことも批判する。「国民に個人情報の不当利用を禁じる一方で、国の不当利用は縛られていない。国がプライバシー権を侵害することを想定していない。マイナンバーと自民党の憲法改正草案はセットになっている」
<デスクメモ> 憲法九条よりも一三条は、ある意味、重要かもしれない。個人の尊重は、現行憲法の核心部分ではないだろうか。自民党の改憲草案は、それを管理統制型に近づけようとしている。国家権力を憲法が縛る立憲主義とは真逆の発想だ。マイナンバー制度はその露払いでもある。もっと国民的議論が必要だ。 (国)