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2013/4/16 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
米財務省が日銀緩和策にイチャモン
「黒田バズーカ砲」なんて大袈裟なネーミングまでついた日銀の金融政策が危うくなっている。米財務省が為替報告書で日銀の円安誘導を警戒していることが12日に明らかになり、きのう(15日)の東京市場は一転して円高、株安の流れとなった。
報告書は日本に対し、「競争的な通貨切り下げを慎むように引き続き迫る」としている。「為替レートを目標にしない」としたG7の共同声明についても、「堅持するよう迫っていく」と強調した。
米国がこんな態度なら、ほかの国も声を上げやすくなる。18日からワシントンで開催されるG20財務相・中央銀行総裁会議で、日銀の黒田総裁は袋叩き必至だ。せっかくの世界デビューが、散々なことになりそうである。
法大教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「もともと米国は安倍政権を歓迎していません。安倍首相が2月に訪米したときは、出迎えも晩餐会も共同記者会見もなかった。異例の“3なし”です。安倍首相の歴史認識や近隣諸国への強硬姿勢がオバマ大統領との距離を遠ざけている。安倍首相もそれを分かっているから、『日米同盟の強い絆が完全復活した』と必死にアピールしたのでしょう。経済政策についても、懸念を抱いているのは明らかです。かつて、日本の金融緩和によって行き場を失った円は、投機マネーとして米国に流れ込み、住宅バブルを煽った。その結果がリーマン・ショックにつながっている。二の舞いは避けたいはずです」
黒田は、市場や経済の「期待」を抜本的に転換すると公言。企業や家計に、インフレが来ると思い込ませようと画策した。その国民をペテンにかけるような手口は、米国の横やりで、ご破算になりそうである。
◆市場にノーを突き付けられる円安誘導
仮に、政治的な圧力から逃れられたとしても、第2のハードルだ。マーケットにノーを突き付けられる公算は大である。
「昨年秋から、米国の長期金利は上がり始めています。キプロス危機などで資本が米国に回帰し、一時的に上昇は止まっていますが、いつまでも抑えられるものではありません。金利が上がれば債券市場の相場が崩れ、米国債が下落します。そうなれば、日本の投資家は安心して投資できなくなる。今は米国債に向かっている円は国内に滞留し、円を売ってドルを買う流れが止まってしまう。
政府日銀の思惑は、大きく外れることになります」(東海東京証券チーフエコノミスト・斎藤満氏)
アベノミクスとやらを主導した円安政策は、すでに限界なのである。
◆成長戦略を台無しにする安倍自民党
そうなれば、この国の景気、経済、株価はボロボロだ。経済ジャーナリストの荻原博子氏が言う。
「金融緩和政策は経済にとってカンフル剤に過ぎません。前総裁の白川さんも打ってきました。それでも効かないからと、黒田さんは薬効成分を大幅に増やしたのです。これをずっと続けられるのならいいでしょうが、いずれは投与できなくなる。発行する国債の7割を引き受ける政策を永遠に続けられるわけがないのです。病人は薬が切れるとガックリとくるもの。大事なのは効き目があるうちに元気を取り戻すことです。必要なのは、やはり成長戦略。実体経済を上向かせる政策です。ところが、これが心もとない。おぼろげながら見えているのは、新エネルギーや介護、医療など、使い古されたプランの表紙を変えただけのものばかり。しかも、例えばエネルギーの分野では、肝心の発送電分離を大きく後退させています。これでは参入する企業は出てきません。規制緩和を進めると言いながら、新ビジネスのチャンスを潰し、設備投資の拡大を妨げているのだからムチャクチャです」
12日に都内で講演した黒田は「経済が拡大し、物価が上がるためには、設備投資が決定的に重要だ」と強調していた。それを安倍自民党はセッセと摘んでいる。これでは経済が上向くわけがない。せっかく明るさが見えそうな景気も、上向いてきた株価も急降下だ。
◆黒田日銀が壊した債券市場
黒田は移動の飛行機の中でも経済の専門書を読み耽っているという。寸暇を惜しんで知識を吸収する勉強家らしい。さすが元財務省のエリートである。しかし、それだけに市場の修羅場を知らない。「しょせん官僚上がりの理屈屋にすぎない」(大手証券)という蔑みの声も聞かれるほどだ。
「日本に都合のいいように、エゴイスティックにやっても何とかなると思っているのでしょうが、相場を知らなすぎます。日銀が大胆な金融緩和を決定した翌日、長期金利は史上最低の0・315%をつけています。その後、0・6%台まで上がった。債券市場はボロボロなのです。黒田総裁は、分かりやすい政策を標榜していますが、マーケットは日銀に不信感を強めている。日本は米国の3倍もの緩和を実施するのです。FRBがGDPの2割の資産を買い上げているのに対し、日銀は6割まで引き上げる予定。当然として出口論があるはずだが、考えている様子もない。非常に無責任に映ります。『いい加減にムチャはやめて欲しい』という市場関係者は多いのです」(斎藤満氏=前出)
たとえ国際政治とマーケットの壁を切り抜けられたとしても、手ごわいのが世論だ。株価上昇でマインドはふわふわとしているが、気が付けばガソリンも電気代も食料品も値上がりしている。「円安は悪いことばかり」と気づけば、安倍や黒田に批判は集中。2人の立場もグラグラになる。
とりわけストレスに弱い安倍の体はパンクしかねない。鬼門の参院選で、再び何もかも放り出すなんて事態も考えられる。
円安政策は失敗が目に見えている。成功したところで結果は同じ。国民の信頼を失った政府と日銀に未来はない。