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2013/4/5 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
出戻り安倍首相がなぜ好意的に扱われているのか
黒田日銀が別次元の量的緩和に踏み切ったことで、円安が進み、株が上がった。きょう(5日)午前の日経平均は大幅に上昇し、08年8月29日以来ほぼ4年7カ月ぶりに1万3000円台を回復。円は97円台に入り、3年8カ月ぶりの円安水準だ。さあ、安倍内閣の閣僚の喜ぶこと。
「今やれることを全部やった。それが(市場の)評価につながった」(麻生財務相)、「(100点満点にすると)110点くらいあげたい」(甘利経済再生相)と大騒ぎだ。
そりゃ、株は下がるより上がる方がいいに決まっている。しかし、それをもって、みんながみんな「アベノミクス万歳、万歳」と言うのは不気味だ。
日銀が違う次元に踏み込んだ「危うさ」が株高で忘れ去られてしまっているからだ。経済ジャーナリストの有森隆氏は「戦争みたいだ。経済戦争ですけどね」と言った。冷静に考えれば、危うい戦いに入り込んでしまったのに、株高で無邪気に浮かれる状況が、先の戦争を想起させるということだ。
それでなくても、株高で庶民の懐が潤うわけじゃないのである。
「米国民は資産に占める株式投資の割合が3割を超えています。預貯金は少なく、15%前後。それに対して、日本は株式投資はたった3%。預貯金が6割近くになる。日本では株が上がっても、国民にはあまり関係ないのです」(市場関係者)
◆生活必需品だけがモーレツに上がる
さて、株高の代償は2%の物価高だ。株が上がっても庶民のサイフは変わらないが、その代わりに物価が上がる。それもひどい物価高になる。黒田日銀は2%物価高を絶対使命にしているが、全部の品目が平均して上がるわけではない。上げやすいものを上げて、全体の帳尻を合わすのだ。
東洋経済3月9日号には東短リサーチの加藤出チーフエコノミストの興味深い調査が出ている。米国では10年間で2%の物価高になったが、グローバル競争が激しい自動車やテレビは価格が下がった。ベラボーに上がったのは公共料金や食料品、大学授業料やガソリン価格だったのだ。それも食料33%増、公共料金32%増、大学授業料98%増、ガソリン206%増。日本でも黒田が何が何でも2%の物価高を達成しようとした場合、これらのモノが猛烈な勢いで上がっていくということだ。
もちろん、庶民は干上がってしまうが、大マスコミはこうしたアベノミクスの「負」の側面をてんで書かない。ここがおかしなところだ。
「書かないどころか、花見をしている庶民にマイクを差し出し、去年より弁当が豪華になりましたね、とか水を向けている。アベノミクス効果で景気が回復しているという演出に懸命なのです。庶民の懐はまったく増えていないのにおかしなことです。そこまでして、権力に迎合したいのですかね」(元NHK政治記者で元椙山女学院大教授・川崎泰資氏)
それなのに庶民は怒らない。花見で飲んで浮かれている。強烈な違和感を覚えるのだ。
◆なぜ、この業況判断で景気回復と書くのか?
大マスコミのおかしさといえば、日銀短観の報道もそうだ。「景況感が改善」「大企業3四半期ぶり」(日経新聞4月1日付)なんて、こぞって景気回復を煽(あお)っていたが、よくよく見れば、改善どころの話じゃない。業況判断指数(DI)は鉄鋼が前回調査よりも10ポイントも悪化して、マイナス38。中小企業の製造業はマイナス19で5四半期連続悪化。大企業製造業だって、前回より4ポイント改善したものの、依然として、マイナス8なのだ。だから、翌日の株価は大幅に下げた。アベノミクスといったって、期待先行、実体経済はまったく良くなっていないことが露呈したのに、大マスコミはそう書かない。あたかも大企業を中心に景気が上向いてきたかのように書くのである。
これって一体何なのか。前出の有森隆氏はこう言った。
「世論を誘導しようとしているのでしょう。大マスコミの使命は、アベノミクスの危険性を含めて多角的に検証することなのに、その役割を放棄している。非常に危うさを感じますね。現場の記者に聞くと、そうした批判的な記事は上から封印されているかのような印象も受ける。そうまでして、政権にこびるのは、消費税導入の際に新聞に軽減税率を適用してもらいたい、などの下心があるとしか思えません」
加えて、こうして景気回復を煽れば、庶民も「いつか恩恵がある」と期待する。賃上げを先延ばしにしている企業への批判をかわせる。そうやって、利益を確保した企業は宣伝費を使う。それが大メディアに流れていく。こうしたスケベ根性が働いているのも間違いなかろう。
◆ロコツな情報操作が行われている
一方、こんなふうにメディアが景気回復を演出してくれれば、安倍政権にとっても願ったりかなったりだ。
出戻りで難病を抱える安倍に高支持率が集まっているのは、すべて景気回復期待である。安倍にしてみりゃ、ここでアベノミクスの危うさを書かれたらたまったもんじゃない。だから、御用メディア大歓迎。というより、安倍にとってはメディアを操作することが極めて重要なミッションになるのである。元財務官僚で「リフレはヤバい」の著者、慶大大学院准教授の小幡績氏はこう言った。
「アベノミクスで株高になっていますが、実体経済を表す数字で良くなったものはほとんどない。期待が先行しているだけです。そんな中、日銀は大胆な量的緩和を打ち出した。いま、考え得るすべてのカードを切ったように思います。それでも景気が回復しなければどうするのか。もうカードはありませんよ。今後はどうするのだろう、というのが実感だし、日銀も安倍政権も正念場だと思います」
これが冷静な学者の見立てなのである。だとすれば、ここはメディアに目いっぱい煽ってもらわなければ困るのだ。そうやって、見せかけでもなんでもいいから景気回復の期待を持続させれば、参院選までゴマカせる。そうなれば、選挙に勝てる。これが安倍の思惑だ。
「それだけに安倍政権はメディアの報道姿勢を細かくチェックし、大きな関心を払っています。もちろん、情報操作もする。長嶋、松井の国民栄誉賞は4月1日のニュースでした。この日は『きょうから各種値上げ』のニュースがあふれるところだったのが、国民栄誉賞一色になった。永田町では官邸の演出という見方が出ていました」(政治評論家・野上忠興氏)
やはり、そういうことなのだ。それなのに、株高を無邪気に喜び、安倍政権の経済政策に期待している庶民は本当に甘い。そうこうしている間にインフレと増税が重なり、気がつけば、身ぐるみ剥がれるようなことになる。その時に気づいてももう遅い。