「年間5mSv程度であれば心配には及ばないと、回答者は考えます。なぜなら、原爆被爆者をはじめとする大規模な疫学調査でも100mSv以下の被ばくによる影響は認められておらず、世界を見渡せば年間数mSvの自然放射線を受けて普通に生活している人たちがいるからです(これらの人々についても疫学調査が行われていますが、がんの増加は観察されていません)。余計な被ばくはしないにこしたことはありませんが、今回の場合、ご実家で安心して出産に臨むことのメリットの方がはるかに大きいのではないでしょうか。」
専門家が答える 暮らしの放射線Q&Aから
http://radi-info.com/index.html@p=3761.html
福島県在住 30代 会社員 女性 の方からいただいたご質問
現在福島市に住む妊娠5カ月の妊婦です。妊娠を気に実家のある福島市へ戻りました。
まず食べ物として福島産(自家栽培含む)のものは避けた方がよいでしょうか?また胎児への放射線の影響はどうでしょうか?(ダウン症や奇形児の確率はあがるのでしょうか?)今の福島市の放射線現状とともに回答頂ければと思います。
回答掲載日:2012年9月24日
まず福島産の食べ物についてですが、避ける必要はないと回答者は考えます。現在、各地域で食品に対する放射性物質の検査が行われており、基準値を超えていないもののみが出荷されることになっています。昨年度までの基準値は、1年間の食品摂取による内部被ばくが5mSvを超えないように設定され、平成24年4月より施行された新たな基準値はさらに厳しく、1mSvを超えないように設定されています。現実には基準値いっぱいの食品ばかりを摂取するわけではないので、実際の内部被ばく線量はもっと低い値になります。例えば、厚生労働省が行った調査によれば、福島県内で流通している食品を摂取した場合、昨年度の時点でも1年間の食品摂取による線量は0.02mSv程度と推計されています。
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/120412_1.pdf
自家栽培の野菜等については、自家消費野菜などの放射能簡易検査を福島県消費生活センターが行っています(参考3)。公開されている検査結果の多くは検出限界以下であり、基準値を超える値も出ていません。ご心配であれば、実際に検査を依頼してみてはいかがでしょうか。
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=26498
次に外部被ばくについてですが、文部科学省のサイトで福島市の空間線量率を見ると、高い場所では1.5μSv/h程度の値が散見されます。
http://radioactivity.mext.go.jp/map/ja/area.html
仮に1.5μSv/hの場所で生活し、1日のうち8時間を屋外、16時間を屋内で過ごすとすれば、1年間の外部被ばくは4.7mSvと計算されます(福島県の県民健康管理調査における外部被ばく線量の推計と同じ方法で、木造家屋に対する係数を用いて計算しています)。
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/231213senryosuikei.pdf
このように、福島市内で生活した場合の年間の被ばく線量は、多めに見積もって5mSv程度です。放射線の影響を考える場合には、あくまでこの数値との比較で考える必要があります。
放射線の影響には、@ある一定レベル以上の被ばくを受けないと発生しない影響(確定的影響)と、Aどんなに低い線量でも発生する可能性がゼロではないと考えられている影響(確率的影響)があります(http://radi-info.com/q-1301/)。
妊娠期間中の被ばくによる奇形の発生は、@の確定的影響のうち、最も低い線量で生じる可能性があるものの一つです(http://radi-info.com/q-1636/)。それでも、妊娠初期(具体的には受精後3〜8週の間)に、最低でも一度に100mSv以上の被ばくを受けない限り、奇形は生じないため、ご質問の状況では、被ばく線量、妊娠時期のどちらの点においても問題にはなりません。
また、ダウン症は、初期の受精卵または受精前の卵細胞・精子に異常が起きない限り生じることはありません。現在、妊娠5カ月ということですので、今後の被ばくがダウン症の原因になることはありません。
Aの確率的影響としては、がんと遺伝的影響があります。これらについては、理屈の上では可能性はゼロではないことになりますが、年間5mSv程度であれば心配には及ばないと、回答者は考えます。なぜなら、原爆被爆者をはじめとする大規模な疫学調査でも100mSv以下の被ばくによる影響は認められておらず、世界を見渡せば年間数mSvの自然放射線を受けて普通に生活している人たちがいるからです(これらの人々についても疫学調査が行われていますが、がんの増加は観察されていません)。余計な被ばくはしないにこしたことはありませんが、今回の場合、ご実家で安心して出産に臨むことのメリットの方がはるかに大きいのではないでしょうか。